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医務室での病状申告

「どうした?何かあったのか?」


「いや、ちょっとおかしいなって思って」


「何が?」


「出血はしてるんだけど、どう考えても血管内の魔力保有量が急激に変化して血管の壁がそれに耐えられずに破れちゃってるみたい.........今は治ってるけど」


「.........それってありえない事なのか?」


「うん、少なくとも私は見たことがない.....」


急激に変化って、俺が変化させたものなんて性別とステータスぐらいなもんだが....。


「とりあえず、ちゃんと検査しよう」


「どうやって?」


「あの魔道具を使う」


そう言って、リンは壁に付いていたスイッチを押す。


すると、リンの後ろの暗闇が照明で照らされる。


そこには棺桶のような形をした何かが立てかけられていて顔に当たる部分は透明な素材できていて中が見えるようになっていた。


「これは何をする魔道具なんだ?」


「体に流入する魔力を遮断してステータスの最低値を量る魔道具だよ」


その仕組み.......イヨから借りてるブレスレットと機能が似てるんだが、ひょっとして使った場合元に戻ってしまうんじゃ....。


「それはちょっと......」


「大丈夫。尿検査みたくタンパク質が検出されて恥ずかしい想いをする魔道具じゃないから......って女の子じゃわからないか............フフッ...」


いや、お前も女だろうが!っと言いたいがここは黙らないとバレる。


とにかく、この機械に入るのはよした方が良さそうだ。


「今回はこの辺にして、また今度......」


「実は、あれはディスプレイで本体はこの魔道具なんだ」


リンはさっきまで俺の胸に当てていた魔道具を見せる。


「!?」


ってことは........ッ!!



俺は咄嗟に自分の胸を確認する。


感触があるからまだ戻ってないはず....。


「嘘、だよ」


「はぁぁぁ!?」


俺はその場に座り込む。


「でも今あからさまに動揺したよね?」


「うっ....それは.....」


「なんだったら、上に報告してもいいよ?最近、この学園も呪詛学会?とかいう奴らの炙り出しに熱心だからね.........報告されたらどうなることか」


リンはじりじりと顔を近づけてくる。


脅し......?でもなんのために...。


「それで何を隠してるの?」


「・・・・・」


「大丈夫。そんなに構えなくても君が私に危害を加えない限り決して余計なことはしないよ」


「なんために俺を脅すんだ?」


リンは一瞬キョトンとしたがすぐにこちらを見直す。


「私はこれでも医者の端くれでね。こういう何か隠している時は放っておくと大抵良くないことが起こるもんなんだよ」


「例えば?」


「魔法の適正を飛躍させるドラッグをやってて、血管の一部が黒く変色した生徒とかね?」


前に学会員だった生徒が持っていたやつか。


「その後、どうしたんだ?その生徒は退学したのか?」


「ううん、解毒剤を作って飲ませた。あれ以来彼女はキッパリとそのドラッグを使うのをやめた」


「にわかには信じ難いな」


「信じるしかないよ。君はここを出たとしても他に行くあてなんてないんでしょ?」


「・・・」


確かにそうだ。それにこのまま吐血を放置すれば、そのうちもっと酷いことになるかもしれない。


出来れば、作戦までには何とかしておきたいのが本音だ。


「それに校則違反の生徒を幇助している私も充分重罪だ。その秘密を君に打ち明けるメリットなんて...今の時点でないでしょ?」


「・・・なぜ生徒を庇うんだ?自分の身を危険に晒してまで」


リンは俺の質問を聞いて、今までとは違う少し悲しげな顔をした。


「同じ境遇に立たされたことがあるから.....かな」


「同じ境遇?」


「そ。昔からこの国は今の体制を貫いていた。だから女子生徒のランクもAがつかないなんて当たり前だった。相当な実力がない限りね。どんなに頑張っても見向きもされない、注目されない、評価されない根暗な女子生徒は最後、何に頼ると思う?」


