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使用人はすぐそばに

その綺麗に整えられたショートの黒髪と声は間違えなくレーネだった。


しかし何故ここに.....。


「レーネ、お前どうしてここに!?!?」


「.............................。」


返答がない。


しばらくの沈黙の後、レーネはようやく口を開く。


「ご主人様が私の名前をお呼びになるまで58時間と42分と56秒かかりました。私は今、とても悲しい気持ちで胸が張り裂けそうです。」


レーネはこちらを静かに見つめる。


...........そういうことね。


俺が家を出てから荷物かなんかに紛れてずっとつけて来たわけか。それでたった今、認識妨害魔法を解いた、と。


ってことは.........。


「お前、俺が女になって気が動転してる時もそばにいたのか?」


「はい、おりました。」


「じゃあ、助けろよォ!!!」


俺あの時、マジでこれからの将来とトイレをどうしようか焦っちゃったじゃねぇか。


「私は見ていました。我が主人が女生徒をグチョグチョに濡らした後、『先にシャワー、浴びてこいよ』とおっしゃるところも全て。」


「おい!!!言い方ァ!!!」


シャワーのとこなんて変な脚色入ってるし!!


「どうして、私をお求めにならないのです?」


「いや、求めるも何も俺はてっきり家にいるもんだと.........。」


「今からでも遅くはありません。」


「何が?」


そう言ってレーネは突然俺を押し倒す。


「ちょっと!?レーネ!?何やってんの!!」


「なぜ目の前に甘く熟したものがあるのに、未熟な方に手を出すのですか?」


「は!?」


「今から子供を作りましょう。悪く言えば獣姦ですが。」


なんでわざわざ、悪く言った!?!?


「そんなこと、人様の部屋でできるわけないだろぉ!!」


「じゃあ、自室ならいいんですか?それとも外ならいいですか?」


「そういう問題じゃねぇ!!しかも後者はもっとダメだ!それに.......。」


「それに....なんですか?」


「お前も俺も去勢済みなんだよォォ!!!!!」


「なん........ですって?」


レーネは雷に打たれたように固まる。


流石に、これでレーネも引き下がるだろう。なんせ俺には今生殖器官がないのだから。


「...........ありません。」


レーネはごにょごにょと何かをいう。


「ん?」


「そんなの関係ありません!!!!!」


「ええええぇ。」


これでも引き下がらないのかよ...。


レーネは俺の両手を押さえつける。


顔がゆっくりと近づいてくる。


吐息が顔に当たる。


それと同時にいい香りと懐かしい匂いが混ざったようなものが俺の鼻腔をくすぐり、思考を落ち着かせてしまう。


やばい。終わった。ついに俺も獣姦に手を染めるのか。人の家で...........。


俺は足をばたつかせて抵抗するも、俺の体が女で農民のせいなのか、それともレーネがただ単に馬鹿力なのか分からないがビクともしない。


まるで石像が上に乗ってるようだ。


すると玄関の方から扉が開く音がする。


どうやら、シャワーを浴び終えたらしい。



「どうしたんですかアルフ先生............ってえええええええええええええ!?!?」


おそらく俺に見知らぬ女が馬乗りになっている光景に驚いたのだろう。


というかこれ、傍から見たら百合百合しすぎるな......。


「アルフ先生、誰なんですか!?その女の人。」


「こいつはだな......。」


「私はあなたが我が主人に目隠しをされて、ご主人の棒を下腹部とか下腹部とか下腹部に棒を時折ねじ込まれていたのを見ました。」


「変な言い方をするなぁァァ!!!!!!!」


それにお前下腹部強調しすぎだろ。


イヨは顔を真っ赤にし、俯く。




「とりあえず、レーネがいるとややこしくなるからお前は前の世界に戻れ。」


「嫌です。それに今は私の戦闘経験が必要なんじゃありませんか?」


「う.......、それは.....。」


レーネの言う通り、今の俺ではイヨに教えられることが限られてしまっているのも事実。


しかし、この発情期の雌猫をここに置いておくのもなんとなくまずい気がする。


いや気がするじゃなくてまずい、のだ。


「それに家事などもここに置いてくださればすべてやります。」


「う..................それも助かるなぁ。」


正直1日たっただけで部屋はかなり汚くなった。どうして、男というのは片付けができないのだろうか。


「それにご主人様の性欲処理ペットとしても......。」


「いやそれはいらん。」


「即答ですか!?!?」


「うーん。でも確かに俺一人じゃなあぁ........。」


レーネの目は宝石のようにキラキラと輝いている。


しょうがないの、か?


「わかった。しばらくここにいることを許可しよう。」


「ありがとうございます!」


レーネの笑顔が眩しい。


「あの......。」


ずっと黙っていたイヨが俯きながらこちらに質問する。それにしてもレーネが女で本当に良かった。もし男だった場合、全く会話ができなかっただろう。


「ん?なんだ?」


「それでお二人はどういった関係なんですか?」


イヨはかしこまって聞いてきた。


そう言われると説明が難しい。主人とメイドというのが正しいのか?それとも家族か?


