友達との再開
俺はこの黒々とした血管に既視感があった。
今まで大体の事件にはこれが絡んでいた。
サラやリンが言ってた薬の影響でなると聞いていたが.........。
「ゼロ、お前の友達ってのは.......どうしてこんな姿になっているんだ?」
「それは........」
ゼロはうなだれ、うつむく。
『ぼくは実験に失敗したからね。それも半分』
「半分?」
『今、あなたの記憶を見てるけどあなたは一度見たことがあるはずだよ。完全な失敗作を』
「完全な失敗作.....?」
俺は記憶を遡る。
どこかで.......?
前に見たと言えば、カフェで男の腕を見た時とニーナが襲われたあの男のみだ。
それに身体的な特徴は血管の色以外何も変わっていなかったはず....。
『違う違う。そっちじゃなくてあなたの仲間が沢山やられた方のやつだよ』
沢山やられた.......
その瞬間、血にまみれたリーフィの顔が頭に浮かび軽く吐き気を催した。
まさかあの時の黒い塊が.........?
『そう、あれは意志をほとんど持ってない傀儡みたいなものでね。ぼくは意思だけは残ったけど体は魔力に耐えられなくてバラバラになっちゃったんだよ』
「そうか......、じゃあやっぱりあの黒い塊も元々は....」
『うん、ぼくらと同じ人間の子供だった』
エメが言っていた子供たちか。
胸が締め付けれる。
「それと......どうして俺の中にいるんだ?」
『それは、契約したでしょ?』
「契約.......?あれは夢の中の話で.......」
『あれは夢なんかじゃなくてあなたの頭に潜り込んで直接会話してたんだよ』
「潜り込んで.......って」
その言葉の響きにゾッとし俺はもう一度腕を見た。
本来なら薄く青いはずの血管の筋が黒い。
今街で流行している薬でも同様の症状が出ているはず。
確か、あの薬をやったやつは最後精神に異常をきたして暴れるって言ってたがまさか........。
『多分、脳に侵入してそのまま乗っとちゃったんじゃないかな。彼らも脳という媒体を使えば体を自由に動かせちゃうしね』
「じゃあ、お前も俺の体を乗っ取ろうと?」
『そんな事しないよ。契約には体を半分貸してくれとしか言ってないしね』
「それがつまり乗っ取るってことじゃないのか?」
『ううん。ぼくはここにいるのが嫌でね。別の住処が欲しかったんだよ。そしたらちょうど瀕死のあなたがいたから住まわせてもらおうかなって』
「住むって俺の体に、か?」
『そう。だから別に乗っ取る気はない。ただ血管とか皮膚の内側とか筋肉の間とかにいさせてもらえればいいからさ』
「じゃあ、この魔力は?」
『ぼくのだよ。契約事項だからね。ありったけ、あるでしょ?』
まあ確かに信じられないくらいあるが......。
そこで、ふと胸がざわつく。
俺は今とんでもないことに手を出しいるのではないか.......?
そんな不安が募る。
俺の体には確かに大量の魔力があるし、だるかったはずの体も妙に軽い。
さっきまでの貧血のような症状も今はもうない。
傷も完全治癒。
これだけあればイリスに勝てるかもしれない。
しれないが........それよりも俺は先に恐怖を感じた。
魔法使いでも人間でもない、得体の知れない何かになるかもしれないということに。
怪しげに手をこまねいている少女。
彼女の正体もほとんど分からない。
まだ引き返せるのではないか。
「・・・」
俺が黙っているとゼロがこちらを不安げに見つめているのに気づく。
「ゼロ、あのな......」
「.......?」
しかし、ゼロになんて説明しようか。
『ゼロにはぼくのことは気にしなくていいと伝えてくれない?』
なんで?
『その方が都合がいい』
......わかった。
「驚くかもしれないが今、その友達と会話している」
「え......?なんて言ってるの?」
『少し借りるよ』
!?
その瞬間口が勝手に動き出す。
「ぼくのことは気にしなくていい。君はここを出て君なりの目的を見つけるといいよ。ぼくもそれをたった今見つけたからさ」
新しい目的?
