正体不明の意思ある兵器
「さてと」
「へ〜。君が残るのは予想外だったな」
「オレじゃ不満か?」
「いや?結局は同じことだよ〜。両方潰すから」
身なりはガキの癖してなんて目してやがんだ、こいつ。
見た感じは手ぶら。魔導書や魔道具らしきものも持ってない。
やはり、サラから聞いた通り正体不明の魔法ってやつで来るのか........。
アルフにあんな風に啖呵切ったはいいけど、勝てる気がするかと言えば、微妙なラインだな。
まあ、負けるなり死ぬなりしたら、アルフに心配してもらえそうだからそれはそれでいいがな。
それにしても、久しぶりに味わう感覚だ。
『恐怖』という感覚。
今まで、色んなやつとやり合ってきたが、怖いと思ったのはアルフとタイマン張った時以来だ。
オレは横に転がっている死体に目を向ける。
その死体からは魔力が全く感じられない。
やはり、オヤジが結構前に買っていた兵器と似たようなものか。
『命令で動く人ならざるもの』
こいつらがどうやって入手したかは知らんが、確かに軍が焦る気持ちも分かる気がする。
確実に何かやばいものを作り出そうとしている。
そして、作ったものを試すためにこの場を使った。
恐らくは国にとって面倒なギャング共を一掃する目的もあったんだろうが......。
と、余計な勘ぐりをしている暇はなさそうだ。
今は目の前の敵を何とかしねえとな。
とにかく、初動が大事だ。
オレの場合、魔法は効かねえが拳銃や刃物のようなものでの物理攻撃は全部通っちまうから、その点が心配だったが、有難いことに向こうは手ぶら。
ならオレにも勝機はあるだろう。
なにせ、向こうは魔法使い。
魔法使いは魔法を全能の武器だということを前提に攻撃してくる。
故に生まれる隙、それを突く。
「そろそろかな.......」
イリスが合図のように呟く。
来るか?
すると突然、後ろからの気配を感じ、咄嗟に頭を横にずらす。
「!?」
「へ〜、今の反応できるんだ」
オレが避けた蒼白い閃光を帯びた魔法はホールの屋根にあたり、会場が微かに揺れた。
今、詠唱したのか?それとも無詠唱魔法?
いや、それにしては威力が高すぎる。
これがサラが言ってたヤツか。
こりゃ、初動がどうとか言ってられんな。
けどまだ、ネタバレは出来ない。
直前まで、魔法は避け続けなければ意味が無い。
オレは椅子を踏み台にして前に出る。
一撃で仕留めてやるよ。
オレは右手を思い切り、振りかぶり相手の頬目掛けて殴りつけようとした。
しかし、イリスは後ろへ飛びオレの拳を悠々と回避した。
思ったよりも反応がいい。
オレは今かなりのスピードで間合いを詰め、拳を入れた。
常人なら、くらうかガードするかで精一杯のはずなんだがな。
魔法使いとは思えない反応の速さ。
「魔法使わないんだね〜」
「使うまでもねーってことだよ」
「ふーん」
「!?」
気づくと、イリスの顔がオレの目の前まで来ていた。
いつの間に!?
いやそれより、今が攻撃するチャンス。
オレは攻撃するため腕を動かそうとした時、イリスの平手がオレの肩に直撃した。
だが、威力は低い。
これなら押し切れる。
そのまま、拳を振り上げようとした時、オレは自分の腕がイメージ通りに動いていないことに気づいた。
いや、というより右腕の感覚が......ない!?
そして、イリスは俺の目の前でぴょんと飛び上がり、回し蹴りをくらわせてくる。
ここは無理矢理にでも左手でガードしないと....。
だが、さっきの攻撃を見ると、こいつはオレより腕力はなさそうだ。
なら威力も低いはず。
「ガっ!?」
オレの予想に反して身体は真横に弾き飛ばされ、そのまま壁に激突する。
どんな力してんだよ....。
何とか、立ち上がり肩に触れる。
あの一瞬で脱臼させやがったな。
オレは壁に肩を無理矢理叩きつけ、自力で元に戻す。
痛てえが、右腕が動かないんじゃ話にならない。
くそ、魔法をほとんど使ってこないのは予想外だった。
それにオレをも上回る力。
あの華奢な体からどうやってあんなパワーを....。
「自力で治すなんて、すごい根性だね〜」
ニヤニヤした顔がオレの癇に障る。
こりゃ、かなりやばそうだわ。
俺はブレスレットを付け、黒い塊と少女を目指して走る。
黒い塊はさっきから、止めどなく球体状の何かを吐き出し続けている。
そして周りのギャングたちはそれに被弾したり、学会員と闘ったりと会場内はてんやわんやだ。
とにかく、あれを何とかしないと戦況は変わらないだろう。
それにさっきの様子じゃ、増援は見込めない。
俺たちで何とかしないと.......。
そしてようやく、黒い塊の前まで来る。
確実にさっきよりもまたさらにでかくなっている。
すると、俺の目の前に少女が立ちはだかる。
「どいてくれないか」
「・・・・・」
返答はない。
「言葉、通じないのか?」
「近づくなら...................攻撃する」
頭につけているのは魔道具か?
もし、エメが言っていたことが本当ならこの子はなんの罪もないただの子供。
なら、攻撃しないのがベストなんだが。
と、考えていると球体型の攻撃魔法が不意に飛んでくる。
詠唱した形跡もなければ、魔導書を使っている訳でもない。
あの魔道具からか?いや魔道具を使うにしても何らかのアクションは必要なはず。
今の一瞬でそのようなものは見えなかった。
だとすると残るは、脳内構築魔法....か。
俺はそれを右に飛び、かわす。
少女がつけている魔道具からはうっすら目元が見える。
脳内構築魔法というのは、目測で距離を測り頭で魔法を描くため独特の目の動きがある。
それが不慣れなほど、目に見えてわかるのだ。
それからするとこの少女は脳内構築魔法、いやそもそも魔法を使うこと自体に慣れていなさそうだ。
なのに、魔法の軌道はかなり正確で俺の脳天目がけて飛んできた。
それにはやはり、あの魔道具がそれを補助もしくは少女自体を支配しているのかもしれない。
いずれにしても、目の前の少女をなんとかしない限り、あの黒い何かには触れられない。
なら、ここは少し無理してでも少女を無力化にしに行くべきだろう。
俺は少女を見据える。
そっちが脳内構築魔法を使うなら、こっちも同じ手で行く。
俺は頭でイメージした魔法陣を少女の頭上に出現させ、即座に起動させた。
目的はあの魔道具の破壊。
少女はそれに気づいていない。
これで魔道具を無力化できるはず。
そう思った矢先、隣から触手のような黒いものが凄まじいスピードで飛んできて俺の魔法陣を破壊する。
「なっ......!?」
どうやって........認識したんだ。
まさか、あの黒い塊は魔法陣を認識して破壊してきたのか。
いやそれよりもあれが少女を守ったという事実の方が俺を驚かせた。
そもそも、守るという行為自体が与えられた命令をただ真っ当するだけの兵器にはまず不可能なはず。
まさか、あの黒い塊にも何らかの意思が宿っているのか.......?
いや今はそんな理屈をこねている場合ではない。次の攻撃に備えないと.......。
「ッ!」
周りを見渡すと無数の魔法陣が俺を取り囲むように形成されていた。
しまった....あの黒い塊に夢中でそっちまで意識が回らなかった。
「排除」
その言葉を合図に、魔法陣が一斉に起動した。




