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作戦内容と対価の真意

「取引襲撃?」


エメが不意に虫に刺されたような顔をした。


「そいつはどういう事だ?」


「そのままの意味よ。ギャングたちが集まって呪詛学会と取引するっていう情報がリークされたの。とりあえず、この件に関しての真偽は?」


エメは一瞬考えたがすぐに答えを出す。


「本当だ。交渉したんだから、嘘はつかねえよ」


「.......わかったわ」


「それで?もう一度聞くが襲撃ってのは?」


「その取引を潰しにいくってこと」


空気が一瞬淀む。


「・・・・つまり他のギャングと取引先を敵に回せと?」


「そうよ。全面協力って、言ったでしょ?」


なるほど。全面協力ってのは広義に取れる。


つまり、拡大解釈が可能なわけか。


ただ、エメはこれに応じるのか?


「まあ言ったわな。だから今回の件も従順な子犬のように首を縦に振ってやる。......しかしお前も抜かりねえな」


エメは少し笑った。


「ところで、なんでわざわざ何人殺れるかもわかんないのに取引を襲撃するんだ?結構なリスクだろ、それ」


俺が質問を投げかける。


すると、サラはこちらを真っ直ぐ見た。


「この先、いつか手を打たないとむこうの最高戦力であんたの学園が襲われることになるからよ」


「....それはどういう.....」


「あの学園には強力な魔道具があるの。学園そのものを魔法で構築して維持出来るほどのね。そして奴らは大会の日、襲撃を企てた。けど、途中で中断した」


「もう一度ってことか?」


「そうよ」


なるほど.......。前に大会が襲われた時は学園の守りの方は固めてあったからな。


「ただ、あの鉄壁の守りを突破できるのか?」


「わからない。けど、学会員が潜んでるって情報もあるし、万一突破されたら、最悪あんたとこの生徒もかっさらわれるわよ」


...........ニーナ、か。


あいつも固有魔法のせいで奴らに狙われてたはずだ。


「んで、具体的にどうするんだ?まさか、サラお得意の脳筋戦法じゃないだろうな?」


エメがつまらそうにそう聞く。


「二班に別れて、作戦を遂行するってことになってる」


そう言いながら、サラは封筒の封を切り、中から半分に折りたたまれた紙を取り出す


「上が私たちの班で下がウルドの班ね。具体的には私たちの班が会場内に潜伏して、合図を送りながら、最初に仕掛ける。合図を受けたウルドたちの班もそれに合わせて突入するって流れね」


俺はその紙をじっと見つめ、あることに気づく。


「今回は他校の選出教員も交えるからだいぶ戦力が...」


「なあ」


「前よりはだいぶ楽に侵入.....」


「おい」


「言わないで」


「は?」


「言わなくても............わかるから」


サラはもうこちらを見ていなかった。


ただじっと地面だけを見つめるのみ。


その顔は苦痛で歪んでいた。


しかし、俺はそれでもあえて口に出した。


「なんで俺らの班には女しかいないんだ?」


その紙には、性別も載っており俺らの班は他校の教員も含めて全て女性だった。


それに対して、ギルを含むウルドの班は全員男性。


これが偶然なはずがない。


「軍は俺らを捨て駒にするつもりか?」


恐らく、最初に仕掛ける方が圧倒的に危険だろう。そして万が一のことがあれば、戦力維持のためにウルドたちの班が突入を切り上げることだってできるはず。


「それは.......」


報酬に軍の機密情報を持ち出した時点で薄々気づいていたが.........。


「どうせ、上の連中の気持ち悪い方針なんだろ?」


エメは呆れたように腕を後ろに組んで凭れ掛かる。


「................そうよ」


力なくそう答えるサラはもうどこも見ていなかった。


「まあハナから、気づいちゃいたさ。でなきゃほぼ終身刑のオレみたいなギャングを牢から出しやしないしな」


「ただ他校の選出された教員はどうなんだ?俺やエメとは訳が違うだろ」


俺やエメは訳ありだから、まだ納得出来るとしても他の教員はそうじゃないだろう。


「いいえ。違わないわ。彼女達も対価を求めてこの仕事を受け入れているの」


「対価?」


「身分の.......格上げよ」


「...........。」


それを聞いて、俺の耳は唐突な耳鳴りに侵された。


確かにここでの女性差別はかなり厳しい。


けど身分のために、自分の命をかけるのか.......?


