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災厄を止めるために

「お前の他に軍のものは?」


「俺だけだ!俺が唯一連絡係として残っていたんだ。他の奴らは残党退治で出払っている」


「そうか」


酷く焦っているように見える。恐らくその化け物とヤラを見て気が動転しているのだろう。


「とにかく私は皆にこの事態を伝えてくる!君も手伝ってくれないか?」


「いや、その必要はない」


「え?」


俺は男に催眠系の魔法をかけ、眠らせる。

男が前に倒れそうになるのを腕で受止め、壁側に寄せておく。


こいつに見られると色々と面倒だ。


とても嫌な予感がしていた。

背筋を通り抜ける悪寒がそれを告げている。


黒い猫のような化け物。

これがもしレーネのことだったら........。


ないと分かっていてもそのイメージを頭から拭えなかった。


頭について離れない映像は俺を焦らせる。


「レーネ、無事であってくれ....」


鳥肌と震えが止まらない。

扉を開くことさえままならない。

怖い。


【大丈夫。私がついている】

「得体の知れない何かに俺は勇気づけられているのか」

【得体は知れてるだろう?】

「分からないことばかりだよ。お前も師匠も。そもそもなぜお前らは皆黒いんだ?」

【一括りにはされたくないなぁ。でも教えてあげるよ。それは魔力の色に関係している】

「魔力の、色?」

【ああ、純粋な魔力の色は黒いんだ。君ら魔法使いは物質的な魔力を見た事がないから知らないだろうけど】

「じゃあ、今回の化け物も魔力の塊である可能性が高いってことこか?」

【高いと言うより絶対にそうだと言える】


レーネは俺と師匠の魔法を解いた。つまり今は膨大な量の魔力をあの小さな身体に閉じ込めていることになる。


もしその魔力を何者かに意図的に暴走させられたら?


