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見失いそうなもの

レーネの体に纏わりついている黒煙は化け物の体を器用に形作る。


その中に射抜くような視線を感じる。


化け物の双眸は俺だけを見つめていて他には目もくれない。


ゆっくりと息を吐き、もう一度化け物を見る。


全身真っ黒で目は微かに発光している。視覚化された魔力は黒煙にも体毛にも見え、風もないのになびいていた。


「うん、やっぱりレーネじゃない」

確認するようにつぶやく。つぶやくことで自分自身を納得させる。そうしないと攻撃など出来ない気がした。


こんな状況でも頭はすごく冷静に物事を判断し始める。


どこから攻撃してどう仕留めるのかが次々と頭に浮かぶのだ。

これもステンノの影響だろうか。


俺に怯えるウルドを尻目に俺は体制を整える。


「あの中にレーネがいるんだな?」

俺が見ていたのは化け物の心臓部分の不自然に盛り上がった部分。

化け物はそれを庇うようにして立っている。

【そうだよ。化け物とひとつになった彼女は自らが化け物の心臓になっているんだろう。魔力を供給するための心臓に】


俺はレーネが残していったナイフを強く握りしめる。


まずはあれに刃物が通るか、だ。


俺は足に力を込め、前に飛び出す。

すると信じられない速さで自分の体が動いていることに気づいた。


身体が魔法も使っていないのに強化されているのか....?


意図しない体の変化に少し戸惑いながらも俺はそのままナイフ突き立て、化け物の手に飛びついた。


目的通りナイフは刺さる。しかし手応えがない。

効いている様子も感じられないかった。


【どうやら、物理攻撃はほとんど効かないらしい】

「じゃあ、どうすれば.....」

【色々と試してみるしかない。私とは勝手が違うみたいだし。今度は攻撃する場所を変えてみようか】

「わかった 」


そのまま腕をつたって今度は顔に攻撃しようと考えたが、化け物のもう片方の手がそれを阻む。


「ぐっ.....」


俺はそれを避けれずにいきよいよく壁に叩きつけれた。

しかし想定していた痛みが全くない。


【言っただろ。今の君には痛覚がない。だから身体に来るダメージのことは何も考えなくていい。あなたはただ指示さえ出せばいいから】

「でも痛みはなくても身体自体にはダメージを蓄積してるんじゃないのか」

【あなたはもう人間じゃない。人間基準で戦わないことだよ】


それを聞いて思わず失笑する。


俺は痛みらしい痛みがなく半ば不気味な体を動かしてまた突っ込む。


次は後ろに回り込んで足を狙う。


綺麗に手入れされていたらしいナイフはあっさりと化け物の身体に沈みこんでいく。


前にもこのナイフを借りたことがあったことを思い出しながら、足を切り裂くためにナイフを上へ上へと持ち上げる。


やはり手応えはない一切ない。


まるで空を切っているかのようで化け物も反応を示さない。


それどころか化け物は俺を踏み潰そうと足をバタバタと動かす。


俺はそれをなんとか右に左に避けて、一度後方に引く。


やはり、心臓を攻撃しなければ意味がないのか...。


けど中にはレーネが.....。


そんな恐怖さえ脳は極めて合理的に処理する。


そして俺に攻撃しろと命令を下す。


俺はそれを聞いて黒く染った視界で心臓部を睨む。


心臓部はドクンと動く度燃えるようにに紅く発光し、レーネらしき黒いシルエットを映し出す。


あの忌々しい魔力の塊から早くレーネを助け出さないと。


黒くうねる魔力は生きているように蠢き奇妙な斑点型の紋様を作り出していた。


俺は心臓部を攻撃しようと地面に魔法陣を作り出す。


そこから無数の魔力の弾を放つが、それもいとも簡単に化け物の前足で弾かれた。


そこであることに気づく。


魔法を弾いた箇所が大きく凹んだのだ。


「あの化け物、魔法は効くのか」

【今のを見る限りはそうだろうね】


俺は集中し魔法を作る。

女の体なので作れる魔法は限られているがその中でやるしかない。


俺は魔法を脳内で練って化け物の上あたりに魔法陣を作り出した。


しかし化け物はすぐさまそれに気づき、魔法陣ごと噛み砕いて破壊した。


「どうすれば魔法陣が壊れのか分かってるのかよ...」


向こうが魔法の仕組みを理解している以上、目につく所に魔法は作れない。


じゃあどうすれば.....。


その瞬間、脳に命令が下った。


【右に避けろ】


俺の体はそれに反射的に従い、右に大きく跳躍した。


それとほぼ同時に俺のいた地面が爆砕した。


「!?」

これは魔法...!?


しかも何の前触れもなく。


まるで脳内構築魔法みたいに....。


【やはり持ってる情報はなんでも引き出して使えるみたいだね】

「それってレーネが知ってることはあの化け物自体も知ることが出来るってことか?」

【うん、しかも自由に扱える。本当に厄介だなぁ】


確かにレーネは脳内構築魔法を熟知している。


それだけじゃなくレーネは俺が持つ魔法を全て理解しているのだ。


その上で今まで連携をとってきたのだから。


それはつまり今相手してるのは化け物でもありレーネそのものでもある。


特にレーネは長く連れ添ってきた分、俺の息遣いや立ち回りを全て把握し予測も出来る。


嫌な汗が頬をつたう。


とにかく、レーネをあそこから引き剥がさないと話にならない。


俺は全神経を集中させて魔法を作り出そうとする。


しかしその素振りを見た途端に化け物はすぐさま魔法陣を天井に作りだし、魔力弾を雨のように降り注がせた。


俺は作りかけていた魔法陣を崩し、魔法の影響がない方へと移動する。


それらは全て俺を狙うよう命令されており障害物があろうと屈折して飛んでくる。


そして俺の呼吸のタイミングで魔法が飛んでくるため、一撃一撃が俺の呼吸を奪う。


俺が右によければ右に、左によければ左に設置型の爆発魔法が用意されていた。


俺は避けきることが出来ずに吹き飛ばされる。


俺にどの攻撃をすればどこに動くが分かっているだろう。


全部レーネに教えたサポートのための知識だ。


まさかこんなことに使われるとは.....。


軽い脳震盪で意識が揺らぎながらも俺は片膝をついて立ち上がる。


そしてピントが合わない俺の目は朧げながら化け物の目が紅く発光しているのを捉えた。


それと合わせて俺の眼前には脳内構築魔法で作られたであろう魔法陣が一瞬にして現れる。


そして俺は再び瞠目した。


「ご主人様..........」


そこには淡い頬をほんのり紅く染め、胸元に両手をすぼめたレーネが立っていたからだ。


「レーネ.........?」


俺は握っていたナイフを地面に落とす。


俺が一番会いたかった、一番謝りたかった....その人物が立っているのだ。


ぼやけていたはずの視界はなぜかレーネの姿だけはくっきりと映していた。


俺はレーネに近づこうとゆっくりと歩を進めた。


「レーネ、.........レーネ....」


目の前の光景に俺はただただ名前を口に溜めては零した。


だんだんと呼吸が荒くなる。


そして近づけば近づくほど体に力が入らなくなる。


それでも触れようと両手を伸ばす。


あとすこしで触れられる...。


震える手を伸ばし、その温もりを確かめようとした。


あと少し........あと少し.......


そしてようやく手がレーネに触れようした時だった。


突然、電子音のような声が頭に強く鳴り響いた。



【近寄るな、幻影魔法だ】



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