するとエメは俺の考えを見透かしたよえに吐き捨てた。


「ははっ!どっちの世界も人間魔法使い関係なく頭がおかしいや」


どこかで聞いたことのあるようなセリフ。


その道化気味に放った言葉は馬車の中を反響した。


サラの表情を見るにかなりこのことで苦しんでいたのだろう。そして、大きく顔を上げる。



「でも、軍は、いえ私はあんたたちを絶対に死なせない。..........絶対によ」


さっきとは違い、サラの目は灯火を帯びたように紅く、煌々としていた。


俺もエメもそれを見て、笑い飛ばす。


「ハッ!当たり前だろーが。オレは死なねーし、お前に守られるほど、訛っちゃいねーよ。なめんな。」


「俺もだ。それに軍事機密を対価にしてんだから

、こっちとしても何も言えねぇよ。」


それを聞いたサラの顔は少し綻んだ。


そんな話をしていると馬車が俺たちが出てきた軍の施設の前で止まった。


「私たちはこれから報告とかしなきゃならないから、アルフは先に戻ってて。次会うのは先になると思うけど、こまめに指令書は送るから」


そんな頻度で指令書が送られてくるのも少し嫌な気がするが........。


「わかった」


俺はそう答える他なかった。


馬車を出ると焼け焦げた臭いが鼻を掠めた。


俺はその臭いの方向に目を向け、天を仰いだ。


黒煙は狼煙のように空高く登っている。


今日もまた、魔女が死ぬ。




次の朝、俺はいつも通り出勤していた。


俺は眠気のあまり、大きく欠伸をした。


しかし昨日は本当に酷い目にあった。


帰って早々、レーネに謎の取調べを受け、まったく寝かせてもらえなかったのだ。


しかし、まるでそこにいたかのように状況が筒抜けでびっくりしたが.........どうせ、あの部屋に来たであろうババアの仕業か何かだろう。


そのせいで、昨日は『愛人を作った』の一点張りだったし.....。


どう間違えたら古い友人に会う=愛人を作るになるのか....。


切れたレーネは手がつけられんからな。


俺は眠い目を擦り、今日は図書館ではなく、ちゃんと教室に向かっていた。


流石に今日ぐらいは授業に出とくか.....。


教室に入るとまだギルやニアはおらず、生徒だけがいた。


相変わらず、男女でぱっくりと割れ、男子はレオンを筆頭に固まり女子は不規則に固まっていた。


そしてその中にイヨとネムとニーナがいた。


「ややっ!アルフ先生ではないですか」


ネムはいつも通り活発だ。


「あ!アルフ先生、お、おはようございます」


イヨは恥ずかしそうに、頬を赤らめている。


「あっ先生、今日はサボってない」


ニーナは、何故かニヤリと笑っていた。


俺はそれに片手を上げ、会釈した。


「先生、今日は授業されるんですか?」


イヨは視線をところどころズラしながら聞いてくる。


「いや、今日も見学だろうな」


「そうですか.....」


イヨは残念そうに俯いた。


「ま、先生居ても何も出来ませんもんね〜。今のままじゃ」


俺はニーナの最後の言葉に一瞬ぎょっとしたがすぐにフォローを入れておく。


「おい、凹むこと言うなよ。俺も努力するからさ」


この中じゃ、ニーナだけが俺の素性を知っているのでたまにヒヤヒヤすることがある。


それをわざとやってるんだか知らんが、本当に辞めてほしいものだ。


「そういえば、今日はニーナさんは起きてますネ!アルフ先生がいない時はいつも机に突っ伏して死んだ魚みたいな目をしてるのに....」


「それ以上余計なことを言ったら、学園長権限で新聞部潰しますよ?」


「申し訳ございません。二度としません。なので、どうかお慈悲を」


ネムは必死に頭を下げる。


お前は鬼か....!


しかし、ニーナもある種自虐みたいなことがこいつらには出来るんだな。


素直をに驚いてしまった。



そんなこんなでしばらく、駄弁っているとニアとギルが教室に入ってきた。


そして隣にはウルドがいた。


「今日は急遽だが、防衛魔法の特別講義をすることにした。この方は我国から派遣されてきたウルド=ゾーイ殿だ。今日、君らに講義をしてくださる」


「ご紹介に預かりました、ウルド=ゾーイと申します。今日は未来ある魔法使いであるあなた方に僭越ながら講義させていただこうかと思います」


今日からだったのか。あれは。


ウルドはこちらを見ることなく、男子グルーブ側の方を見ていた。


「入ってきなさい」


ウルドは扉の方に声を投げかけた。


するとサラがお辞儀をして入ってきた。


その顔は何故か浮かない。


あれ?次会うのは先になるとか言ってなかったっけか?


そしてジャラジャラという金属音と共に入ってきたのは........。


「こんにちわーっすっと」


手錠を付け、不敵な笑みを浮かべるエメだった....。


















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