初めての挑戦
炎が少女の手に落ちる。しかしそれを見て少女は咄嗟に手を離してしまい、魔法は地に落ち消えていく。
「アルフ、これすごく熱いよ?」
「熱くない。それは思い込みだ」
「そうです。ゆっくりでいいですから今度は手の感覚を研ぎ澄まして見てください。きっと熱くありませんから」
今俺たちはゼロに魔法を教えていた。学園の生徒にしてもらえたとはいえ、生徒としてやっていくには魔法をある程度扱える必要がある。
そのためには基礎から少しずつ教えねばならない。しかしゼロは魔法を使えてもまだ扱えなかった。
ゼロは自分が創り出した炎の魔法を熱がってしまう。初めて魔法を扱うものによくある事だ。本来は熱さなど感じていないはずなのに、手に炎が触れているのを見て脳が反射的に熱いと錯覚してしまうのだ。
これを克服するにはシンプルに自分の中にある魔法に対しての認識を矯正する必要がある。
「ゼロ、もう一度だ」
「・・・・怖い」
ゼロは涙目でこちらに訴えかけてくる。
それを見ているとなんだか自分がいけないことをしている気分になる。
どうしたものか......。
しかし正直に言えば、炎魔法が少しでも使えているだけで上出来なのかもしれないと感じていた。
突然魔法を使ってみろと言われても、大半の魔法使い見習いが魔法で何か物質を創り出すのにはまずかなりの時間を要する。魔法とは感覚や認識がかなり重要なものでそれに慣れるのに時間がかかるからだ。
例えば、炎ひとつ創り出すのだって多くの情報が必要だ。色、形、匂い、温度、性質それら全ての情報を組み合わせて炎という事象を創り出す。これは慣れてくればスムーズに出来るようになるが、最初のうちはひどく苦慮することだ。
この難しさに加えて、ゼロには魔法に対して恐怖がある。それが更にゼロを邪魔しているのだろう。
とりあえず少しずつ魔法に慣らしていくしかないか。
「一度休憩にしてはいかがですか?あまりやってていてもゼロの魔力と体力が持ちませんよ」
「そうだな....。少し休憩にするか」
ゼロは俺たちの言葉に肩を落とした。
「まだ、大丈夫。だから、もっと練習しよ?」
そう言って必死に俺の服の袖を引っ張る。
俺たちに失望されたくない、そんな思いがゼロにはあるのかもしれない。
あたふたするゼロの頭に俺は手をおき、落ち着かせるためにそっと撫でる。
「大丈夫、時間かけて出来るようになればいい。だから無理すんな」
「.........、出来なくても私の事、見捨てない?」
ゼロは不安げにこちらを見ていた。本当にそれを危惧しているようで手は微かに震えている。
「見捨てるわけないだろ?それにゼロなら絶対出来るようなる。もし出来なくてもそのときは普通に暮らしていけばいい」
「..........わかった。頑張る」
むしろ魔法が使えない方が幸せからもしれない。そう言いかけて俺はその言葉を胸にしまい込んだ。
この言葉は魔法を学びたいと思っているゼロを否定するものだ。
余っていた左手にいつの間にか温かなものがあたっていた。
それに目をやると、レーネが俺の左手に自らの頭を押し付けてきていた。
「どうしたんだよ、急に」
「・・・」
ぐりぐりとすごい力でこちらに圧をかけてくる。どうやら私も撫でろという意味らしい。
俺は仕方なく、レーネの方も同じように撫でてやる。
いつもなら突っぱねるところだが、今回ゼロに魔法を教えるにあたってかなり協力してくれているレーネを無下には出来なかった。
レーネは俺の手の動きに合わせて心地良さそうに右へ左へと揺れていた。
少しの時間が過ぎ、これからどうしたものかと思っていた時、今度はレーネは目を瞑り、唇をすぼめながら擦り寄ってきた。
「?」
「・・・」
どうやら次は唇をどうにかして欲しいようだったが、それはデコピンを以て盛大に突っぱねてやった。
「なッ!?」
レーネの素っ頓狂な声が部屋に響いた。




