現れる絶望
俺は体だけが動き続ける慣れない感覚を感じながら、魔法を創り出し続けた。
そして不思議なことに俺が知るはずもないような魔法がどんどん出せるのだ。
まるで前から使い慣れていた魔法のようにすいすいと脳内で構築が進む。
本来脳内構築魔法とはイメージ練習が最も難関を極めるはずなのに....。
こんな感覚初めてだ。
知識が無限に増殖していく.....。
俺が魔法を作り出している間もステンノは俺の体を動かし続ける。楽しそうに、そして軽やかに。
それは俺は補助するように魔法を添える。
【楽しいのか?】
「不覚にも楽しいよ。久しぶりだ、こんなの」
いつもと立ち位置が逆なのも不思議だった。
化け物は俺が避け続けることにイライラしているようでだんだん魔法の撃ち方が荒くなっていく。
最初はしっかりと狙っていたものも次第に大雑把になっていき、範囲魔法も増えていく。
そして最終的には質よりも量を優先するようになり威力の弱い魔力弾がかなりの数飛んできた。
しかしそれをステンノは全て見切り避け切った。
「避け続けても拉致があかない。やっぱり心臓部分に攻撃するしかないね。.....いい?」
【......わかった】
俺は少し迷いながらもそう返事を返した。
するとステンノは化け物の紅い肉腫のような心臓部目掛けて突っ込んだ。
【突っ込んで大丈夫なのか?】
「大丈夫大丈夫」
化け物はその動きを見るとすぐに心臓を庇うように構えた。
それと合わせて不気味に揺らいでいた針金のような体毛も逆立つ。
そして威嚇に似た声を発することで地を震わせた。
「動き、止められる?」
【止められる】
俺は脳内で拘束魔法を瞬時に作りだして、化け物の足元に魔法陣を出現させた。
一瞬のことで化物も気づかない。
やがて化け物の足元から紐のようなものが現れ化け物の足を捉える。
それらの一本一本には魔法陣が編み込まれていて一時的に魔力を吸収する働きを持つ。
化け物は体が動かないことに気づきすぐさまもがき、振り払おうとしたが魔法はビクともしなかった。
必死に抵抗し、呻き声をあげようとも何にもならない。
化け物がそう気づいた時、次の標的は術者に向いた。
しかし手足を封じているのでその場から動けずにただこちらを睨むことしかできない。
それを見てステンノと俺はゆっくりと化け物に近づく。
すると俺たちの感覚はいつの間にか共有していてもはや一心同体だった。
ステンノが感じたことを俺が知り、俺が感じたことをステンノが知る。
神経の一本一本が肉体を通して絡み合うように融合していく。
元々ひとつだったようにお互いが感覚と感覚でつながる。
その感覚は不思議と心地がよく普段は見えないものが見え、些細なことでさえ感じることが出来るようになった。
化け物は俺たちを食おうと必死に体を動かし続ける。
だがもう魔法は使えない。
化け物の心臓は前よりも早く脈を打ち、だんだんと赤黒く変色していった。
それに合わせて化け物の声音も弱々しくなっていく。
俺は心臓部に手を触れる。
すると呼応するかのように化け物は再び遠吠えのような声を上げ、暴れた。
動かない手足を動かそうと肩と頭を動かす。
心臓からはトクントクン、と鼓動が聞こえる。
そして人肌ほど温かい。血の巡りも感じられる。
この中にレーネが........。
今そこから出してやるから....。
【やるの?】
「ああ」
俺は魔法陣を描き、心臓をこじ開けた。
そして俺は膝をつき、脱力した。
中は空っぽだったのだ。