俺が答えあぐねているとレーネがするりと前へ出る。


後ろ姿のレーネを見るのもなんだか久しぶりだ。


短く整えられた黒髪は光沢を帯びていて、ついつい触りたくなってしまう。


さらにシワひとつないメイド服は彼女のシルエットを際立たせていた。


「私はこの方のメイドであり、恋人でもありますので、今から唾をつけておこうなどとは考えぬようお願いします。この小娘が。」


レーネは眼力でイヨをシャー、と威嚇した。


この辺は猫の部分が抜けていなかったりする。


「は、はひ。」


明らかにイヨは怯えている。


「おい、俺はお前の恋人ではないし、俺の生徒を小娘呼ばわりして威嚇するのもやめろ。」


「失礼しました。主人に近づく雌を追い払うという猫の本能が働いてしまいました。」


そんな本能聞いたことないが......。


「雌!?」


イヨが過剰に反応をしめす。


まあ普通、人間の女の子が人間の女の子を雌呼ばわりしないよな....。



「まあその......あれだ、俺らは....主従関係みたいなもんだ。」


「はぁ?なる、ほど?」


多分理解してないだろうがまあいいだろう。こいつが元は雌猫ということも黙っておいてやろう。


言ったってややこしくなるだけだしな。


「とりあえず、戦闘訓練の方はレーネに教えてもらってくれ。俺は魔法陣の方を担当する。」


「はい!あの!よろしくお願いします!」


さっきあれだけヘトヘトだったのに復活が早い。 若いって羨ましいね。


とはいえ俺も外見だけは二十歳そこらの女に移転の際にされてしまったのだが、レーネは抵抗なんかはないんだろうか?


「はい、ございません。」


「!?」


「どうしました?」


「今、俺の思考読まなかったか?」


「はい。それが何か?」


「はい、じゃねえよ。どうしてそんなことが出来るんだよ!?」


「前は読もうとしても魔法で妨害されていましたが今はそれがなくなったので簡単に読めるのです。いけませんか?」


「ダメに決まってんだろォ!!!」


そうか。前の魔法力なら当たり前に出来ていたことが今の俺にはできないのか.....。


それにしても恐ろしい魔法だ。


俺が今良からぬ事を考えてなくて本当によかった。


「良からぬこと、とは?」


「なんでもねえよ!とにかく、これからはその思考読解魔法を禁止する!!」


「わかりました。」


レーネは一瞬悲しそうな顔したが承諾した。


とりあえず、今の俺に使える魔法を把握しないとな......。


「レーネはイヨに戦闘の基礎を叩き込んでやってくれ。俺はちょっと情報収集してくる。」


「わかりました。」


「くれぐれも変な事は教えるなよ?」


「はい、承知しております。」


振り向きざま一瞬、ニヤリとレーネが笑った気がしたが気のせいだったようだ。




俺はイヨの部屋を出て、学園に戻り案内図を見る。


地図を端から端まで探していると目当ての施設があった。


「図書館は........2号館の3階か....。」


この学園は大きくわけて3つの館が存在するらしい。


職員室と各教室があるのが1号館、食堂などがあるのが3号館、そして俺が今行こうとしている図書館があるのが2号館だ。


俺は長年賢者として生活していたため、農民系の魔法をほぼ知らない。イヨに教えたような基礎中の基礎のような強化魔法は知っているがそれ以外はすべて賢者仕様の魔法のため現段階じゃ使い物にならない。


だから今はなるべく多くの魔法を知りたい。そうしないとイヨとの組み手をすべてレーネに任せることになってしまう。


レーネは元々猫のため、魔力が人間ほどある訳じゃない。(才能は俺より遥かにあるが.....。)