「ドラッグ、か」


「うん。私は手を出すより先に恐怖がきたからやめたけど。私みたいに臆病な生徒ばかりじゃないから....」


確かに、俺が最初来た時もイヨは誰にも頼れず、困窮してたのを思い出す。ああした状況になっても救済措置などは一切ないしな。


「それにさっきみたいに上手くいくことばかりじゃない。私に秘密を打ち明けるのが嫌で抱え込む子もいる」


「その生徒はどうなったんだ?」


「ドラッグのせいで正常な判断が出来なくなってたくさんの人を傷つけた後退学したよ」


前に幹部が言ってた通りあのドラッグは精神異常を引き起こすらしい。


そうなるまで使い込んでいたら、もうどうにもならないのだろう。


「ここへ来るのはだいたい追い詰められた人。だから助ける。そして君も助けたい」


彼女の目はもう微睡んでいなかった。


澄んだ瞳がこちらへと真っ直ぐ向けられる。


嘘は.....言ってないように見える、気がする。


「...........わかった」


俺は仕方なく真実を話すことにした。




「..........言っている意味は分かるけど、何を言ってるのかわからない」


リンの頭上に、はてなマークが見えた。


「だよなァ.....」


「やって見せてくれる?」


まあその方が早いか...。


「わかった」


俺は承諾したあと、ポケットからブレスレットを取り出し、手に付けた。


それに合わせて容姿とステータスが変化する。


「本当に.........男になった...」


目を見開きこちらをマジマジと見るリン。


「信じてくれたか?」


「うん、よく分かった」


「よかった。それじゃ、本題に」


「君がこれを使って悪辣の限りを尽くしていたのってことがね」


「は」


「特に女子トイレとかまさにピーパラダイス...」


「んなことしてねぇよ!!!ちゃんと気を使って誰も行かない一番遠くのトイレ使ってるわ!!それとシーパラダイスみたいに言うな!!!」


人がせっせとわざわざ遠くのトイレに行ってるのに.....。


「ところで、それを取ると元に戻るの?」


「ああ」


リンに見せるため今度は外してみせる。


途端に肩が重くなる。


「すごい....」


「それで、吐血の原因はわかるか?」


「うん。憶測でしかないけど」


「そうか。そのためのポーションとかって作れるか?」


「うん、多分回復ポーションとかになっちゃうけど」


「じゃあそれで頼む」


「けど、根本的な解決にはならない」


「なぜ出血が起こるんだ?憶測でもいいから聞かせてくれ」


するとリンは顎に手を当て、少し考えた後に口を開く。


「多分、男性と女性の間の体の魔力保有量のズレが出血を引き起こしてるんだと思う」


「保有量のズレ?」


「うん。男性が限界まで魔力を使ってさらに体内の魔力を絞り出した時、普通人間の体は血管やその他臓器に魔力をある程度残しておく」


魔力欠乏の初期段階といったところか...。


「けど、女性の場合そうした魔力保有量が男性よりも少ないから君が男性の体で魔力欠乏にならなかったとしても、女性の体になった途端に突然魔力が足らなくなる。せっかく残しておいた魔力も足らないところへと使われてしまうからね」


なるほど...。そもそも体の造りが違うということか。


そのズレのせいで血管内の壁が維持出来なくなると。


「対処法とかあるのか?」


「しばらく、その君の言う戻る?っていう行為をしないことかな」


「どれくらいの間?」


「少なくとも1、2ヶ月」


「わかった」


作戦まで残りわずかだ。


到底その期間を守れそうにないが、ここは伏せる。


「とりあえず、回復ポーションを定期的に投与することだね。そうすれば、出血は一時的に止まる」


「一時的にか」


「うん。魔力のバランスが崩れれば、また出血するだろうね。とにかく、絶対安静」


俺はそんな言葉に怯えながらもまだ重度じゃないと自分に言い聞かせて落ち着かせた。


「それを破ったら?」


「確実に君の体は持たなくなるよ。魔力は誰かから貰うかポーションを飲むかしないと戻らないからね。仮にそれをしたとしても、重度の欠乏症は避けられない」


「わかった。控えるようにする。じゃあ、今度そのポーションは取りに来るよ」


「うん。待ってる」




「それで容態は?」


「だいぶ落ち着いてきた」


「そう、よかった」


安心したようにほんのり微笑むリン。


「これ、1ヶ月分の回復ポーション」


「ありがとう、助かるよ」


正直、このポーションがないとかなりきつい。


この感じじゃしばらくは、彼女に頼ることになりそうだ....。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢


作戦決行の前夜。


明け方から始まるという取引に合わせて、夜中に集合がかかっていた。


俺はそのための準備を音を立てないように進めていた。


回復ポーションと魔力ポーションをレッグホルダーにつめておく。


ブレスレットもしっかりと持ち、準備万端と言ったところだ。


まあリンからの忠告は破ることになるが.....。


あとはレーネか。


俺はのそのそと一歩ずつ床が軋まないように歩を進める。


そうしてようやく、玄関の前に辿り着いた。


レーネには悪いが、やはりあいつは連れて行けない。


レーネをいや、たった一人の家族を危険な目に合わせるわけにいかないからだ。


俺が意を決して扉に手をかけた時。



「ご主人様」


落ち着いたトーンのレーネの声に俺は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。







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