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夜はまだ明けない

俺の頭の回路は熱で焼き切れそうになっていた。


それはあまりにも突然だったのだ。


「私が言って欲しかったこと....わかりましたよね?」


レーネはそっと唇を離し、俺にそう言った。


俺は急激に上がる脈と跳ね回る心臓を鎮めるのに必死になっていた。


どうして、急に.....!?


レーネはうっとりとした顔して、ペロリと唇を舐めた。

よく見ると耳と首元が真っ赤に染まっている。


お互いに顔を真っ赤にしながら、俺の方は黙ることしか出来なかった。


頭が痺れて、言葉が出てこない。情報量が多すぎるのだ。

それに凄まじい血の巡りを耳に感じる。

身体も火照ったように熱い。


伏し目がちにこちらを見ながら、何かを言おうとするレーネ。

気づくと俺は動揺しながらも無意識のうちに手を伸ばし、レーネの首元に触れていた。

それに合わせてレーネは一瞬肩を震わせ、そのままゆっくり目を閉じた。


レーネの体はとても温かく、そして柔らかかった。

今度は髪に触れてみる。艶々とした黒髪は触れる度に俺の手に馴染む。

その感触に昔の慈しみを感じるのと同時に、その妖艶さに俺は溺れそうになっていた。

今まで意識していなかった事柄がさっきの出来事により、俺はかなり意識するようになってしまっていた。


前の姿の時にはなんてこともないかのように見て、そして触れていた瞳、唇、髪、そして肌やその感触の全てがなぜか艶めかしく見えてきて、俺のあらゆる部分を刺激した。


紅潮した頬。それに何かを待つように目をじっと閉じている。お互いの熱気のせいか部屋全体がとても蒸れているようにも感じた。

頭がグラグラする。レーネに触れていると体の内側から色々なものが溢れだしそうだった。


俺は次は肩に触れてみようと手を滑らせ、とそこで我に返る。


レーネは口をまごつかせ、小刻みに震えていた。


「あ.....、あの....」


そこでようやく俺は自分がしていることに気づく。

レーネはモジモジしながらこちらを見ていた。


「す、すまん。無意識に.....」

ダメだダメだ。いくら猫といえど、相手はレーネだ。今は普通の女の子と何ら変わりはないことを忘れるな!

もっと気を使わなければ...。


「いえ、その..........、久々だったので.....。こういうことされるのは......」


レーネはそう言い終え、俺と目を合わせてくれなくなる。

その視線は俺の足元に向けられるばかりだった。


「「・・・。」」


ほんの少しの沈黙が永遠にまでに感じられるほど長い。


もしかしたら、俺はとんでもないことをやってしまったかもしれない。

そんな焦りが時間を経ていく事に全身を覆っていく。


もしこのまま、レーネが一切口を聞いてくれなくなったら........。


実はこういう事態は今までにも何度かあった。


その中でも、猫などの動物と一緒に飲み食いができることを売りとした店に行ってきた後は、特に大変だったのを覚えている。


帰った瞬間、レーネは俺に付いた同類の匂いにすぐに気づき、「ご主人様が風俗に行った」と師匠に泣きついたのだ。


俺は当然、あの時も弁解した。しかし、レーネは泣くばかりで俺の話など聞きもしなかった。


あの一件でしばらく口を聞いてくれなくなったのを俺は思い出し、胃がキリキリと痛む。


あの時は師匠にわけも分からないまま、土下座させられて事なきを得たわけだが.....。

もし今回の件が、それ以上だったとすると.....最悪、関係修復不可能並みの事態かもしれない。


汗が額を冷やす。だんだんとさっきまでの熱気が嘘のように覚め、事の重大さが全身をさらに冷やした。


とにかく、俺はここからどうすればいい?何が最善の行為なんだ.....?そもそもなぜレーネは俺にキス、のようなことを.......?これは猫側の習性なのか?あるいは人間側のレーネの選択なのか...?


もし前者ならば、これに深い意味は無さそうだ。なぜなら、動物を飼っているものなら誰しも親愛の象徴としてよくやっているからだ。しかし今のレーネの表情を見ているとなんとも....。


でも仮に後者だとしても今までレーネはこういったとこは口にはしても、実際に行動には移さなかったはずだ。


手を繋ぐことすら我慢できず、顔を赤くするレベルなのに....。


この場合、俺はどう判断して動けばいいんだ?


俺が一人であれやこれやと悩んでいると、レーネが覚悟を決めたようにこちらを一瞥して、突然言い放つ。


「わ、私は先にシャワーをいただきます。ご主人様も.........その.......じゅ、じゅんび、を済ませて置いてください」


「準備.....?............なんの?」


いきなりのピンと来ない単語に、思わず聞き返す。


するとレーネは恥ずかしい、と言わんばかりに手で顔を覆い、指の隙間からこちらを見た。


「そ、それを私に言わせるんですか......?」


「いや、嫌なら別に言わなくても.....」


「いえ........言います。ご主人様が辱めを受けた私の姿をそれほどまでに見たいと望むのなら」


一瞬聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がするが話が進まいないのでここは軽く流しておく。


「その.......性別を変えておく、とか.....後はなにか被せるもの、とか...........ってやっぱり後は自分で考えておいてくださいッ!」


レーネは言い切る前にバタバタと慌ただしく部屋を出ていった。


性別を変える?被せるもの......?


そこでふと俺は忘れかけていた事を思い出す。


そもそも俺はこの状態で元の体に戻れるのか.....?


「ステンノ、もし一瞬でも俺に供給される魔力が遮断されたらどうなる?」

【まあまず間違いなく私の意思と関係なく、ぼくの一部があなたの体の操作権を勝手に奪って暴れるだろうね】

「暴れるのか....?」

【ああ。その根源をを取り払おうと必死にね】

「どうして.....?」

【確かに君にかけられた魔法は魔力が遮断されたことにより解けるだろう。しかし、それは同時にあなたという器を維持する魔力も同時に途切れるということなんだよ】

「器?」

【そ。ぼくはあなたの体に取り込まれる魔力によって生き延びていられる。つまりぼく、いやぼく達はあなたという器、広い括りで言えば、魔法使いの体なくしては長く生きられない存在なんだよ。そして万が一、一瞬でも器が壊れればすぐに脱出するように魔法で強制されてある。この脱出という行為があなたにとっては死を意味する】

「つまりは元には戻れるが、俺は生きられないと?」

【まあ実際は少しの間は生きられる。あなたの体の操作権を巡って、綱引きのようなものをしている間はね。けれどいつかはこちらに必ず主導権が渡る。そうなればあなたは死ぬってわけ】

「なるほど.........。俺もとんでもない取引をしたもんだな」

【そう悪いものでもないと思うけどね。あなたは今、元の体以上の力を実質的に手に入れてるわけだし......】

「元の体以上....?さすがにそれは言い過ぎなんじゃないか?」


と、話している時にレーネは血相を変えて、部屋に戻ってきた。


そして地面に指をさし、叫ぶ。

「今すぐそこに正座してください!!」




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