救出と脱出
「苦しそうだな」
「ぅぅぅぐ........ぅぅぅ...。なにを.......?」
イリスは必死に喉元を掻きむしりチョーカーを何とか外そうとする。しかし一向に取れる気配がない。
それどころか首の皮がどんどんと禿げていき真っ黒い血があたりに撒き散らされていく。そして仕切りに自分自身に何かを呼びかけているようだった、
「研究通りだったな」
「.........そうね」
軍が元々調査していた薬の解毒法。それは体から魔力をほとんど吸い取ってしまうというもものだった。
こうすることにより体中に回った魔力適正飛躍剤を魔力ごと体外へ排出させるのだ。
しかしこれには凄まじい魔力欠乏を引き起こさせるという欠点がある。それはつまり一歩間違えば死に至る可能性があるということだ。
イリスを見るとどうやら成功らしい。
ただ気がかりなのはイリスが想定よりも遥かに苦しんでいる事だった。
「少し苦しみすぎじゃない.....?.....うッ」
私も人の事を言っていられる状況じゃない。
魔力欠乏が酷すぎてまともに動けない上に肩の出血が止まらない。このままじゃ......
「おい!お前はあんま喋んなよ。今止血してやるからじっとしとけ」
「うん.........そうする、つもり....」
力なく横たわるしかない私は自分の無力感に押しつぶされそうだったが、反対にようやく呪詛学会の頭を潰せたということへの安堵もあった。
「それにしてもひでえな。骨まで貫通してやがる。少し痛むけど我慢しろよ」
そう言うとエメは治癒ポーションを取り出し、私の肩にかけ始めた。
それと共に肩の感覚が回復し、途端に今までせき止められていた痛みが津波のように押し寄せてくる。
「痛ッ.........ッ.......ぅぅ.....」
「神経が先に再生するからな。今は相当痛むだろうが時間を置けばその内それもなくなるよ」
「ようやくね......これでようやく......ん!?」
すると突然、エメはガラス瓶を私の口に押し込んできた。中からは透明な液体が溢れてきた。
「喋るよりもこれを飲め。魔力回復ポーションだ」
私はそれを言われるがまま飲み干した。
「とにかく、まずはここを出ようぜ。それから尋問だ」
「その必要はないよ」
「「!?」」
私とエメの視線は交差した後、声の主の方に自然と向いた。
そこにはイリスと同じくらいの背丈の少女が茶色いローブ纏って立っていた。
そして私達はすぐに彼女の正体に気づく。
「アンタ、確かアルフの師匠を名乗ってるちんちくりんだろ?」
以前に私とエメは刑務所でアルフを引き取りにきたところを見たことがあった。その後彼女がアルフを弟子にとったということが刑務所内にも流れてきたのをよく覚えていた。
確か名前は.....イザベル、だったかしら.....。
「ちんちくりんとは失敬だなー」
「そんなお師匠さんがここへ何しにきたんだよ?」
「ちょっと加勢に、と思ってね」
「....加勢?見ての通りもうとっくにカタはついてるぜ」
ようやく静かになったイリスを見ると、プルプルと痙攣するようにして壁際に倒れていた。
あの魔道具がかなり効いたらしい。
このまま魔力欠乏が進行すればいずれを死を迎えるだろう。まあ死なせはしないけど。
それにしてもなんでこんなに苦しんだのよ.....。
イリスの首元は自分で引っ掻き回したせいで血だらけになっており、見るに耐えなかった。
「てなわけでサラとこいつを運ぶのを手伝ってくれ。二人がかりなら...」
「いや?」
急にエメが黙ったので私はエメの方を見た。
するとエメはある一点だけを見つめていた。
「......なんでそんなものを?」
「手を頭につけて、そこに伏せて」
「どう.....して....」
イザベルはエメに旧式の黒い拳銃の銃口を向けていたのだ。
「おいおい、なんの冗談だよ。それに魔法使いにはそんなもの効かない、って常識だろ?」
「魔法使い、ね」
その瞬間、発砲音が響く。
銃弾はエメの耳をかすめて、壁に当たった。
エメの耳から鮮血が流れ出る。
「...........痛えな」
「やっぱりね。君は魔法使いじゃないってこれで証明出来た。普通なら魔法で弾かれて、かすりもしないはずだ。もう一度言うよ。手を頭につけて、伏せて」
エメはそれを聞いても動じずにただ黙って立っていた。
さらに銃声が続く。
次は手の甲と足の甲にそれぞれが弾丸がねじ込まれる。
それでもエメは立ち続けた。
「まだ立てるんだね。でも次はそんなことも出来なくするよ?」
動じないエメ。
「.......なぜアルフを裏切る?なんのために騙し続けてるんだ.....?あいつは少なくもアンタを慕ってるんだろ?」
眉間にシワがより、腕の血管が浮き出ている。その様子から見てエメは相当怒っているようだった。
「裏切る?騙す?そんなことはしてないよ」
そう言いながらイザベルはさらに引き金を引いた。
そして今度は両膝に弾が命中した。
さすがのエメもこれには耐えられずそのまま倒れ込み、必死に痛みを抑えようとうずくまった。
イザベルはその様子を見ても何も感じていないようだった。
外見はイリスと同じ少女。しかしこちらに伝わってくる威圧感のようなものがあった。
このまま私たち諸共殺されるのかしら.......。
魔法が使えないエメはもちろんのこと、まだ回復しきれていない私も魔法は使えない。
つまり、あの拳銃で急所を撃たれればそれで終わりだ。
エメは動かない体を重そうにしながら何とか首だけを動かし、イザベルを見る。
「なんで、見破れたんだ......?」
「うーん。そうだね.....目の動きと警戒心のなさかな?いくら魔法使いといえど、銃が見えた時点で防御魔法の準備をするものさ。それに君が魔法に対して全く恐れを見せないのも不自然だよ」
「く........」
それからイザベルは歩きだしイリスの元へと向かった。
「黙れ.......黙れよ........言うことを....け」
イリスはまた何かを呟き始めていた。
「なんて姿してるんだい、君は」
「せん...........せい........?」
「情けないね」
「わ...たし.......は....」
「帰るよ」
イザベルはイリスを担ぎ上げる。
そしてローブの中からポーションを取り出し、エメの真上に投げ、それを撃ち抜いた。
ポーションはそのまま空中で弾け、中身がエメに降り注いだ。
「なにを.....?」
「殺す気はなかったからね。それで時期に動けるようになるよ」
そうして少し歩いてから何かを思い出したかのようにこちらを振り返る。
「あっ!それとね。アルフが大切なら彼に.....いや彼の過去に触れないことだよ。キミらが本当に大切に思っているなら、だけどね?」
そう言ってイザベルは持っていた拳銃をその場に投げ捨て、溶けるようにして跡形もなく消えていった。