「目的って.......それじゃあもう会えないの?」
「会えるよ。この人といればいつでも」
「でも.....」
「もう一度言うよ。ぼくのことは気にしなくていい。君とぼくは解放されたんだ。わかったかい?」
「かいほう......?」
「そう。もう暴力や得体の知れない自分に怯えなくていいんだ。君がやりたいようにやって、行きたいところに行きな 」
「......うん、わかった」
ゼロは一瞬吃ったもののすぐに返事をした。
そしてそこで俺の口に主導権が戻った。
俺の体の一部を動かすことも出来るのか.....。
やはり少し怖いな。
するとゼロがソワソワしていることに気づく。
「どうした、ゼロ」
「あのね.......私、このままアルフと一緒にいてもいい?」
澄んだ瞳で切実に願うゼロはどこからどう見てもどこにでもいる普通の少女だった。
なのに、家族も、記憶も失って.....なんでこんな目に..........。
きっと魔女狩り、なんて制度がなければ今も楽しく家族と暮らしていたのだろう。
「.........でも、いいのか?家ぞくが...」
『ダメ』
急に声のトーンが変わり、口の主導権が切り替わる。
「?」
「いいよ。それとゼロ。魔法って興味あるか?」
「魔法.......?」
「そう。それを学べる学園があるんだ」
「学園?そこにアルフもいるの?」
「ああ、こうみえて一応教師をやってる。どうだ?入らないか?」
「入りたい!!.............私も入りたい」
ゼロは自分でも自分の声量に驚いたらしく、後に言い直した。
「わかった。取り合ってもみる」
そこでまた主導権が俺に戻る。
なんで急に話題を....?
『そのうち説明するよ』
わかった..........。
俺は気になりつつも余程のことだと分かり、一旦胸にしまうことにした。
その時、後ろから光が近づいてくるのがわかった。
それに反応し、俺たちは振り向く。
そこにはウルドの部下が唖然とした表情で立っていた。
「なぜ......!?枷が外れてるんだ....?と、とにかく、大人しくしろ。動けば問答無用でお前らを殺してやる」
手には軍特注の剣型の魔道具を持っていた。
ウルドの持っていたものと大分似ているが少し違うか........?
動けば、間違えなく先にやられる。
何よりこちらにはゼロというハンデがある。
ゼロを庇いながらどうこの状況を打開するか...。
そう考えあぐねていると不意に声が聞こえる。
『何、敵?』
そうだ
『そっか、じゃあやろうか』
何をだ?
そう疑問に思う次の瞬間にはもう体が動いていた。
俺の思考は置いてけぼりにされ、目の前の映像と行動を見て初めて自分が何をしたのかに気づいた。
俺は即座に部下に接近し、手首を掴んでいたのだ。
「ふん、なんのつもりだ。手なんか抑えてっていてててててててぇぇ!?」
俺が手に少し力を入れた瞬間、部下は体を地面に崩れこませ必死に俺から手を引き抜こうとした。
これが痛いのか......?
全く力を入れている感覚がない。
それに俺は今魔法も一切使っていないはず。
つまり、素の力。
どこからそんな力が......。
これも契約が影響してるのか?
何はともあれ聞き出すなら今だろう。
「おい、お前どっからここへ入ってきたんだ?」
「い、言えるわけない、いてててててぇぇ!!」
「言え。言わないともっと力を入れるぞ」
「い、言えない。そんなことをしたら、私がウルド様に殺されてしまう.....ッ!!」
「ウルドが殺さなくてもお前が言わなきゃ俺が今ここでお前を半殺しにしてやる」
少しずつ手の力を強めていく。
「いてぁぁぁ!?わかった!!!言います言います」
「どこだ?」
「.........ここを真っ直ぐ行って初めにぶつかるコンテナの内側に外に出るための魔道具がある.....」
「わかった」
俺が手を離すと手首には俺の手の形が青く、くっきりと残っていた。
さて、こいつをどうしたものか。
一応拘束だけしておくか。
後で誰かが見つけるだろうし。
俺は拘束用の魔法陣を組んでいく。
魔力が沢山あるせいか、すいすい組める。
俺はそれを使って部下の手を後ろで拘束し動けなくした。
「貴様ら、覚えてろよ。ここから出たところで同じことだ。反逆者共め」
「反逆者?」
反逆した覚えはないんだが......?
まぁとりあえず外に出れば全てわかるはずだ。
「ゼロ、行こう」
「うん....」
ゼロは俺に体をぴったりと着けた。
まるで何かに寄り添い、その感触を確かめるように。




