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見えない誰かとの契約

奴らが去ってからどれくらい経っただろう。


魔力の欠乏で考えが纏まらなくなってきていた。


出血も酷い。


魔力が薄まるにつれて、血管が血圧に耐えられなくなる。


その結果、血管の薄いところから出血を起こす。


今回は鼻と目の粘膜から先に来た。


それから内出血に転じ、腕が青くなっていく。


リンの言いつけは結局守れなかったな。


そんな後悔とも自嘲ともしれない念が襲ってきたがもう遅い。


ゼロは依然として黙ったままだ。


俺がいくら呼びかけても応答がない。


おそらく意識が魔道具に乗っ取られてしまったのだろう。


足元には血溜りが出来ていた。


魔力が切れて死ぬか、出血多量で死ぬか、頭の血管が切れて死ぬか。


どれが先に来るだろう。


背筋に寒気が走るが、体は流れ出す血液で暖かった。


そして不思議と眠くなる。


このまま堕ちてしまいたい。


いや、だめだ....


レーネを残して死ねない。


俺の帰りを今も待っているあいつだけは。


そんな時ふとレーネのムスッとした顔が頭に浮かぶ。


怒っているだろうか。


ただあの時の選択を後悔することはない。

多分、これから先ずっと


思えば、初めて会った時からレーネはレーネだった。


猫の姿から人間の姿に変わっても俺の中のレーネのイメージは変わるどころかより一層固まっていった。

イメージした通りの容姿。


レーネだけは失ってはいけない


その意識だけで行動してきた。


ただその『だけ』というのがレーネは気に入らなかったのだろう。


そう言えば結局、最期もレーネは俺の考えを見抜いていたな


ん?最期?


これが.........最期なのか......?


不意に訪れる不安


弱っていく思考でもそれは理解出来たし、怖いものは怖かった。


そんなのは........いやだ


もっとレーネと生きていたい.....


渇望するように必死に俺は体を動かそうとする。


しかし、俺の体は針で止められたように動かず、ただ重さだけが感覚として残るだけだった。


俺は静かに目を閉じた。


すると、とても楽になった。


涙のように流れ出る血液


その紅さだけを見つめていた。


遠くになにかが見える気がする。


なぜだ?目を閉じているのに......


赤く染まる視界の中に不意に落ちる黒い影。


『ねぇ』


幻聴まで聞こえるのかよ........いよいよ終わりだな


『幻聴じゃないよ、あなたに話しかけている』


幻聴.......じゃない?


だんだん声と目の中の映像がリンクしていく。


黒いワンピースを着た、ゼロか......?

いや少し違う、けど似てるな......


『似てるのは当然だよ。それよりも話があるんだけど』


話?


『そう、ぼくと取引をしない?』


取引......?どういう意味だ?


『あなたはこのままでは死んでしまう。だからあなたにありったけの魔力と力をあげる』


ははは.....。願ってもない話だな


『その代わりぼくに半分、体を貸してくれないかな』


愉快な話だな。


ふん、それで助かるんならいくらでも貸すよ。


神にでも悪魔にでも何にでも


今だったらなんでもやるよ


またレーネと暮らすためなら


『ぼくは神でも悪魔でもないよ、でもあなたの一部ではあるね』


は......?


『取引成立だね』




ああ、ーーー......なんてね....


んなわけあるかよ


昔、魔法で失敗して死にかけた時にレーネに看病されたのを思い出す。


あんなに焦っていたレーネを見たのは初めてだったな。


いや、初めて............か?


前にも................


あの時は............だれだっけ?


思い出せないな。むしくいみたいになってて


まあいいや。いつもの事だし。


いつだって自分の過去を見ようとすると途端に靄が邪魔する。


あーあ


人間、つらいとゆめの中でなにかにすがってしまうものらしい。


いまだって居も........しない....かみや悪まに.....すがるなんて、な


あれ..........


きゅうにふかく....なって


だめだいしきが.........とけてしまいそう.......


◇ ◇ ◇


「!?」


突然、目が覚める。


俺は地面に倒れ込んでいた。


なんで、俺は地面に?


俺はゆっくりと立ち上がる。


確か俺は魔力を奪われ、拘束されていたはず。


俺は両腕を見る。


確かにあったはずの魔法陣の輪っかがなくなっている...?


いや、それより魔力が戻っている......というより増えている......???


俺はレッグホルダーを確認する。


ポーションはまだある。


ということは魔力ポーションを飲んだわけではないということだ。


いやいや、おかしい。


意味がわからない。


なんで拘束が外れている上にポーションも飲んでいないのに魔力が回復して.....いや増えてるんだ...!?


『やあ、聞こえる?』


「ッ!」


どこかから確かに聞こえた声


俺は周りを見渡す。


「誰かいるのか!?それより先にゼロの魔道具を外さないと...ッ!」


濁流のような情報に混乱していて気づかなかった。


俺は急いでゼロの魔道具に手をかける。


『ねえってば』


「後にしてくれ!!どこから話してるのか知らないが攻撃してこないあたり敵じゃないんだろ!?」


『どこもなにも.....』


ゼロの魔道具は頭を覆うように作られており、上に持ち上げるだけで簡単に外れた。


『あなたの中からなんだけどな.....』


「おい、ゼロ!!大丈夫かッ!!」


俺は光源魔法の光をゼロの目の前で左右に動かす。


するとゼロは最初こそ虚ろな目をしていたがやがてすぐに目に光が灯る。


「アルフ.........ッ!」


良かった、無事そうだ。


「大丈夫、だったの.....?」


「ああ、よく分からないがな。ゼロは?どこかおかしいとことかないか?」


「うん.....大丈夫。それより、アルフ.......血が.....」


「ああ、これか。これはもう止まったみたいだ」


恐らく魔力が戻ったことにより、自己治癒したのだろう。


ただ、まだ血が足りなくてくらくらするが....。


「とりあえず、奴らが来ないうちにお前の友達をあそこから出そう」


「うん、ッ!」


『その友達がぼくだよ』


「よし、じゃあとりあえず魔法陣を........って、は?」


「どうしたの......?」


「友達って........」


「?・・・ッ」


ゼロは急に俯く。


「怖がらない.......?」


「ああ、多分......」


「その子、私とは違うから.....」


俺は恐る恐る暗闇を照らし、木箱を見る。


やはりか。


木箱は壊れて跡形もなくなっていた。


じゃあ.......


『やっと分かってもらえた?』


この声の主が......。


「じゃあどこに......?」


「私のすぐ近くにいる、気がする.......」


ゼロは俺の方を見つめる。


「ゼロ........わかるのか?」


「うん、何となく。いることはわかるの」


なるほど、だからある程度の場所もわかったのか。


どういう仕組みかはわからないが。


しかし場所はわかってもさっきの声は聞こえていないらしい。


「それでどこにいるんだよ」


『だからあなたの中だって、再三言ってるでしょ』


「いやだから意味が分からないんだよ、それの」


どこを見ても声の主は現れない。


ゼロはキョトンとしている。


恐らく、俺が独り言を言っているように見えているのだろう。


となるとやはり、遠隔魔法で直接の脳に声を送り込んでるとかなのか?

あるいはゼロに聞こえないような細工が.....?


『はぁ。じゃああなたの腕に光を当ててみて』


「腕?」


俺は言われるがまま袖をまくり、光を腕の方に近づける。


すると........。


「・・・ッ!?」


俺は言葉を失う。


腕の血管を流れる血が真っ黒に変色していたのだ。


『それがぼくだよ』


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