作戦開始の前夜
「..........、レーネ?どうしてこんな時間に」
眼前のレーネは怒ってるようで悲しそうでもあった?
「ずっと待っておりました。ご主人様こそ、こんな時間にどちらへ?」
待ち伏せ......つまり最初から俺の動向に注意を払っていたってことか。
「レーネ、お前はここで待ってろ」
俺の言葉を聞いて、レーネのだんだんと顔つきは険しくなっていく。
「嫌です、連れて行ってください」
「ダメだ。危険すぎる」
「危険なのは承知です。でもご主人様のお役に立ちたいのです......それにご主人様の重度の魔力欠乏症も心配です.....」
「どうしてそれを.....」
俺に関して俺はレーネに一言も言っていないはず....。
「ご主人様の口の中から度々、血液の匂いがしました。どうして..........私を除け者のように扱うのですか........どうして何も仰ってくれないのですか......」
「違う!そういう事じゃ....」
「最初からそうでした。そもそもご主人様は私をここへさえ、連れて行こうとはしなかった。それもこれも全て私が弱いからですよね.........?」
レーネは首元のネックレスを握り締める。
「でも、私はもう弱くありません。ご主人様の剣となり、盾となれます。そして死ねと言われれば死ねます」
「.......ッ。そういうことじゃないんだよ....」
「そういうことです。ですから、私はご主人様が同行を認めてくださるまでここから出しません」
そう言って、レーネは扉に魔法でロックを掛けた。
「どうしても、か?」
「はい、どうしてもです」
仕方がない。実はこうなることも想定はしていた。
「レーネ......」
俺は手を伸ばし、レーネの頬に手を這わせた。
「ご主人様....」
レーネの頬は紅潮しているようで温かった。
「すまない」
「ッ!」
俺はレーネに初めから用意していた魔法陣を起動させ、レーネを眠らせた。
眠ったレーネがそのまま倒れてくるのを腕で受け止め、床に座らせる。
レーネが眠るのと同時に扉の魔法が解除された。
とりあえず、レーネを一旦は落ち着かせることに成功したわけだが...。
この魔法は今の俺の力ではせいぜい2時間しか持たない。それを過ぎると自然に目が覚めてしまう。
恐らく、目が覚めたレーネは俺を追いかけて来てしまうだろう。
そのため、俺は見張りを呼んでいた。
「師匠、いるんでしょう?」
俺が呼びかけると案外素直に後ろの暗がりから姿を現した。
「あーあ。君は師匠をなんだと思っているんだい?」
「頼んでいた通り、起きたレーネを見張っていてください」
「はいはい。しかし君も結構ひどいことをする。自分のメイドを説得するのではなく、無理やり眠らせてしまうとは実力行使もいいところだ」
「仕方ないでしょう。時間がないんですから」
「はぁ」
師匠はレーネの頭をそっと撫でた。
「彼女も君のためを思っていただけなのにね」
「大事のは結果ですよ。今、レーネに死なれでもしたら、俺は生きていけなくなる」
「そうかい」
「それにあなたにも聞きたいことが山ほどある。帰ってきたら、覚悟してくださいね?」
「ああ。無事に帰ってきさえすれば、何でもお受けするよ、でも...」
「でも?」
師匠は俺の目を真っ直ぐ見直した。
「イリスは強いよ」
俺はその言葉を背に部屋を出た。
部屋を出て向かったのはサラに指定された場所だった。
街の酒屋の奥の部屋。
各班がそれぞれ別々の部屋に集まって会議をするらしい。
部屋に入ると薄暗い部屋に天井からぶら下げられている豆電球だけが机を唯一照らしていた。
そこにサラやエメ、そして俺の知らない二人の女性がいた。
「よお、アルフきたか」
「まったく、遅いわよ」
「ああ、悪い悪い。んでそこの二人は?」
「そうね。アルフは初めて会うものね。紹介するわ、今回私たちの班で一緒に行動する推薦教員の方々よ」
つまり、前言ってた俺と同じ立場の人間ってことか。
「初めまして、ジルといいます。よろしくお願いします」
ジルと名乗ったその女性は丸い眼鏡を掛けており、だいぶ真面目そうな印象を受けた。
「初めまして、リーフィよ。あなたがアルフさんね」
そしてもう一人はかなり活発でやる気に満ち溢れているという感じだった。
「初めまして、アルフだ。これから宜しく」
「それにしても、なんかやっぱり印象と違うなぁ~」
「ですよね....サラさんから聞いてたイメージとかなり」
「?」
ジルとリーフィが俺の顔を覗き込んでくる。
「どんな荒くれ者が来るのかと思ったら....」
「結構、真面目そうですし...それにすごく綺麗な方で」
「ははは。結構サラが盛って説明してたからなぁー」
エメが笑いながらを口を挟んだ。
「そんなことないわよ!!」
「おい、サラ一体どんな説明したんだよ」
「どんなって.......」
「なんか、女子生徒やメイドさんと抱き合ってたとか.........結構荒々しい口調で説明してましたけど」
俺がサラの方を見ると、俺と目が会わないように逆方向に顔を逸らしていた。
「おい」
「別に、間違ってないでしょう!?」
「間違ってわ!!変な誤解を生むようなことを吹聴するなよ!!」
「じゃあ、前にあったあれはなによ!!」
「まあまあ、痴話喧嘩はそれぐらいにして早いとこ話始めようぜ」
「「違うわ」」
「それに周りの目もな?」
見渡すと俺たちの口論の様子をジルやリーフィが苦笑いで見ていた。
「「・・・」」
恥ずかしい.....。
「と、とにかく!全員揃ったし、早速会議を始めるわよ」
サラは仕切り直すように高らかに宣言した。




