内通者は学園の中に
「元はと言えばあなた方の不手際でこうなったのでしょうが!!」
「不手際だぁ!?へっぽこの兵隊がただ勝手に死んだだけじゃねえか。それを信用したお前らの方がよっぽど頭がクソだろ!」
「もう、なんですぐ喧嘩に始めちゃうんですかぁ」
「そもそもここのヤツらが腑抜けすぎるんだよ。女はどうせ結婚して子供産んで魔法なんて一切触れなくなるのが関の山だからまだいい。だがな、男は仮にもこの国を背負っていくんだろぉ!?」
「急に話を大きくしないでくださいよ。それに女性だって私みたいに強くなれますよ?」
「そんなことは聞いてねえ」
そんな口喧嘩をしながらも、ガレルは容易く副学園長の手を襟首から外した。
「とにかく一回落ち着いてくださいよ」
「そうですよ。こっちは私に任された大事な授業の途中なんですよ?」
ガレルはやはりまだ気に入らないことがあるようで周りを睨みつけていた。
「フン。結局、女は弱い。軍にいたっていう噂のエース以外はな。それなのにそのエースまで何くたばってやがんだ。これだから軍に女を入れるのは反対だったんだ」
「彼女はまだ死んでませんよ。あの作戦よりも大分前に自主退役してますし。それに私は弱くありません」
「とにかく授業の妨害はやめてください!うちの未来ある男子学生が可哀想だ」
副学園長がそこで無理やりガレル達の会話を遮る。相当頭にきているのか、副学園長は茹でダコのように真っ赤になっていた。
ニアはその会話を聞いて眉間にシワを寄せるも、じっと堪えていた。それでもニアもまた相当怒っているのが伝わってきた。
「そういやこの学園に呪詛学会の内通者がいるって聞いたぜ?」
突然の話題の転嫁で副学園長はぎょっとしているようだった。恐らく、この話は生徒の前で出す予定はなかったのだろう。
「そ、その話はここでは....」
「別にいいだろ、そんぐらいよ。んでどうなんだ、誰か目星はついてんのか?」
「・・・」
副学園長は黙ることしか出来なかった。
その様子を見て、教室内がざわつき出す。
たちまち至る所でその内通者についての噂や憶測が飛び交うようになる。
本来、表に出ることがなかった話がガレルによって煽られる。教室は案の定小さなパニックを起こしていた。
このままでは収拾がつかないと考えたのか、副学園長は教室中に私語を辞める様、怒号を響かせた。
しかしそれもガレルの言葉で無力化される。
「俺は教師、果ては生徒まで全員を疑っている。この国を脅かすものは許しはしない。見つければ即刻その首を俺がはねてやる」
やり方はともかくとして、ガレルの言っていることはもっともらしかった。疑うべきは全てだ。
ガレルは全員を見定めるかのように辺りを見回し始めた。
やがてその視線が一点で止まる。その先にはゼロがいた。
ゼロは蛇に睨まれた蛙のように固まる。
「お前やけに小さいな。さっきからなにか脅えるているようだし目も人と違う。どこか匂うな....まさかお前が内通者か?」
まずい....。ゼロの人見知りではまともな受け答えは期待できない。万が一、それが裏切り者のボロだと断定されれば.....。
兎に角を注目をそらさなければならない。俺がそう思ったのと同時にニーナが動いた。
「あのー、早く授業を再開して欲しいんですけど。それとあなた、さっきから唾がこちらに飛んできてとっても汚いです。ですから口を閉じてくれませんか?」
ニーナがやや挑発気味にそう言い放った。
それを聞いてフローラが途端に吹き出しケラケラと笑った。
「あはははは。そうですよ。彼女の言う通り早く黙ってくださいな、ガレルさん」
「ひよっこ生徒が俺に偉そうに指図するな。お前を今から内通者として判断して裁いてもいいんだぜ?」
「それはご自由に。私には守ってくれる頼もし〜い人がいるので問題ありません」
そう言ってニーナはイタズラ気味にこちらに一瞥を与えた。
いつもなら怒るところだが、今回ばかりはニーナの度胸に感謝するしかない。ニーナがいなければ、ガレルの注目がゼロに集まったままだっただろうからな。ただあんまりこちらを当てにされても困る。
俺はそう思いながらも目で肯定してみせた。
「へぇー。そいつは面白い。その頼もしい奴に会ってみてえからお前を今からボコす、文句はねぇよな?」
その言葉を言い終える前に俺は話を切り出した。
「いい加減やめにしましょう。そもそもあなた方の仕事は外からの敵に対処することではないのですか?」
「誰だお前?.....まあ答えてやる。外からも中からも関係無い。敵は全員ぶっ殺す。だからこれも俺の仕事だ」
「しかし少なくともその生徒はその敵に含まれない」
「....グルか。ならお前もボコる」
「どうぞ。けどうちの大事な生徒にいかなる理由においても手を出すことは許されない。それはこの学園が生徒全員に保証していることのはずです」
「なら教師には手を出しても問題ないんだな?」
ガレルはこちらを睨みながら距離を詰めてくる。どうやらやる気らしい。
しかし幸いなことに俺の体にはステンノがいる。前の戦いで分かったが、俺の体はステンノのおかげでかなり頑丈になっていた。そのため俺には抵抗する必要がなく、しかもその飛び火が他のものに行く心配もないのだ。
たとえ殴られようが蹴られようが、今の俺なら大丈夫なはずだ。
大丈夫なんだろ?
