刑務所内での同窓会
「アルフとサラ!!!久しぶりじゃんか!!」
エメの黄色い声が部屋中に響く。
ボサボサの赤茶色の髪を適当に縛る彼女は数年前と寸分たがわなかった。
そしてエメは久しぶりの再開で俺の姿が変わっているのに触れてこなかった。
「久しぶりだな」
「なんだ?なんだ?わざわざ顔を見に来てくれたのか!?」
「まあ、それもあるが今回は交渉をしに来た」
「交渉........?」
「そうです。今回は軍と、ということで」
「ふーん。てかなんだよ、サラその話し方!!」
エメは真面目な顔から一気に破顔した。
こいつは本当に抑揚が激しい。
「それで、何についての交渉だ?まあ、どーせうちの組織についてだろうけど」
「ああ。今回はその事で来た」
「やっぱりか。んで、軍がギャングになんのようだ?」
エメラダ=アローナは女性でありながら、この国を裏で牛耳っているギャングのボスである。
懲役260年とほぼ無期懲役に近い。
理由は脱獄と刑務所内での暴行を繰り返したためだ。
「単刀直入言うと、軍はあなた達に全面協力をしてもらいたいと考えています」
「全面協力、ね....またストレートに来たな......」
そこでエメは顎に手を当て、考え込む。
サラは加えていくつかの交換条件を提示する。
「もし、こちらの条件を飲んでくれるのなら軍はあなたの刑期の大幅軽減を確約します」
「ちょっと待て。条件はまあいい。それより、国がオレをここにぶち込んだくせになぜ国の犬である軍がオレをここから出そうとしているんだ?それっておかしくないか?」
エメからもっともな質問が飛んでくる。
「それは..........」
サラはそこで黙り込む。
一概には答えらないのだろう。
だが、やがて上官と何か目配せをした後サラは口を開く。
「それにはいくつかの要因が.....」
「周りくどいのはいらねえ」
エメの目は全てを見通すようだった。
それはもはや一人のギャングの目だ。
サラは一度息を吐く。
そして何かを決めたようにこちらを見直す。
「これから、私たちは主人を逆転させる。そうしなければ、どちらの国も滅んでしまう」
恐らく、サラも最初にこれを聞いてここから出る気になったのだろう。
するとエメは大笑いする。
「ハハハハハァ!!なるほど。ついに飼い犬が手を噛む時が来たってわけか。そりゃ最高の喜劇になりそうじゃねえか」
「なら、さっきの条件で」
「けど、それはまだ呑めない。追加の条件を提示させろ」
エメは再び真剣な顔つきをする。
「条件は二つある。一つ目は...」
エメは一息置くと急にニヤリとした。
「アルフ、オレと一発ヤってくれないか?」
「は?」
俺は一瞬思考が停止仕掛けたがそれを無理やり動かして返答する。
「だめに....」
「却下です。その条件は呑めません」
サラが俺が言い切る前に言葉を繋げた。
まあ、意味がわからないしサラが即却下するのもわかる気がするが......。
サラの目はなぜか黒く澱んでいる。
「冗談だよ!冗談!マジにすんなって!安心しろよ、オレはお前の味方だっての」
「・・・」
エメは更に訳の分からないことを言った。
彼女は基本的に本気なのかふざけているのかが分かりにくいやつだ。
エメはまた次第に顔つきがまたギャングへと戻っていく。
「まあ、真面目に言うとオレたちが自由に動くことを軍は黙認する。これが本命の条件だ」
「「・・・」」
サラと俺は思わず黙る。
なぜならこれを認めれば、この国自体の治安が更に悪化する可能性があるからだ。
しばしの沈黙の後、後で黙っていたウルドが動く。
「ふざけるな、そんなものが認められるわけが...」
ウルドが言葉を発し終える前にエメは魔法強化ガラスを思い切り殴りつけた。
それにより、魔法で強く強化されているはずのガラスの全面にヒビが入る。
「テメーは黙ってろ。オレは二人に話してる」
「相変わずの馬鹿力だな....」
エメは自分に干渉する魔法を一切無効化してしまうという特殊体質だった。
