意外な特別講師たち
俺は目の前の状況に愕然とする。
「は........?」
「どうかしたんですか?先生」
ニーナたちが不思議そうにこちらを見る。
「いや..........ちょっとな」
あいつがこの学園に来る理由が見当たらないんだが.....。
そんな疑問はすぐに解消される。
「私とギル先生、もしくはそっちのマリー君たちどちらか好きな方に防御魔法を教えてもらうといい」
ウルドはにこやかな顔でそう告げた。
それにしても、あいつをもこの講義に利用するとは.......。
まあどちらに教わりたいか?なんてのは明白だろうけど。
案の定、生徒の大半はウルドたちの方に流れた。
残ったのは、ニーナとイヨとネムの3人だけ。
俺としてはよく3人も残ったなと思う。
普通に考えて手錠をした柄の悪そうな女がいる方より、愛想の良さそうな男のいる方にいくだろう。
まあ、イヨにとっては女しかいない方が安心できるんだろう。
「すいませんが、我々は広い場所に移動します。この人数でこの教室は狭すぎる」
「了解しました。私たちはここに残って講習を始めたいと思います」
ウルドはサラに笑顔を崩さずにそう告げた。
しかし、ウルドが女子生徒にも平等に魔法を教えるというのも意外だった。
あいつなら女子生徒はお断り、とか条件をつけても不思議じゃないのに。
ウルドとギルはそのまま生徒を引連れて教室を出ていった。
俺がその様子を見ていると端にいたニアが近寄ってきた。
「アルフ先生はあの二人とは知り合いなの?」
「まあ、ちょっとした縁があってな」
ここは知り合いである、ということにした方が都合が良さそうだ。
「なんで、あの人手錠しているの?」
「・・・さあ」
返答が出来ないのでここは誤魔化す。
「おーい、アルフ。昨日ぶりだなー!」
エメが嬉しそうに走りよってきた。
それを後ろからサラが追いかける。
「ちょ、待ちなさいよ!!まだ自由に動いちゃいけないんだから!!」
そして、手首を掴んで静止させる。
「あーあ、面倒くせぇな」
するとエメは伸びをするかのようにぐっと、腕に力を加える。
それに合わせてパキンと鉄が弾けたような音がした。
「「「「「!?!?!?」」」」」
その場の全員がエメに注意を向ける。
音源を見てみると手錠の鎖を腕力だけで断ち切られ、鎖の部分があたりに散乱していた。
残っていた手首の輪っかの部分も軽々、まるでゴムのようにぐにゃりと折り曲げて外した。
そしてエメは満足そうな顔をした。
「あー、スッキリした」
「ば、ばかじゃないの!?どうして手錠を破壊するのよ」
「いやだって、これあると動きにくいしさ、それに見栄えも悪い」
エメが付けられていたのは普通の鉄製の手錠のはず。
それを己の腕力だけで引きちぎるとは本当に恐ろしい.........。
「せ、先生。あれって...........アルミか何かでできていたんですか?」
ニーナは一歩引いて、聞いてくる。
「そ、それはな.....」
まさか、普通の鉄でできた手錠です、なんていってたらここの全員の警戒心が更に跳ね上がるだろう。
さっきから、二人の存在感がすごいし......。
そんな返答に困っている俺の気持ちを知ってか知らずか、サラはこちらを見て
「こ、このように無詠唱魔法を使うとこんなに手頃に魔法で強化された手錠も破壊できてしまうんです!!」
と、取って付けたような理由をわざとらしく言った。
「そ、そうですよね。まさか魔法も使わずにあんな芸当出来っこないですよね........」
「そ、それより今から防御魔法についての簡単な講義を始めていくわね」
サラは話題を切り替えるようにそう告げ、残っているものを集めた。
「そうね、まずは...........」
そこで顎に手を当て考え始めている中、空いた窓から外の賑やかな講義の様子が風に運ばれ聞こえてくる。
「ウルド先生は、遠隔魔法が得意なんですね!」
「ははは。流石ここの生徒ですね。簡単に見破られてしまいましたね」
黄色い声援と共に聞こえてくるウルドの声は何故か俺を無性に苛立たせた。
外の話を聞くに防御壁の張り方を伝授しているようだが......。
そんな窓から漏れてくるそよ風をよそに、サラは方針を決めたようだ。
「まあ、とりあえず戦ってみましょうか!!」
脳筋かよ!!!
