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待ちわびた朝

俺はゼロの前に正座させられていた。


レーネはゼロを指さす。


「ご主人様は先程、連れ帰ってきたのは『子供』だと仰いましたよね?」


「ああ、言った」

さっき説明した時にはすんなりそれを受け入れていたはずだが。


「なぜ女の子であることを黙っていたんですか?」


「いや別に黙っていたわけじゃ.......」


「それにこんな.......」


そこでレーネは押し黙る。


「なんだ?」

「なんでこんなに薄着なんですか!?」

「それは建物の倒壊のせいで....」

「・・・。」


ゼロは俺が持ってきた毛布を跳ね除け、その前に掛けてあった俺のローブ抱きしめ、すやすやと寝ていた。


その安心しきった顔を見て、俺は安堵する。


しかし、額から覗かせるポーションでは消えない黒い傷跡がチラつく度に俺の胸は強く締め付けられる。


ゼロは恐らく、呪詛学会にいたころは虐待に近い行為を沢山受けていただろう。

それも兵器として運用するために.....。


だからあの時、この他にもゼロの体には無数の打撲痕や蚯蚓脹れがあったのだ。


俺はゼロの手を強く握りしめる。こんな少女が...。


ゼロは時折急に顔を歪め、もがくようにして苦しんでいた。まるで悪夢から逃れようとするように。


俺はその悪夢を振り払うために額にも手をやる。


一生残り続けるであろう、魔道具の生々しい轍を消えないとわかっていても撫で続けた。


「レーネ。突然で色々思うところはあるだろうが今はそれを飲み込んでくれ」


「で、ですが...」


「ゼロは今、誰かが傍にいないと駄目なんだ。そして俺はゼロの傍にいたい。だからレーネもそれを手伝ってくれないか?」


ゼロには今、記憶という自分の存在を証明する上で必要不可欠なものが欠けている。そしてそれは凄まじい孤独と不安に耐え続けなければならないということを意味する。かつての俺がそうであったように....。


レーネは一瞬、何か言いたげな顔をしたがすぐに諦めたようにため息をつく。


「はぁ。仕方ありませんね。私がご主人様の傍に居続ければ、必然的にその子の傍にも居ることになりますしね」


「ありがとう」


「ただし」


レーネは俺の言葉を遮り、正すように指を立てた。


「もしこの子に手を出すようなことをしたらぜぇったいに許しませんからねッ!!」

そう言い放った後、レーネはゼロを抱きかかえ寝室へと連れていった。


そしてその拍子にゼロは目を覚ます。


「あら、起こしてしまいましたか」


「......ん..........レーネ...?」


ゼロは溶けそうな目で弱々しくレーネの名を呼んだ。


俺はそれにどこか引っかかりを覚えながらもそのまま朝を迎えた。





次の朝、俺はゼロを連れてニーナのもとをを訪ねる。


学園に行く前に頼みたいことがあったのだ。


 俺は久しぶりだからなのか、少し緊張を覚えながら扉を叩く。


するとしばらくしてから反応が返ってくる。


朝早かったためか、ニーナはボサボサの髪にパジャマ姿で眠い目を擦りながら出てきた。


そして俺を見るやいなや、その目を思い切り見開いた。


「先生!!今までどこへ行ってたんですか!?」


「いや、ちょっとまた出張にな」


「出張って.........まあいいですけど。連絡くらいくれても.....」


「忙してする暇がなかったんだ。それより悪いな、こんな朝早くに」


ニーナは俺の言葉を聞いて、ゆっくりと身なりを確認する。そして途端に顔を赤くし、扉が勢いよくバタンと閉められる。


しばらくして、髪の毛や服装がしっかりと整えられた状態で出てくる。


「それでどうしたんですか?まさか私に顔を見せるためにこんな朝早くに来てくれたわけじゃないですよね?」


「まあそれもあったが、その......ひとつ頼み事があってだな」


「頼み事...?」


ニーナは途端に訝しむような顔をする。


俺はゼロの背中を押して、前に出す。


よろけながら、ゼロはニーナを見る。


「あ........、あ...の」


「どうしたんですか.....?この子」


ゼロは緊張のせいか、上手く言葉が出せずに黙ってしまう。


そしてそのままニーナがゼロに触れようとしたので俺はすかさず、背中を少しつまんで今度はこちらに引き寄せる。


できれば、今は話が拗れるためニーナには魔法を使って欲しくなかったのだ。


「この子はだな」


と俺が言い終える前にレーネが脇から這い出て言葉を遮る。


「私たちの子供です。見ての通り女の子です。これからも何卒私たちをよろしくお願いしますね?ニ・ー・ナさん?」


「なっ!!な、な、えっ!?」


レーネはからかうような口ぶりでスラスラと言葉を並べる。

それと並行して、ニーナから色が抜けていく。


「おい、冗談はその辺にしとけ」


「いいじゃないですか、少しくらい」


レーネは頬を膨らませた。


それを聞いてニーナはほっと胸を撫で下ろし、いつも表情を取り戻す。


「なんだ、冗談ですか。まあ当然、分かっていましたけどね。それで頼み事とは何ですか?私が出来ることなら、何でもしますよ?....何でも、ですよ?」


ニーナはやたらと最後の部分を強調した。


それを見て、俺はゆっくりと要件をきり出した。




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