静かな医務室
「やあ、アルフ。久しぶりだね」
そこには全身びしょ濡れになりながら、座り込んでいるリンがいた。前あった時と変わらない色のない顔でこちらを見つめている。
「聞きたいことは色々あるけど、とりあえずそこにかけなよ」
「それはこっちのセリフだけどな」
リンは俺の言葉に少し頬を緩ませながらこちらを見上げ、ムクリと立ち上がった。
そこで俺ははっと気づき、視線を咄嗟にずらした。
白衣が濡れたせいで下着が透けていたのだ。
「なんで目をそらすの?」
「自分の姿を見ろ......てかなんで白衣を直で着てるんだよ」
「こっちの方が気心地がいいからね。別に女同士なんだし、見ても構わないよ?.......あっ、でも君は男なんだっけ?ついつい忘れそうになるよ」
そう言ってリンは俺の言葉を無視し、どんどんとこちらに向かってくる。
それに合わせて、突然首がありえない方向へと曲がっていく。
「!?」
皮膚を通して首に伝わってくる微かな熱。
レーネか!?
「見ない、見ないからやめろ!!首が折れる」
「誰と話してるの?」
「.........。なんでもない。ただの独り言だ.....。」
「ふーん」
リンはこちらをじっと見つめていた。
その後、リンを何とか新しい服に着替えさせ、話を続きを始める。
「それで?なんでびしょ濡れだったんだ?」
「...............いきなりセクハラ?」
「違うわ。なんで白衣が濡れてたんだって聞いてるんだよ。それと頬を赤く染めるな!.....ッ!」
リンは口に手を当て、うつむく。
すると今度は手の甲に強い痛みが走る。どうやらつねられているようだ。
「いや、水を扱うための魔道具作りに失敗しちゃってね。突然誤作動を起こしちゃったんだよ」
「なるほどな」
「それにしても本当に久しぶりな感じがするよ。そんなに前あった時から日にちは経ってないのにね」
「そうだな。前会ったのは一週間くらい前か」
「それで.......その子は?生徒?」
「そうだ。今日から新しく入る」
ゼロは俺の影に隠れて、リンの様子を伺う。
「この時期に転入生とは珍しいね」
「それで突然で悪いんだが、こいつのことを少し診てくれないか?」
俺はゼロの背中をぐっと前に押し出す。
「それはいいけど、それよりも私は君の体を見たいのだけれど?」
リンは俺の顔を見ながらジリジリと近づいてくる。俺もそれに合わせて後ろに仰け反る。
そしてそのままリンの手が俺の頬に触れ、俺の目を覗き込むようにじっと見る。
息のかかる距離にあるリンの顔。前と変わらない白い肌に若干見える目の下のクマ。
俺は思はず赤面し、リンの肩を掴んで無理やり俺から引き剥がす。
「俺は大丈夫だ。それよりこの子を......」
「あまり嘘はつかない方がいいよ」
「別に嘘なんて....」
「じゃあ私の無理はしないっていう言いつけ守ったの?」
「それは.......」
正直、黙るしかなかった。なぜならここ数日は無理をしない日がなかったくらいだったからだ。
「まぁとりあえずは先にその子を見るよ。名前は?」
今度はゼロに話しかける
「ゼロ..........、っていいます」
「そうか。覚えたよ。この子が終わったら次は君だからね?」
ほぼ威圧に近い形でこちら見る。こんな一面もあるのかと素直に感心してしまいそうだった。
リンはその後、色々な魔道具を使ってゼロを診察した。
「どうだ?どこか悪いところはないか?」
「そうだね。特にはないかな。少し痩せすぎなのは気になるけど」
「痩せすぎ、か」
過酷な環境にいた影響があるのだろう。そこのところは今後の生活で改善していくつもりだった。
「さて。悪かったな。急に押し掛けて。それじゃあ、また何かあったら、たの..む....って」
俺が部屋を出ようとした途端、リンは俺の手首を強く握っていた。
「次はアルフの番だよ。逃がさないからね」
振り解こうとしても全く動かない。かなりの力で掴まれていた。
しばらくの沈黙の後、睨めっこが続く。
「分かったよ。分かったから手を離してくれ」
「・・・。」
どうやら俺の言葉をまだ信じていないらしい。
「そこに座って」
「はぁー」
俺はため息をついた後、言われた通りに椅子に腰掛けた。