「りょうかい!!」
「へ?」
俺の間の抜けた声を無視して、エメは真っ先にこちらへと飛びかかってきた。
「おい!!!」
「先手必勝!!」
エメの渾身の一撃が風をきりながら、頬目がけて飛んでくる。
俺はその動きに合わせて咄嗟に防御魔法を使おうとしたが、それをすぐに取り消す。
なぜなら、こいつには魔法がほぼ効かないからだ。
防御魔法なんぞは薄氷のごとく、触れた瞬間崩されるだろう。
「おら!!どうしたアルフ」
「なんでいきなり、戦うんだよ!!!そんでお前はなんでそれで納得すんだよ。少しは常識を...」
「わるいが、常識は檻に置いてきたもんでね!!」
くそっ!!この体でこいつの拳をまともになんて受けたら体が粉々になる。
かと言って、ニーナはともかく、ニアやネムましてやイヨの前で元の姿になるわけにはいかない。
俺は魔法を使わずに、紙一重でエメの拳を交わしていく。
こいつ.......前よりも格段に実力を上げてやがる。
こうなったら、次に腕を伸ばした瞬間に肩ごと抑え込んでやる。
エメは興奮してきたようで、どんどんと動きが俊敏になっていく。
こいつは刑務所にいた時もそうだったが、攻撃が大振りに見えて、実は繊細だ。
魔法が使えない分、体術を極めてきたのだろう。
自分の腕のリーチを理解してさらに俺のの間合いを把握してくる。
それでいて、足や腕、背中などの筋肉をしなやかに使って鞭のような攻撃をしてくると思えば、ただ力任せにストレートを繰り出すこともある。
そのため、攻撃の筋が読めないのだ。
「懐かしくなってきた!!!」
エメは目をキラキラと輝かせて、大振りな右フックをかましてきた。
彼女の右手は風を孕み、空気抵抗を無視した速さで加速していく。
これは速くて避けらないな.....。痛手覚悟で左手で受けるしかない.......。
俺は右手で左手の骨の軸を抑えて、重心を落として受け止めようと試みた。
しかし...........。
「な......!?」
女になった俺の華奢な体はいとも簡単に右に吹き飛ばされ、そのまま受身も取れないまま壁に叩きつけられる。
痛てぇ......。
攻撃をもろに受けた左手は小刻みに痙攣していた。
やはり、前の体とは根本的に違いすぎる。
前に戦った時もそうだったが、全く踏ん張りが利かないのが致命的だ。
「おいおい、どうしたんだよアルフ。前ならこんなの余裕で止めてたじゃんかよー」
エメがつまらなそうに言う。
「前にも言っただろ、厄介なもの背負ってんだよ」
「あーそうだったな。じゃあ、フルのアルフとはしばらく戦えないのか」
一応、ブレスレットがあるが......面倒なので伏せておこう。
「おい、サ.....マリー。防御魔法なんてひとつも使ってない模擬戦闘なんてしたってしょうがないだろーが!!」
「良く考えたらそれもそうね......じゃあ基礎的なところから順に説明していきましょうか」
やはり、サラの落ち着いたお淑やかな声は聞慣れない。
「え?基礎的な.....?お前が、?お前、基礎飛ばすタイプだろ?ひょっとして頭革命してる?」
「殺すわよ?」
「すまん、謝る、だから蹴りを構えるのはやめろ」
ジリジリと構えたままにじり寄ってくるサラをなんとか押しとどめて講義を再開させる。
サラはチョークを手に取り、魔法陣を黒板に書き出した。
書き出されたのは学園で習う初歩の初歩で教わる防御魔法の魔方陣だった。