止まりそうにない粘っこい汗を手で拭う。


とにかく確認しないことには始まらない。

俺は震える手を無理矢理押さえつけて扉を開く。


そして俺はその光景に瞠目した。


部屋の真ん中に黒い何かが蠢いているのだ。


あれは.........前に取引場で見た......。


そして扉脇にはウルドが壁に寄りかかるようにして座っていた。


「ウルド、これはどういうことだ?」


「お前は...ッ。....なぜここに....?」


「わけを説明しろ。あれはなんだ?」


「お前などに教えるわけが.......ぅぅ」


ウルドは脇腹を抑えてうずくまった。


よく見てみるとウルドの体の至る所に出血が見られた。


そしてその原因であろう小型のナイフを見つける。


「これは.........レーネの....」


そのナイフは間違いなくレーネがいつも身につけているものだった。


そしてその瞬間、背後の黒い何かから低いうめき声のようなものが発せられた。


恐らく、例の化け物とヤラだろう。


俺はウルドの胸ぐらを掴みあげ、質問を投げかける。


「もう一度聞くがあれはなんだ?」


「.....ス様の実験は完璧だ....。お前らなんぞは...」


ウルドの目の焦点がこちらに合わない。


「ここに人が来なかったか?」


「人.......?来たのはお前の刺客だけだ.....」


「刺客......?」


このナイフ.....刺客.....やはりレーネはここに来ていたのか......。


じゃあレーネはこの辺りに....。


「その刺客はどこだ!レーネはどこにいる!!」


ウルドの首を死なない程度に強く揺さぶり、質問を続ける。


するとウルドは俺に後ろを向くよう促した。


後ろには黒い何か。


しかし、それは黒く蠢くなにかであって猫でもレーネでもなかった。


恐らく、男がパニックを起こして表現を誇張したのだろう。



「........アレだ」


「ッ!............。」


ウルドは真っ直ぐ黒い何かに向かって弱々しく指さしていた。


「ステンノ........あれはただの化け物だよな...?」

【化け物だけど....残念ながらただの化け物じゃない】

「........どういうことだ」

【あなたが一番愛していた者だ】

「ッ......。」



俺はウルドを放し、よろよろと立ち上がった。


レーネのナイフを見た時から薄々気づいてたのかもしれない。


「レーネは助かるよな.....?」

【それは分からないなあ。何せ完全に取り込まれちゃってるし】

「・・・」

【けど方法はあるよ】

「方法.....?」

【首の腕輪を使う】

「使ってどうするんだ?」

【その腕輪を使って彼女から周りのものを分離させ、あなたと私が取り込む】

「分離....?取り込む....?俺とお前が......?」

【そう。その腕輪には魔力を遮断する力がある。私たちは魔力がなきゃ生きられないからたまらず出てくるはずだよ。そして出てきたものを私とあなたが取り込む】

「それでレーネは助かるのか?」

【だから分からないってば。けど可能性はある】

「....わかった」


ステンノは可能性があると言った。

ならやることは一つだ。


「無駄だ.....。もうどうしようもない。止まらないんだよ.....ッ!ああなったら最後理性も何もない獣として与えられた命令を真っ当するまで一生止まらない」


ウルドは弱っているせいかだんだんと口を開き始める。


「与えられた命令?」


「あれはここを出て街を破壊し尽くせと命じられている」


「なんのためにそんなことを.....」


「英雄誕生のための礎にするためにだッ!...そのためなら私は死をも拒まない。いやむしろ私はそのために死にたい....。まもなくイリス様その化け物を民の前で倒し、この国の英雄になる。そしてこの国をこの世界を変えてくださる!!!」


自作自演で英雄を作り出す算段だったのか。


「悪いがお前は死なせない。聞きたいことが沢山あるしな」

師匠が話してくれない以上こいつに聞くしかない。


俺はウルドに軽く回復魔法をかける。

おそらくこれで死ねないだろう。


俺はその黒く蠢くものを改めて見る。


すると俺に反応するかのようにそれは姿形を変えた。


大きいが確かに猫のようだった。


輪郭は所々はっきりしないが長いしっぽと尖った耳、そして目だけはしっかりとしていて二つの宝石のような瞳がこちらをじっと見つめていた。


向こうから仕掛けてくる様子はない。


俺は少しずつ距離を詰めていく。


「無駄だと言っているだろ!!ただの魔法使い風情では傷一つつけれらない。そいつと同じものでない限り対等に戦うことなど.....」


「ステンノ、手伝ってくれ」

【わかったよ】


俺の両腕とこめ髪の血管が切れ、中から黒い血液が溢れ出してきた。


しかし不思議と痛みはない。


ただ温度だけが皮膚に伝わる。

とても温かい。


やがてステンノは俺の体に絡まるようにして俺を黒く染めていった。


「まさか.........」


ウルドの声は震えていた。


「もう俺は普通の魔法使いじゃない。いやもうずっと前から、だったかもな」


体の外に出たせいかステンノの声はよりハッキリと頭に響くようになった。

【これからあなたの体はそう簡単に壊れなくなる。痛みも感じなくなる。動揺もしない。だから安心してね】

「何を安心するんだよ」


そんなの人外になったって言われてるのと一緒じゃねえか。.....でも前のままだったら今の事態に対処すら出来なかっただろう。


だから俺は今、ステンノに感謝するしかなかった。


俺は真っ直ぐレーネを見つめる。


もう以前の面影など遺されていなかった。

体はかなり大きく見方によっては巨大な虎にも見える。こんなのはレーネじゃない。


「レーネ、ごめんな。俺のためにこんな......」


俺はレーネの気持ちを理解していなかった。いやわかった気になっていたんだ。

今回もまた困った顔をして、けど嬉しそうに俺の帰りを出迎えてくれると思っていた。


今まで起きた出来事の原因はすべて俺を心配するレーネの気持ちを浅く見た結果であり、自分が無能であることの証明だった。


「いま、助けるから」


レーネをこんなふざけた自作自演に利用させはしない。

絶対に救い出して絶対に謝ってやる。そうしなければ俺はこの先ずっと無能ままだ。


すると突然、レーネは天に咆哮した。


それは慟哭しているようでもあった。

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