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荒れる交渉と破綻する作戦

もうすぐ陽が昇ろうとしていた。


「マリー。準備は?」


「出来ております」


「そうか。ではこれより作戦を開始する。皆準備するように」


上官は懐中時計を睨み付け、宣言した。


それに合わせて、それぞれが配置に付き始める中見覚えのある影が近づいてくる。


それはウルドだった。


「やあ。準備は順調かな?」


「はい。今のところは。そちらはどうですか?」


「こっちも順調だよ」


双方が表情を崩さないのでどことなく気持ち悪い。


「お互い生きて帰れるといいね。特に今回は危険な任務だから」


その危険の度合いがそっちとこっちとじゃ、だいぶ違うけどな。


ウルドが去った後、サラはあからさまにゲンナリした表情を浮かべる。


「昇進がかかってるからって、目が怖すぎるのよ、あいつ」


「昇進?」


「そう。あいつは私とは違って元から軍付属の養成所から来てるのよ。だからここで昇進しとかないと後が無いのよ」


「後が無いってどういうことだ?」


「同期に負けたくないんでしょ。要するに他は出世してるのにどうして俺が、とか考えてるんでしょ。どーせ」


「なるほどな」


だからあんな目がギラついてるのか。


「それより、あんたのとこのメイドはどうしたのよ。いつもは一緒なのに」


「おいてきたに決まってんだろ」


今頃、目を覚まし、師匠に監視されているところだろう。


帰ったら、何を言われるだろうか。


レーネの顔が脳裏をチラつく。


いや、今はそんな事考えるのはよそう。


「へー。珍しいじゃない」


「怪我でもされたら、困るし今回のやつはとりわけ危険だ」


「大事にしてるのね」


「ああ。一番大切だ」


「ふーん。そっか、一番ね............」


サラは俺の言葉を聞いて、少し下を向いた。


俺はどうかしたのかと思い、覗き込もうとするといきなり後ろからエメが飛びかかってきた。


「一番とか言うなよ!お前の一番取りたがってるやつもいるんだからよぉ!」


「ちょ、ちょっと!!」


エメが来たことにより、サラの態度は急変した。


「オレとかな?」


冗談気に言うエメを見て、思はず破顔する。


「お前は自衛できるだろ」


「ひでー。女なんだぜ?これでも」


「と、とにかく、無駄口叩いてないでもう行くわよ!」


サラの一声で班全員が集まった。


いよいよ、作戦開始直前とあってエメを除いた全員は緊張した面持ちに変わっていった。


「とうとう始まるのか」


エメが楽しげに笑う。


久々に外で暴れられて嬉しいのだろう。


本来なら、こいつには付き人がいるものなのだがまだ仮釈放ということで許可されなかったのだろう。


「き、緊張します」


ジルが不安そうにソワソワする。


「大丈夫だよ。これで名を上げて、身分向上待った無しよ!」


リーフィは景気づけにそう言うが、自分は自分でかなり緊張してそうだった。


まあ、これから殺し合いに近いものが始まるのだから緊張して当然だ。


むしろ、エメが異常というものだろう。


「アルフ先生」


「?」


声の方向に視線を向けると、ギルがいた。


そしてその声に、反応したのは俺だけじゃなかった。


ジルもあからさまに肩を震わせる。


「来て間もないのにこんな仕事とは、とうんざりしてますか?」


「いいえ」


「そうですか。来た時と変わらないですね。目が座っている」


「それは、嫌味ですか?」


ギルは俺の質問には答えず、班に戻っていった。


確か、ギルは待機組だったはずだ。


ギルが去った後、ジルは上げていた肩を下ろした。


「ジル、どうかしたのか?」


「い、いえ。別に.........」


そしてついに、ゴーサインが出た。





ゲートをくぐると中は薄暗い通路のようになっていた。


俺は支給されていたローブを身につけ、男に戻ってもバレないよう魔法をかけておいた。


細い通路を抜けると、かなり広いステージとそれを取り囲むように観客席がある。


「オレたちの派閥はあっちだ。今回はオレの付き人もいねえから振る舞いには気をつけてくれ。今バレると面倒だ」


「「「「了解」」」」


ここで班は上の階の席の班と下の階の席の班で別れた。


後はこれからウルドから合図を待つだけだ。



周りには名だたる各国のギャングたちが集まっていた。


彼らは下手な抗争を避けるために、顔は何らかの方法で隠している。


俺たちもそれに合わせて、それぞれを顔隠す。


エメは自前のスカーフで顔の半分を覆い、他は俺と同じようなローブにフードを眼深に被っていた。


この会場にいる全員の正体が分からないように顔隠している光景は何だか不思議だった。


そしてステージがライトで照らされる。


そこにいたのはイリスと呼ばれていたあの少女だった。


「...ッ!」


サラがぐっと歯を軋ませる。


前に手も足も出なかった相手だ。想定はしていても体が反応してしまう。


「サラ、今はよせよ?」


「分かってるわよ、それくらい.....」


サラは握りこぶしを反対の手で覆うように包み、抑えた。


「皆様、今回はお集まり頂きありがとうございます。私共もこれだけの方々相手に交渉させて頂けるなんて光栄に思えます。余興は退屈でしょうから省きます。最初に紹介するのはこちらです」


イリスがニヤリと笑い、それを光が照らす。


ステージの真ん中辺りが開き、ステージ上に檻のようなものが上がってくる。


中には、かなり大きな木箱と隣に頭に何かをかぶった少女がいた。


「こちらは私共が開発した魔道兵器です」


会場がざわつく。


「あの少女が?」

「それより、あの木箱はなんだ」

「あんな物が兵器だと?こっちは、お遊戯会やってんじゃねぇんだぞ」

「そうだぜ。あんな物、俺たちの玩具にしかならねえじゃねぇか」



「皆様は恐らく性能のことが気になっているのでしょう。そこで皆様には交渉に移る前に、ここでその性能を確認していただきます」


「ここでだと?」

「ハッ、どうやって」


会場はより一層、ざわめき荒れ始める。


もし、あれがサラが言ってた兵器だとすると...。


俺はちらりとサラの方を見た。


サラは静かに頷く。


すると、イリスが動き始める。


イリスの周りには何人かの学会員と思われる者達がいた。


「今から、皆様が気にしておられるこの箱について説明させていただきます。ところでこの会場には虫けらが複数、紛れ込んだようです」


「虫けら?」

「なんの事じゃ、それは」


俺たちの心臓は跳ね上がるように、心拍数を上げていく。


「とくと、ご覧あれ」


イリスがそう言い放った瞬間、学会員が木箱を叩き割った。


中には、黒い何か。


そう認識した瞬間に、パンという音と共に黒い玉状のものが大量に打ち出された。


「!?」


「エメ!!!みんなを」


サラが叫んだ時にはもう遅かった。


「へ.........?」


リーフィはその声と共に頭から血を流して後ろに倒れ込んだ。


会場内は悲鳴と怒号で埋め尽くされた。









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