反響する嗤い声
俺は舞台袖に転がり込み、何とかそれらの魔法を回避した。
それにしても、当たり前のように脳内構築魔法を使ってきやがる。
そしてなによりもイリスもそうだったが、なぜ俺たちしか知らないはずのものを学会のヤツらは自由に扱えるのか、ずっと疑問だった。
あれは師匠が発表し、そのまま外への公表を禁止されたはず......。
しかしそんな疑問を解消するまもなく、次の攻撃が飛んでくる。
とにかく、魔法を放つまでの感覚が短い上に殺傷能力の高い魔法を正確に飛ばしてくる。
俺は思い切り、客席の方に魔法で跳躍しながら少女を見る。
やはり、あの魔道具が補助をしているらしく、魔道具から魔力が微かに漏れているのが見える。
一番はあの魔道具を破壊することなんだが、魔法陣を張ったところですぐ壊されてしまうだろう。
どうするか.............。
そんな時、俺はふと後ろを振り返る。
そこには、ボロボロになったエメがやっとの事で立ち上がっているのが見える。
エメには魔法が効かない。
つまり、あの傷はすべて物理的なダメージでついたものだということになる。
やはり、俺もエメの援護にあたった方がいいだろう。
俺がそう思い、行こうとするとエメは目で威圧してくる。
どうやら、来るなということらしい。
だが、未だにイリスの猛攻を受け続けているのを見るとおそらく限界は近い。
と、ここで俺はあることに気づく。
防御しながら、エメが中央に押されている....?
いや、イリスが中央に誘導しているのか!?
なんのために.......?
俺は上を見上げる。
僅かにだが、魔法陣を描いたような跡が見える。
もしかしたら、エメが誘導されている場所の天井になにか仕掛けがあるのかもしれない。
とにかく、エメにこのことを早く知らせないと.....。
俺がそちらの方向に走ろうした時、前方に魔法陣が現れる。
俺は咄嗟に右に飛ぶのと同時に魔法陣が爆発した。
「逃がさない.....」
どうやら、これもあの少女からの攻撃らしい。
そう簡単に行かせてはくれないか......。
少女は俺に向けて手をかざす。
先手を打たれる前にこちらが仕掛けなきゃ、勝機はなさそうだ。
俺はあの黒い塊の頭上にいくつもの魔法陣を構築した。
そしてそれらは全てダミー。
本命は少女の頭上の方だ。
さっきの反応から見て、あの黒い塊は攻撃魔法に反応しているだろう。
だから俺のさっきの跳躍魔法には反応を示さなかった。
そして、少女に対しての攻撃にはより敏感らしい。
なら、攻撃を仕掛けなければいいという発想だ。
しかし、これは所詮仮説に過ぎない。
それにこの本命の方を破壊されるわけにはいかない。
そのためのダミー。
黒い塊の方にあるやつは全て攻撃魔法だが威力は最低限のもの。
俺が魔法陣を構築するのに合わせて黒い塊は先程と同じように触手を作り出す。
案の定、黒い触手で即座に破壊しに行ったのはダミーの方だった。
黒い塊がダミーを破壊するのに夢中になっている間に、少女の頭上の魔法陣を起動させる。
その魔法陣は起動後、凄まじい光を放った。
恐らく、魔道具と言えど、視覚情報などは少女のものを頼っているはず。
つまり、光で目を潰してしまえば、向こうは動けなくなる。
俺はその隙にエメの方へと向かう。
エメは見るからに防戦一方だった。
そしてイリスがニヤリと笑うのが見える。
全身に寒気が走る。
すごく、嫌な予感がする。
急がないと........。
俺は跳躍魔法でエメの所まで行き、エメの足を掴む。
「おい!!アルフ。お前どうしてここに.....」
「サラに防御魔法を張るように言え」
「は!?いきなり何言って..........ッ!」
俺は思い切り、エメを奥の客席付近にいるサラの方へと投げ飛ばした。
よし、俺もこのまま......。
俺もそれに合わせて、客席に飛び込もうとした時だった。
エメを受け止めたサラがしきりに何か叫んでいるのが見えた。
俺はそれを認識するよりも先に、薄気味悪い笑みを浮かべるイリスの姿が目に入った。
そして、足には嫌な感触。
俺はそのまま視線を足に落とすと、さっきの黒い触手が俺の足に絡みついているのが見えた。
「!?」
足がみるみるうちに黒く変色していく。
俺はそれを振りほどいたが、足の状態を確認する間もなく、いつの間にか目の前には少女が立っていた。
「いっしょに、死ぬの」
小さな子供が強請るように俺の腕を強く掴む。
「ゼロ。ご苦労さん〜。君の役目はこれで終わりだよ、あとはゆっくりその少年とおやすみ」
そんなふざけた言葉と
「アルフ!!!!早くこっちに!!!!」
サラの必死な言葉。
それらの声がが聞こえた頃には、もう遅く天井に仕掛けられていた魔法陣が起動し勢い良く爆発した。
上からは無数の鉄骨と爆発によって砕けた壁の破片。
目の前には、命令するものがいなくなり壊れた機械のように目を虚ろにしたまま動かない少女。
恐らく、学会により利用されるだけされ、ここで使い捨てられたのだろう。
触手により、変色した右足はもう言う事を聞かない。
今できることは.........。
俺は少女の魔道具を外し、投げ捨てた。
すると、少女の目に光が戻る。
「へ......?」
俺は少女を強く、抱き寄せ手を上にかざして防御魔法を構築する。
これが突破されなければ、瓦礫の下敷きになって圧死することは避けられるはず。
と思った瞬間。
「ッ!」
突然、足元をすくわれる。
上ばかり見ていた俺は突然の事に反応出来ず、そのまま後ろに倒れるようにしたが、それより先に足場が崩壊していく。
ハハハハハハハハハハハハハハハハ
とち狂ったようなイリスの嗤い声が耳鳴りのように響く。
どうやら、足場にもあらかじめ魔法陣が仕掛けてあったらしい。
それが起動し、俺たちの足元に巨大な空洞を創り出したのだ。
集中が途切れ、防御魔法が崩れていく。
俺と少女はそのまま瓦礫と共に魔法によって空いた空洞へと落ちていった。




