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一匹のメイドの追憶

「私を行かせてくれませんか?」


「だめだ。行かせられない」


ご主人様の部屋。


四方八方には逃げられないよう魔方陣が張ってある。


今のままでは脱出は困難。


「なぜ、私を騙したのですか?」


私は、そうお師匠様に問いかけた。


「騙した、か.......。少しニュアンスが違う気がするかな。正確には、アルフの方が早かったってとこ」


「ご主人様の方が、早かった.....?」


私は言われていることがよく理解出来ず、困惑する。


「うん。君が私に連絡取って来たちょうど一日前に直談判してきたんだよ」


「ご主人様はなんと?」


「君をしばらくの間監視しておいてくれないかって頼まれてね。最初は驚いたよ」


そんな....。私よりも先に手を打っていたとは...。


じゃあ、まさか......。


「この、ペンダントは偽物.....?」


私の問に対し、お師匠様は少し笑った。


「私は、君たちを対等な弟子だと思っている。だから、不公平なことはしないつもりだ」


お師匠様の顔はコロコロと変わる。


さっきは無邪気な子供、今は師匠だ。


「つまり、それは本物だよ」


私はそれを聞いて、思わず顔を歪めた。


「なぜ、それを私に.....?」


「チャンスは平等に、と思ってね 」


「そんな遊びみたいな...」


「遊びなんかじゃない、大マジさ 」


「.....ッ」


「それを使うも使わないも君の自由。ただ本当に君はそれを壊せるのかい?」


このペンダントはお師匠様とご主人様の共同魔法を破れるもの。


これを破壊しさえすれば、私はご主人様と対等な力を使えるはず。


ただなぜだか、胸騒ぎがした。いや、原因はわかっていた。


それに触れている間、記憶の濁流に飲み込まれるのだ。


このペンダントは私と共鳴している。


君にそれが、壊せるの?


言葉がうねり、私の心臓を締め上げる。


そうだ。


私にかかっている魔法を解くことは、ご主人様との唯一と言っていい繋がりを断ち切るのと同義だ。


だから、私は怖がっている。


今私は自分で首輪を外そうとしている。


私はそんな恐怖を押し殺しながら、ペンダントに手をかける。


すると、不意に目の奥に光が差し込む。


眼球はその閃光に耐えきれずに、瞼を閉じると一つの情景を映し出す。


懐かしい古い記憶だ。


そこには、小さな黒猫と少年が居た。





私は親の顔も知らない野良の黒猫だった。


誰にも懐かず、ずっと一匹だった。


人からは不吉だと忌み嫌われ、魔法使いには儀式の玩具にされそうになる毎日。


特に魔法使いにとって、儀式の触媒となる黒猫は重宝されるらしく見つかったら最後一日中追い回された。


私は、人間が大嫌いだった。 一人を除いては。


少年は私が子供たちに石を投げれる中、ひとり私を匿った。


「やめろよ」


そう一言呟き、私をその場から攫って行った。


その少年は私がいくら威嚇しても動じず、またいくら噛み付いてもビクともしなかった。


それどころか、自分の食べるものさえないのに私に餌を与え続けるのだった。


少年もまた魔法使いから産み落とされた人間で人間に追われる身だった。


私はそんな少年を馬鹿な人間、と認識していた。


灼熱の夜には、避暑地を一緒に探し極寒の夜には私を暖めてくれる。たかが猫一匹のために。


そんな馬鹿な人間。


街では、大人が子供を大人が大人を吊るし上げており、人間とは本当に愚かな生き物だと思った。こんな生き物に生まれなくてよかった、とも思った。


少年は私に時々、話しかけてきた。


当然、私は返事など出来るはずもなくただ何もせず、じっとしているだけ。


最初はなんのためにと思っていたが、次第に彼も孤独なのだと分かり始めた。


彼もまた私と同じ孤独な生き物なのだと。


「腹、へってないか?」


へってますよ


「そうか、そうか。今持ってきてやるからな」


「にゃ」


「お前は本当に賢いなぁ」


「にゃぁ、」


そんな一方通行の会話でさえ、お互いの孤独を埋めるのには十分だったのかもしれない。


そんなある日、街で伝染病が大流行した。


どうやら、現代の医療では太刀打ち出来ない新種のものらしいが、国民は全ての怒りの矛先を魔女に向けた。


その結果、魔女狩りが活発化した。


その少年も例外ではなく、魔法が使えないのに魔法使いと言われ、追われていた。


毎日、体中に傷を負って帰ってきていた。


そんな中でも変わらず、餌を持ってきてくれる少年。毎回その顔には笑がある。


どこまで、馬鹿なのだろうか。


そんなことを考えつつも、だんだん少年といるのが嫌ではなくなっている自分がいた。


前まであんなに嫌だったものに急に近づきたくなる。体をすり寄せたくなる。地面に体を擦りつけたくなるのだ。


それらの衝動を私は押し殺し、毅然としていた。


「甘えたかったら甘えてもいいんだぞ?」


調子に乗らないでください、人間風情が


がぶり


「痛テッ!噛み付くなよ!」


「にゃ」


些細な意思疎通なら出来ている気になっていたころ、少年もまた伝染病の魔の手に落ちた。





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