少女の叫びと新たな闘い
「・・・」
「調教完了だな」
痛みが和らぎ、思考が安定する。
見渡すと辺りには瓦礫の山が出来ていた。
「これ全部、私が.......?」
「そうだ。全てお前がやった」
「う........そ...」
「嘘ではない。これがお前の商品価値だ」
私は魔法が使えないはず.....。それなのにどうして?
これのせい?
私は自分の頭上にある魔道具と呼ばれるそれに触れる。
「どうだい?調教は順調かな〜?」
不意に奥の暗闇から、私と同じくらいの背丈の少女が現れた。
「ああ。イリスか。かなり順調だ。恐らく、実用的な運用も可能なはずだ」
「なら、丁度いい。その子を売るのは先送りにして、テスト運用といこう〜」
「先送り?どういうことだ」
男の表情は険しくなった。
「情報が入ったんだよ。次の交渉に軍が紛れ込むってね」
「......なるほど。ヤツからか。それの一掃に使うということか」
「そうそう〜、少し暴れても貰う。それとついでに、失敗作も試してみてね」
「わかった。用意しておこう。それにしても、この技術は本当に便利だな」
「そうだね〜。先人の知恵様々だよ」
「私からしたら、あなたも十分先人だがな」
「ふふ。女の子に歳の話をしちゃダメだよ〜」
「でも、実際のところ、百は超えているのだろう?」
「まあね〜」
百!?私と同じくらいの身なりなのに?
いや、驚いている場合じゃない。
意思があるうちに、ここから逃げないと...。
私は魔道具を外そうとそれに手をかける。
しかし、その動きをすぐに見抜き、男は私の腕を掴む。
「そう容易く、逃げられると思うな。まだ、こんなのにはなりたくないだろう?」
男は近くにあった木箱を蹴飛ばす。
倒れた木箱の中からは、液状の黒い何かが溢れてきた。
「これ、な....に?」
「失敗作だ。もう人間とは呼べない。が、あれには意識がある」
「嘘、でしょ?」
「お前と一緒に連れてこられた娘がいたな?」
確かに、同じくらいの年齢の女の子が私と一緒に連れてこられていた。
彼女は私よりも、かなりポジティブで記憶なんて気にしない、そんな子だった。
けど、どうして?
「あれがそうだ」
「へ.........、?」
「あいつは体と記憶が適合しなかった。お前と同じようにな。ただ、それだけじゃなく、呪いにすら耐えられなかった。だから、体が魔力で膨張して粉々になったんだ。けど、呪いで意識だけは保護されているから、私たちの言葉を理解し、反応を示す」
「本当に、これを作ったやつは頭のネジが飛んでるよね〜。まあそれを利用する私達も大概だけど」
体中の震えが止まらない。
フラッシュバックする記憶の断片。
活発に笑う少女。何も思い出せなくて、ただ泣くだけの私にそっと手を差し伸べ、慰めてくれた少女。最後まで助かると信じていた少女。
その黒い液体は触手を形作り、まるで私の肩に手を置くように乗せてきた。
それは、人間の子供のようにとても暖かった。
「でもこれのおかげで、資金も調達できたしね〜」
「さあ、お前もこうなりたくないのなら、黙って従え」
「................ゃ、」
「?」
「いやああああああああああああああ」
「リーフィ......?」
「しっかりして!!リーフィ!!」
状況が、整理できない。
作戦がバレていたのか?
ポーションで止血しながら、ジルが必死に呼びかける。
しかし、先程から反応がない。
周りには俺たちと同じように攻撃を受け、学会員と応戦するギャングたちで溢れていた。
会場は文字通りパニックだ。
とにかく、こちらも動かないと.....。
「おい、サラ。俺らも動くぞ!」
サラは俺の呼びかけに反応しない。
呆然としているサラの肩を強く揺する。
「ダメよ...。私たちの動きが完全に読まれてる」
「そんなことはどうでもいいんだよ。とにかく、今ここでお前が指示を出さないと誰も動けないんだ!!」
「無理よ.......。状況が.....」
「上はなんて言ってるんだ!?」
「........その場で待機......して指示を待て」
「はぁ!?ここでこのまま待機してたら、全滅だ!!」
「おい、アルフ。喧嘩してる時間はなさそうだ。とにかく、オレらだけでも行かないと手をくれになりそうだ」
エメはステージを指さす。
そこには黒い塊が膨張し、先程の2倍の大きさに膨れ上がっていた。
「なんだよ.....あれ」
「わからん。けど、やべーもんってのは、何となくわかんだろ?」
「わかった。行こう」
「あんた達。待ちなさいよ!今行ったら、みんな.......」
「サラはここでリーフィ達を守っておけ。俺らはイリスとあれを叩きに行く」
とにかく、あれに近づいてみないと情報が何も入ってこない。
上は恐らく、何かあった時は問答無用で見捨てる気だったのだろう。
だからこそ、この編成。
俺たちは席をひとつずつ伝いながら、前に進む。
各席にはさっきの攻撃で致命傷を負わされたギャング達が血だらけで倒れ込んでいた。
そして、その周りには黒い液体。
いったい、これは.......?
「多分、それには触らない方がいいぜ」
「これがなんなのか分かるのか?」
「いや、正確には見たことがあるってだけだ......と説明する前に先にやることが出来た」
「やること?」
「前を見ろ」
俺は言われたとおり、席の間から前を見るとそこにはイリスがいた。
「やあやあ〜。久しぶりだね。もう一人の子は初めましてかな?」
「イリス.....」
「覚えててくれたんだね〜。うれしいな。それで........どっちから殺られにくる?」
イリスは俺たちの目を真っ直ぐ見る。
その瞬間、鳥肌が全身を覆った。まるで、蛇に睨まれているような気分だ。
「アルフ。ここはオレに譲ってくれないか?」
確かに、魔法が効かないエメはイリスとは相性が良さそうだが......。
「大丈夫、なのか?」
「ああ。まあ、ダメそうなら助けに来てくれよ」
すると、イリスが笑い出す。
「ふふふ。そんな隙、与えるとでも〜?」
「隙は貰うもんじゃねえ。作るもんなんだよ」
エメは不敵に笑う。
恐らく、エメなりの挑発だろう。
「わかった。俺は先にあの兵器を何とかしてくる」
「おう」
俺はエメの顔をじっと見つめる。
あのサラですら、初手でやられた相手。
言ってしまえば、かなり心配だ。
一瞬、沈黙が流れる。
「............」
「なんだよ。信用出来ねーってのか?」
「いや...........ヤバくなったら、呼べよ?」
「おう!!任せとけ」
俺はそう言い放ったエメを横目に、ステージの前へと地を蹴り、飛び出した。