【大丈夫だけど常にそのスタンスでいて欲しくはない。危機管理能力が薄れる】
分かった、気をつけるよ
俺が黙って両頬を差し出していると、俺とガレルの間に我慢できなくなったらしいニアが割って入った。
「なんでそうなるんですか!?ここで戦闘なんて始めないでください」
「お前もグルかよ。まとめて半殺しにしてやる。そのあと尋問してもう半分も殺す」
ニアが間に入ってもガレルは止まろうとせず、真っ直ぐとこちらに向かってくる。
「ちょ、ちょっと!?」
その反応を予期していなかったのか、ニアは驚きを隠せないでいた。
俺もまたそれを見て、自分から向かっていくことにした。それに対してニアはさらに驚く。
「アルフ先生までなんでよ!?」
「上等じゃねえか。かかってこいよ、へぼ女教師」
ガレルは煽るようにそう吐き捨てた。
向かってくる中で目に入るのはガレルの魔力が集中している場所だった。
手、足、目、腹、腰の部分にそれぞれ魔力が集中しており、全身にバランスよく魔力が振り分けられているように見えた。また魔道具を持っているようにも見えない。
それから察するにガレルは魔道具や詠唱による攻撃ではなく、サラのような身体強化系の魔法を使ってくるようだ。
いずれにしても魔法による攻撃でも俺の体は耐えられるはずだ。
あとは上手く受身を取れるように準備をしておけばいい。
俺は久しぶりには臨戦態勢に入った。と言っても基本はひたすら耐えるだけだが。だからむしろ俺は自分の痛覚との闘いになるだろう。
俺たちがちょうどお互いの間合いに入り、ガレルの蛇のような目が俺を捕らえた時、勢いよく教室の扉が開かれる。
そこで張りつめた空気が一気に外へと出ていく。
「はい、そこまでー!」
そこに居たのはエリーゼと学園長だった。
どうやら俺達が言い争っている間に、隙を見て副学園長が彼女らを呼びに行ったらしい。
「何事ですか、これは?」
エリーゼはメガネの奥でニコニコとこちらを見ている。そこには前と同じ笑顔が雑に貼り付けてあった。
エリーゼが生み出す雰囲気と教室内の雰囲気は不協和音のように噛み合わない。温度差がありすぎるのだ。
「なんだよ、俺は今内通者を裁こうとしている最中で忙しい」
「私は関係ありませーん」
フローラはいち早く戦線離脱を宣言した。
「内通者とは?」
「こいつとこいつとそいつだ」
「根拠は?」
「俺に刃向かったんだよ、それで十分だろ」
「はぁー」
エリーゼは深いため息と共に初めて笑うのをやめた。メガネが光を反射しているせいで、彼女が今どんな目をしているかはわからない。
そこでさっきまであった違和感は立ち消えていった。
「これは契約違反では?」
学園長がそこで初めて口を開く。
「そうですよ。学園内のことについて、こちらから干渉しないのは約束だったはずですよね?ガレルさん」
「知らねえよ、んなこと」
「あなたは外敵を駆除すればいいのですよ。内側の敵を殺るのは私の仕事です。今日はもういいですからこの教室からは出ていってください。これが守れないようなら国の護衛すら任せられませんよ?」
国のことがチラついた瞬間、ガレルの顔色が大きく変わった。
「........、クソ。悪かったよ、出ていけばいいんだろ?ほら行くぞ、フローラ」
「ええ。私関係ないのにぃぃ」
ガレルはそのままフローラを引っ張って足早に去っていった。
去り際、俺の横顔にガンを飛ばしてきたのを俺は見逃さなかった。
何はともあれエリーゼと学園長の登場により、その場に再び平和が訪れたのだった。




