疑惑は晴れない
授業が終わり、雪崩のように生徒が教室から出ていく。
ゼロはニーナとの会話に夢中になっていた。
ニーナがゼロに積極的に話しかけ続けたのが功を奏したのか、ゼロはニーナに対し少しずつ心を開いているようだった。
邪魔しては悪いと俺は人の流れに合わせて教室を出る。
その後を追ってニアが話しかけてくる。
「あの人たちなんなの?態度もやたらデカいし。今度あったらぶっ飛ばしてやろうかしら」
ニアは少々怒り気味に話す。さっきの件で相当頭にきているのだろう。その気持ちもわからなくは無い。
「奴らは軍人じゃないからな。元々ここに来るのも本意ではなかったんだろう」
「だからってあんなに暴れることないじゃない。私たちのことも見下すし....」
ニアは納得いかないという表情で地面だけを見ていた。
ただ今回に限っては怪我人は出ていなし、野蛮な衛兵といえど、生徒や俺たちに対して手を出しはしなかった。まあ本人がどういうつもりだったのかは分からないが。
そして俺は一つ気になることがあった。それは奴らがほのめかした内通者のことだ。
奴らはやたら内通者のことを意識していた。ガレルのあの口ぶりから恐らく、学園内の内通者を探すよう上から彼らに直々に指示があったのだろう。
「ニアはいると思うか?」
「何が?」
ニアは俺の質問に対して、キョトンとしていた。その顔は嵐が来る前のアサガオのように不安げだった。
「内通者だよ。ガレルが言ってた」
「あー、それね。あの副学園長の顔からしているんじゃないかしら」
「まあ確かに慌ててる感じがしたな」
「ただなんでこんな学園にその呪詛学会...だっけ?の内通者がいるのかがわからないのよね」
前にサラから聞いた話だと、この学園には巨大な魔道具が隠されており、それを狙ってるらしいが...。現物を見た事はない。
そもそもこの学園のこと自体よくわかっていない。学園長が創り出したことぐらいしかな。
「それで私たちはどうしたらいいの?」
「そうだな...。俺らの方も怪しい人間を探してみるとか、か?」
ニアは何か嫌なことを思いついたような顔をしていた。
「怪しい人...。ギル先生とかなんでこんな時に休職届を出したのかずっと疑問に思ってたけど、まさか?」
確かに休職自体は何も怪しくはないが、あの任務の後となると話はだいぶ変わってくる。
ただニアはそこまで深くは考えていないのだろう。ギルの突然の休職に違和感があるだけ。
「断定は出来ないが、怪しいことは怪しい。周りが内通者のことで騒ぎ出したタイミングで消えてるわけだしな。だが、もし仮にギルが黒だったとしてももう遅いだろ。今のこの休職期間は逃げるのには十分すぎる」
「そっか.....だよね。でももしそうだとしたら動機はなに?」
俺はそこで考え込む。
確か呪詛学会は魔女崇拝に重きを置いていたはず。ならギルがそこに入るのは筋違いじゃないのか.....?
「.....わからないな。あいつはかなりの女嫌いだったはずだ。それなのに魔女崇拝する集団に入る理由が見当たらない」
「呪詛学会は魔女を崇拝しているの?」
「聞いた話だとな。始祖の魔女、だったかな」
「始祖の......魔女?」
ニアは何か引っかかったのか、考えるように遠くを眺める。
その目に光が宿ってないことに俺は強い不安を感じた。
「どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。ここの書庫でそんなような記述を見た気がしたから、考え込んじゃった
」
「そうか」
「とにかくギル先生とは決めつけずに、私たち自信が他の人に目を光らせないとね!」
「そうだな。まあ俺らがやらなくても、あの衛兵共がやってくれるさ」
「それは少し気に入らないけど、まあそれはそれで仕方ないわね。それじゃあまた授業で」
「ああ」
ニアはそのまま職員室の方へと足早に去っていった。
ギルと呪詛学会、か。
俺はその二つを頭の中で繋げてみる。だが、どうやっても結びつかなかった。
確かにあいつは良い奴とは言えないが、そんなことをするようにも思えないのだ。 と、考えてみるもそれもイマイチしっくり来ない。
ただ何かはしている、という強い予感がさっきから頭を離れない。
「はぁー」
俺はため息と共にその濃霧のような見通しのない問に蓋をした。
◇ ◇ ◇
あれから少し経ち、学園内でガレルやフローラの姿を見ることがなくなった。恐らくエリーゼの指示だろう。
学園内は平穏そのもので、特に何も起きていなかった。またその雰囲気にようやく慣れてきたのか、ゼロも少しの間なら一人でいても大丈夫になってきた。
ゼロも大分魔法の基礎が根付いてきたし、これから中級魔法を教えていく形にするかな....、いやまだ早いか?もう少し様子を見た方が....。
そんな考え事も束の間、気づけば目的地に着いていた。
人気のない閑散とした場所。このにいると学園の中だということをついつい忘れそうになる。
いつもは静かなはずの部屋、中から異音が響いている。
俺は腕を確認する。血管の表面にある色素を魔法でいじってあるため、俺の腕は普通の人と何ら変わりない色をしていた。しかし一度その魔法が解けると、俺の腕の見るに堪えない黒々しい様相が露になってしまう。
ただ今回もしっかりと魔法で何重にも腕を覆っているので大丈夫、なはずだ。
俺は一通り最終確認を終えた後、中を確かめるべく、扉を開ける。
「リン、入るぞ」
開けた瞬間、閉じ込められていた音が外へ飛び出してきた。
「なぜ俺の幻影魔法が見破れるんだよォ!!!」
それがガレルの声だと分かるまでに少し時間がかかった。