エメの体には未だに不明なことが多い抗魔力物質(仮称)と呼ばれる物質が血液とともに循環している。
抗魔力物質は魔力と中和する性質を持っているため、エメに干渉しようとする魔法、呪い、魔道具などを全て中和し無効化してしまう。
しかしその代償に、エメの体内には魔力が存在していない。というより、存在していても中和して消えてしまう。そのため魔法及び魔道具等が一切使えないのだ。
つまり、今目の前で起きたのは魔法でもなんでもなく、ただガラスに自らの拳でヒビを入れただけということだ。
まあそれだけでも十分恐ろしいが....。
ウルドは目の前に意味のわからない光景に気圧されのか、口をつぐみ一歩引いた。
「それでどうだ?この条件は」
サラが目で確認をとると上官は首を縦に振った。
どうやら、許可が降りたようだ。
「分かりました。交渉成立です」
「それで、オレの刑期はどれくらい縮むんだ?」
「今回の任務が完了した後、判断します」
「じゃあまだ、わかんねーのか」
エメは退屈そうに言った。
「とりあえず交渉成立を証明するために、これにサインしてください」
サラは懐から同意書のような紙を取り出した。
「めんどくせえな。それより、ひとついいか?アルフ」
エメは耳を寄せるように手でジェスチャーした。
俺は言われた通り耳を近づける。
「なんだ?」
エメは周りに聞こえない声で囁く。
「お前、また面倒なのに絡まれてんな?」
「ッ!」
俺は全てを見透かされたような気持ちになり、もう一度エメの顔を見た。
「.......俺が誰に見えてる?」
こいつなら、なぜ俺が女になってしまっているのか分かるかもしれない。
「前と変わらないアルフ=ルーレンがオレの目には写ってる。でも周りは違うんだろ?」
「ああ。やはりお前には俺が元の姿に見えているのか。だから、さっきも驚かなかったのか?」
「そういうことだ。まあ嫌な感じはしたからすぐに変だってわかったけどな」
つまり俺にかけられているこの魔法は人に干渉するタイプってことか。
だから、エメには効かない。
「まあその辺の事情は外に出てからゆっくり聞くよ。とりあえず、ここから出してくれねーか?外の空気が早く吸いたい」
「分かりました。手続きしましょう」
かくして、俺たちはエメとの交渉に成功したのだった。
レーネは名残惜しくも主人を送り出した後、ある人物を待っていた。
しばらくして、扉が開く音がする。
「やあ、久しぶりだね。レーネ君」
「お久しぶりです。お師匠様」
目の前には小さな子供のような容姿をしたお師匠様が立っていた。
私はあるお願いをしたくて彼女を呼んだのだった。
「しかし、君からのお誘いは珍しいから驚いたよ」
「はい。突然申し訳ありませんでした」
「その辺は全然気にしなくていいんだけどさ。それでどう?監視は続けてくれてる?アルフの」
「はい。穴が開くほど、監視しております」
私はお師匠様にここに来る時に頼まれて以来、ずっとご主人様のお傍に居続けていた。もちろん、私情などは一切挟まずに。
「穴が開くほどかい......。あいつも隅に置けないよな。でもあんま甘やかさないでくれよ?これでも一応試練のつもりでここに来るとこを許してわけだし」
「はい、甘やかしてなどはおりません。むしろ、厳しく厳しく、しております。特に他の女の所へなんか行こうとしようものなら維持でも食い止めますのでご安心を」
ただ最近はある女生徒が近寄ってきたり、ご主人様と近しい知り合いが近寄ってきたりと少し不安ですが....。
「そういうことじゃないんだけどな......。まあいいや、さっそく本題に入ろうか」
そう言ってお師匠様はリビングのテーブルに腰掛けた。
「それで、なんだい?頼み事というのは」
私は少し間を置き、それから自らに確認するように言葉を吐き出した。
「.........私を戦えるようにしてください」
その瞬間、お師匠様は目を見開き、今までにないほど、真剣な顔になった。




