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止めどない絶望

走馬灯を見るだけの記憶が残っていない。


頭にポッカリと空いた穴から風の音がする。


師匠はそれを「呪い」と言った。


しかし、それ以外何も教えてくれなかった。


幼少の時の記憶。


誰もが持っているはずの記憶。


それが俺にはなかった。


いや、正確にはなくなったのだろう。


だから、こんな時に思い出せるのがレーネしかいなかった。









「ちょっと、待ってください!!中にはまだアルフさんが........ッ!」


「じっとしてください。マリーさん」


部下に無理やり押さえ付けられて、拘束具を付けられる。


「けが人の手当を急いでください。これから残党狩りを始めます。救助活動は打ち切ってもらって結構です」


様々な場所に指示を出すウルド。


「私にこんな事をして一体どういうつもりですか? 」


「どういうつもり、ですか」


ウルドはわたしの質問に対して、まるで子供のいたずらに対応するかのよう態度をとる。


「あなた方には、情報漏洩の疑いがかけられているのですよ 」


「情報.............漏洩? 」


「今回の作戦は完全に相手側に読まれていた、いや把握されていたのです。これがどういうことがわかりますか? 」


「私が情報を流した、と? 」


「正確にはあなたの班全体ですがね」


「証拠は、あるんですか」


私の返答で周りが私を睨む。


「あなたの班だけ、1名を除いて崩落の際に救出されました。他は皆、瓦礫の下敷き。これが何よりの証拠じゃないですかね 」


「それだけで決めるなんて.......そんなことよりまだ中に人がいるのにどうして救助続けないんですか!?」


「遺体の身元の確認が取れましたので打ち切ったまでですよ」


「遺体の....身元確認って......?」


頭に過ぎる、最悪の知らせ。


「じゃあ.............アルフは...?」


ウルドは少し右にずれ、後ろにあったカーテンを開く。


そこには、顔を布で覆われた人の姿。


ゆっくりとその布をウルドが取り去る。


「残念でした、私共が崩落した地下へ行った時にはもう既に.....」


布の下の顔、それは間違いなくアルフものだった。



「・・・・・そんな.....嫌よ」


「納得していただけましたかね。君、彼女を連れていきなさい」


私のせい.............なの?


「大人しくしてください」


「しばらくしたら、治療を終えたエメラダさんも来るでしょう」


私が...........指示をすることを放棄したから....?


「 それと先程、『それだけで』仰っていましたがあなたはあの予想外の事態が起きた時もただ黙って見ていたそうじゃないですか。それは裏切り行為の何物でもないしょう」


ウルドの声が遠ざかっていく。




「......................ぃ」


「おい!」


エメの声で我に返ると檻の中にいた。


無機質で冷たい床の上。


入れらてからずっと立ったままだったらしい。


隣にはエメがいた。


「どうしたんだよ、さっきからボッーとして。それにその泣き腫らした目だって...」


ドンッ

右手に鈍痛が走る。


「おい!」


ドンッ

次は激痛が走った。


「おいって、何してんだ。やめろよ!!」


ひたすら床に拳をぶつける私を止めるエメ。


止めないでよ


ドンッ


今はただ自分を痛めつけたいの


ドンッ


役立たずの自分を


だんだんと右手の感覚がなくなり、血の熱だけが残っていく。


拳から血が滴り落ち始める頃、エメは私の手首を強く握りしめ、無理やり自傷行為を止めさせた。


「やめろって言ってんだろ 」


「止めないでよ 」


「何があったか知らねえけど、こんな無意味なことするのはやめろ。この手だってアルフに直してもらったって嬉しそうに話してたじゃねえか 」


私は膝から崩れ落ちた。


「だって........アルフがッ! 」


歯を食いしばると、絞り出されるようにまた涙が出てくる。


「アルフが............死んじゃったのよ....」


私の言葉を聞いて、エメは一瞬驚いた表情をするがすぐに元に戻る。


「直接見たのか? 」


「見たわよ!!目の前で....見せられたわよ 」


またすぐに脳裏にフラッシュバックするアルフの横顔。


「じゃあ、直接触ったのか?」


「それは........」


「語りかけたのか?名前を呼んだのか?心臓の音、聴いたのか?」


「・・・・・。」


「じゃあ、死んでねえよ。あいつは 」


「どうして.....」


「?」


「どうして、そう平然としてられるのよ....」


「オレが、平然としているように見えるのか?」


「え...........?」


私の返答と同時にエメは思い切り左手を檻にぶつけた。


「くそ......情けねえな、オレも 」


エメはそのまま私の手を離し、後ろを向いた。


エメは人に涙を見せない。


だから、泣きそうな時は後ろを向いたりしゃがみこんだりして隠す癖がある。


エメもアルフにあの時助けてもらわなければ、今頃瓦礫の下敷きになっていただろう。


それが悔しいのかもしれない。


いずれにせよ。この気持ちを抱えているのは私だけじゃない.....。


エメが不意に見せた弱さで私は少し冷静になった。


「とにかく、ここを出て直接死体を見るまでオレは信じねえからな。もしかしたら、幻影魔法か何かがかけられていたかもしれない」


「それって軍を疑ってるの?」


「当たり前だろ。あの時点で対策されてるってことは少からず軍の中に情報を流したやつがいるのは確実だ。そいつを、見つけてぶっ殺してやる」


「うん......。でもどうやってここを出るのよ。魔法だって使えないのに」


この鉄格子や壁の隅々に魔法を使えなくするための特殊な魔法陣が刻み込まれていた。


言わば、完全に魔法使いを閉じこめるための檻。


そして檻そのものや壁も合金で出来ているため、そう簡単には壊せない。


「一応、考えはある 」


そう言って、エメはニヤリと笑った。








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