デタラメな講義を正すのも仕事
「これがなんだか分かるわね?」
書かれた初歩魔法陣を見て皆がうなづいた。
「最初に習った魔法陣ですよね........?」
「そう、でもこれはこういう風に簡略化できるのよ」
サラは魔法陣の一部を省略した形に直す。
「ただ、これは教育上まずいからあんまり教えないんだけど、上から了解を得たから今教えてるんだけどね」
それを見て、イヨたちは首を傾げた。
「でも、それだと発動しなくないですか?」
よく見てみると、確かに若干の書き漏らしがあった。
「あ、本当だ.....」
サラはすぐにそれを付け加えた後ほんのり赤い顔でこちらを振り返る。
「まあ、このように間違えやすいからみんなも気をつけてね。今回はわかりやすいようにわざと間違えておいたんだから感謝しなさいよ」
ここでサラの悪い癖が出る。
サラは昔から自分の間違えを認めようとしないのだ。
良く言えば、信念を曲げないやつ。
悪く言えば、意地っ張りで頑固なやつ。
「先生ー!、いつも脳筋特攻ばっかりしてるから遠隔系の魔方陣書けないのバレバレですよー!!」
エメが口にメガホンのように丸めた手を当てて、茶化す。
「う、うるさいわねっ!!こっちだって必死にやってんのよ........................もうなんでこんなガキどもに....」
最後に毒が見えた気がするがここはスルーしよう。
そこへ、ニーナが肘で小突いてくる。
「なんだよ」
「あの人、本当に先生の友人で本当に軍人なんですか?とてもそうは見えないんですけど」
「友人というか......知人なんだが......まあ腕がたつことは確かだ」
「へぇー。知人、ですか.....?」
ジト目でこちらを凝視してくるニーナを横目にサラに講義を進めるよう合図する。
「あぁー!!もう次行くわよ。次はこれ!」
今度は右手を前に出して詠唱を始めた。
[我が拳を持って、汝を打ち破る]
待て........その詠唱......!!!
脳裏を掠める血塗られた記憶。
止まらない鳥肌。
「おりゃ!!!!!」
「おい!!!!ぶざけっ.....!!」
そのまま、魔力帯びた拳を引っさげこちらに突っ込んでくるサラ。
このクソ脳筋野郎が...ッ!!!
俺は隣にいたエメをこちらに抱き寄せ、そのまま突っ込んでくるサラ目掛けて背中を押す。
「えッ!? ちょっ.......」
エメは予想外の事態に反応ができぬまま、サラの拳と衝突する。
当然、サラの詠唱魔法はエメの体に触れた時点で無効化され、ただの拳だけがエメの腹に直撃する。
「ゴフッ!!!」
そのまま、エメは床にうずくまる。
「おい、アルフ、マリー!!テメーら何しやがる!!!」
お腹を抑えながら、青筋を立てるエメ。
「文句ならそこの喋る筋肉に言え」
「ちょ!?誰が喋る筋肉よ!!!ていうか、今の私の責任!?」
「10:0でお前だろーが!!!お前今、頭蓋骨割しようとしたよな!?」
「そうよ、懐かしいでしょ?」
「なーにが、懐かしいでしょ?だ!!!」
頭蓋骨割とはかつて、刑務所内で最強の石頭(物理)と言われた刑務所の長であるボブにサラが万尾獅子して放った一撃である。
それをど頭に食らったボブは奇跡的に一命は取り留めたもの、頭蓋骨を完全に損傷しており全治一年という大怪我したのだった。
その後、仲間内でその詠唱魔法には「頭蓋骨割」という名称が付けられ皆から恐れらた。
もちろん、この魔法には欠点がないわけじゃない。
これは確かに相手には致命傷を追わせられるが、その反面自分の手も致命傷を負う。
わかりやすく言えば、鉄板を介して相手を殴っている、みたいな感じだ。
しかし、どういう訳かサラの頑丈な体にはそのデメリットが通用しないのだ。
だから、こいつにはメリットしかない訳だが.....。
「それにこれは生徒が使えないだろ。てか使わせんな、絶対」
「えー。もうこれしか教えることないんだけど.......」
「相変わらず、魔法のバリエーション皆無だな.......」
まあ、こいつの場合自己強化魔法に前振りしているようなやつだし当然と言えば当然か........。
すると次はニーナではなく、ニアが俺に耳打ちしてくる。
「あの人、本当に軍人さんなのよね?」
「ああ、一応な」
「一応、なのね.......」
さっきから、疑われすぎだろ。まあ無理もねーけど。
「ったく、しょーがねーな。オレが講義してやんよ」
エメが自信満々に教卓にたつ。
「あんた、魔法の講義なんて出来んの?」
「任せとけって!!」
果たしてエメが授業なんてできるんだろうか.....全く想像が出来ない、というかこいつ魔法使えないし......。
しかし、エメは俺の予想を遥かに上回ってきた。
「..........つーわけで、こことここは簡略化できてもここはしっかり書かねーと魔法に芯がなくなる、て感じだな。どうだ?わかったか?」
「「「おおおおおおーーー!!!!」」」
生徒三人から拍手が上がる。
続いて俺やニアも声を上げる。
「お前、教えるの上手いなァ」
「まあな〜」
どうやら、エメは使えなくても理解出来るタイプの人間らしい。
言語で言うところの喋れないけど文法は分かるみたいな感じか。
「・・・」
それを見て、サラはひたすらに黙る。
「いや〜どっかのなんちゃって軍人とは違うなァァ」
「誰が、なんちゃってよ!!!!頭蓋骨をかち割るわよ」
「それだけはやめろ」
しかし、これなら安心してエメに任せられそうだ。
さて、そろそろやばそうだ.......。
俺はみんながエメの講義に聞き入っているうちにそのまま、教室を出ようとする。
すると、イヨだけがそれに気づいた。
「あの、アルフ先生どこかへ行かれるんですか?」
「ああ、ちょっと色々資料を取ってくるよ」
「そうですか........」
イヨはなぜかそれを聞いて下を向く。
「すぐに帰ってくるから、お前は講義を受けてな」
「はい」
それ聞いてイヨは元気よく返事をした。
俺は教室を出た後、資料室ではなく医務室に向かった。




