全てを受け止めて進む
頭を引き裂くような記憶の嵐が俺を犯す。
火の中で磔にされ全身を焼き尽くす火の粉をただじっと見つめている記憶、泣き叫びながら魔道具を必死に外そうともがき苦しむ記憶、家族のために自分を差し出し魔力が暴走する記憶。
その記憶のどれもが俺に助けを求めてくる。
「大丈夫....今助けるから」
頭が割れるほどの頭痛を俺は必死に押さえつけた。
地面に頭を打ち付け、何とか自分を正気に戻す。
生暖かい血液が額をつたって地面に垂れていく。
【大丈夫?】
「続けてくれ.....」
次は化け物の右半身を切り裂き体に取り込む。
またもや強烈な記憶の暴力に膝を崩す。
次は心臓や肺が痛めつけられる。
肺が煙を沢山吸い込んだように感じ咳き込む。心臓は握りつぶされそうだった。
それでもなんとか立ち上がる。隣に横たわる懐かしい猫が目に入ったからだ。
全部俺が受け止めるんだ。この化け物の身体を形成する痛み、悲しみ、憎しみの全てを....っ!
【これで最後だ】
化け物の左半身を解体し、取り込む。
次は身を焦がすような激しい憎悪と悲哀が体に注ぎ込まれる。
俺の体はそれをスポンジのように全て吸い込む。
そして抱き抱えるように前屈みに倒れ込みただひたすらに耐える。
母をなくした悲しみ、母に売られた憎しみ、親しかった友人、家族、自分との別れ。
それぞれが俺の身体を叩きつけ、自分たちの主張を繰り返す。
何度も何かを吐き出そうとするもそれらは空嗚咽に終わった。
何回もフラッシュバックした後にそれらの記憶は雲のように溶けていった。
目を開けると涙が流れていることに気がついた。
この涙は俺が取り込んだ子供たち全てのものだろう。
涙は最初は溶解した鉄の如き熱を帯びていたが流れ出た瞬間すぐに氷のように冷たくなった。
俺はその涙を大切にしまい込むように拭い立ち上がる。
空間は魔道具の効力が切れ、辺りには荒れた地面とボロボロのウルド、俺の姿をした肉塊、そして人間の姿に戻ったレーネがいた。
ウルドは軍の手によってしかるべく処罰を受けるだろう。
俺はウルドの脇を通って肉塊を尻目に真っ直ぐレーネの元へ向かった。
そしてレーネの手を再び握る。
レーネの手から熱が伝わってくる。それと共鳴するかのように目と心臓が熱くなっていく。
とてつもない安心感と多幸感が全身を満たす。
「レーネ、帰ろう」
俺はそのままレーネを抱えあげ、部屋を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
「あれがアルフなの.......?」
扉を抜けて出てきたアルフはまるで別人のようだった。
穏やかな顔つきなのになぜかとても遠い目をしていた。まるでなにかを悟ったように。そして何かに思いを馳せるように。
私とエメはそれを幻影魔法で身を隠したままただ眺めることしか出来なかった。
あのギルとかいう男の指示で私たちは今ここにいた。
目的の者と会うとために。
「オレたちもいくぞ」
「分かってるわよ」
アルフ、私決めたから
私は聞こえないようにそっと心の中で呟いた。
私たちはアルフと入れ替わるように中に入る。
中は今にも魔法空間が崩れそうなくらいにボロボロだった。
そしてそこには私が前に見たアルフが横たわっていた。
「エメ、どう?」
「なるほどな....」
エメは不意に口角を上げ、そのままアルフの額に手を置いた。
そしてエメがアルフに触れた瞬間、それは溶けるように消えていった。
「魔道具で巧妙に造られた偽物だよこれは。チッ!細部まで完璧に再現してやがる。これをそこで寝てるやつが作ったのか?」
「恐らくね」
ウルドはぐったりしているが幸いにも目立った外傷は見られなかった。
謎が多い呪詛学会の唯一の糸口だ。死なれては困る。
「ちょっと?意識ある?」
私は呼びかけながら足で揺する。返答がないので起こそうと横たえた体に手を触れるその瞬間後ろから声が聞こえた。
「ここに呪詛の天罰を〜」
直後、ウルドの頭部は内側から風船のように弾けた。
辺りには血の雨が降り注ぎ、私とエメを紅く染めた。
私はそれを袖で拭い、エメは自ら揺さぶってふるい落とした。
眼前では嫌という程私が目に焼き付けてきた少女が笑い転げていた。
「ギル、あんたの推理当たってたわよ」
私もおどけて少し笑ってみせた。