だから長時間は練習出来ない。


最低でも魔法を受けられるくらいには仕上げないとな......。


こんなに苦労するハメになってるのも全てあのババアが俺に仕掛けたこのクソみたいな罠のせいなんだがな....。



俺が師匠に心の中で悪態をついていると図書館らしき場所にいつの間にかついていた。


「ここ、か。」


俺が扉を開け中に入ると想像の何倍をも上回るくらい広い空間と本棚が広がっていた。


「流石に広いなぁ.....。」


各本棚にはそれぞれ分類が書いてある張り紙がしてあった。


「えーと、右から上級魔法、普通魔法、下級魔法、人間?猿?単細胞生物か........。」


後半からとことん人をバカにしたような分類名なのが腹立つなぁ。最後のは特にバカにしすぎだろ。


この分類考えたやつを1発ぶん殴ってやりたい。


まあでもとりあえず、上級魔法から見てみるか。


一応元賢者だしな。

俺が一番上の本を取ろうと手を伸ばした時、視界に人影が映る。


「ん?」


横を向くと銀髪ロングの女生徒と目が合う。


「あら、こんなところに女性教諭なんて珍しい。」


こいつは女だから、俺の事をバカにしないのか。


というか初対面でバカにされない方が最近珍しくなりつつある。


「なんか俺に文句あんのか?」


「いえいえ、見ない先生だなと思っていただけですよ。それに面白い一人称、ですね?」


「何だっていいだろ。俺は昨日からここに赴任してきたものだ。お前は?」


「私は生徒会の書記を担当しているただの一般生徒ですよ。」


生徒会なんてものがあるのか。


「それにしても、ここであったのも何かの縁です。これからなにかあればよろしくお願いしますね、先生。」


そう言ってその女生徒は俺に握手を求める。


「よ、よろしく。」


俺はそれに合わせて、握手をした。


握手をした手に少し違和感を感じたが、俺は気にも留めずまた、本を探し始めた。





小一時間程度、上級魔法を漁ってみたが、今の俺に使えそうなものは何一つなかった。


となると残るはこれより下級の魔法か。


単細胞生物だけは見たくないな....。


てか改めて考えてみても単細胞生物ってなんだよ!せめてそこは多細胞生物とかに止めておけよ。


俺はその後も魔法を片っ端から探したが結局単細胞生物以外は見尽くしてしまった。


俺は単細胞生物コーナーに足を踏み入れる。


これだけ見るとペットショップみたいだな。


俺は本棚の一冊を手に取り中を見る。


そこには農作業で使える本当にちょっとした魔法が載っていた。


土を振動で耕す魔法、植物の成長を促進させる魔法、腰痛を軽減する魔法、バナナで釘を打てるようにする魔法以下略。


これなら.....まあ使えるが。


「ふむふむ、それでこれを戦闘でどう使えと?」


戦闘で使えそうな魔法が無さすぎる


しかも最後のなんて寒いことが売りの観光地でたまに見るやつだろうが!この分だとそのうち濡らしたタオルを振り回して凍らせる魔法とかもありそうだな。


師匠が俺の職種をわざわざ農民にしたのはおそらくこのためだろう。要するに限られた条件下で賢者としてではなく農民として生き抜いてこい、と。


「いや、無理ゲーすぎるだろ。」


限られた魔法って限りすぎだろ。


この数少ない使える魔法だって戦闘に役に立ちそうなものなんて何一つないし。


魔道具に頼るしか道はないのだろうか?


というかそれよりいつまでこんな迫害をうけ、肩こりに悩ませられ続けられるんだろうか。


俺はこの先について考え、軽く絶望した。


はっきりいってこのまま、教師を続ける自信が皆無だ。


レーネと会うまでは賢者の時の魔法を使える気でいたから行ける気してたんだが.....。


俺があれこれと悩んでいると不意に後から声をかけらる。


「戦闘魔法でレベル5のものでしたらこの魔法なんてどうでしょう?」


「ん?」


俺は差し出されたページに目を通す。


そこには植物の受粉または動物の受精を妨げる魔法と書いてあった。


まあ要するに受粉や受精をされると不利益になってしまうことを未然に防げる魔法と言ったところか。


「確かにこれならレベル5でも使えるが....これのどこが戦闘魔法なんだ?」


「魔法や魔法陣は凄く精密なものであることはご存知ですか?」


「そりゃまあ。」


魔法戦争なんかじゃ仲間同士の魔法陣が重ならないように区分けするほどだ。魔法なんかも唱える詠唱が少しでも違ったりすると発動しない。


魔法とはそれほど繊細で面倒なものなのだ。


「で?それがどうした?」


「受精や受粉はどうやって起こると思いますか?」


「精子とか花粉がなんか雌しべ的なのものに付着してなるんだろ?俺もよく知らんが。」


「その精子や花粉を小規模空間移動で阻害するのがさっきあの本に載っていた魔法です。」


「そういう仕組みだったのか.....、んでそれが使えて何になるんだ?」


すると女生徒は微笑する。


「その対象を魔法陣の一部や詠唱途中の空気振動に変えたらどうなると思います?」


「そりゃちょっとしたズレで魔法が発動しなくなるだろ..........あ。」


それはつまり擬似的に魔法や魔法陣を無効化出来るってことじゃないのか!?


「お分かりいただけましたでしょう?」


「ああ!しかしよくこんなことを思いついたな。」


「魔法なんて組み合わせ次第でなんとでもなるんですよ。」


「でもいいのか?こんなことを俺なんかにおしえて。きっと他の奴らは知らないんだろ?」


「ええ。おそらくは知らないでしょう。ですからこれはあなたと私だけの秘密ですね。」


女生徒は唇に指を当てて微笑む。綺麗な銀色の髪が揺れる。


「それじゃ私はこれで。」


女生徒はくるりと後ろ向き歩き出した。


俺は急いで呼び止める。


「なにかお礼でも。」


「いえ。そのうちまた会えるような気がしますからその時にでも。」


そう言って彼女は去っていった。


俺はなぜ彼女が話してもいない俺のレベルを知っているのかと疑問を抱いたのは大分後のことだった。



読んでいただきありがとうございました!

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