昇進と交渉と面会
「なあ、そろそろ行き先を教えてくれてもいいんじゃないか?」
「そうね。でもその前にこれに着替えて」
そう言ってサラは俺にサラと同じ黒い軍服を手渡してくる。
「なんで?」
「いいから、それがないとダメなのよ。だからつべこべ言わずさっさとと着なさい」
「へいへい」
俺はそれを路地の陰に隠れてさくっと着込む。
結構ぴったりしてて、胸とか苦しいな.....。
軍服は金の装飾が施された胸ポケットに軍の腕章と思しき羽のマークが肩に刺繍されていた。
「終わったぞ」
「早かったわねって......まさかそこで着替えてきてたの!?」
「ああ、なんか問題でも?」
「大ありよ!!あんた女子なんだから少しは気を遣いなさいよ!」
「いいだろう、別に。中身男なんだし」
何をそんなことでかかってしているのか。
そのまま、俺とサラは路地を進みひとつの古ぼけた喫茶店へと足を踏み入れた。
店内はカウンターだけのシンプルな作りで店主が一人、酒を注いでいるところだった。
「なんで、ここに入ったんだ?」
「マスター」
サラは腕章を指さす。
すると店主はコクリと頷いた。
「こっちよ」
サラが向かった先は奥の薄暗い小部屋だった。
中は暗くて良くて見えなかったが、サラが小さな豆電球を点灯させてようやくこの店がなんなのか気づく。
「ここってまさか......」
「見覚えあるでしょ?この装置」
銀の魔法陣が組み込まれた手錠。
これは俺がここに来る時使ったものととても良く似ている。
てことは..........。
「戻るのか?向こうに」
「そうよ。用があるのはあっちだから」
「なんために?」
「それも後で説明するから、これ付けて」
俺はそれに大人しく従い、手錠をつけた。
「ここは軍が出入りするための店なのか?」
「ええ。ちゃんと店と提携しているけどね。それにここなら人気もなくて都合がいいし」
でも別にそんな秘密裏にすることでもないんじゃ....?
「じゃ行くわよ」
サラは魔法陣を書き込んでいく。
すると前にも味わったことのある浮遊感が体を巡る。
全身に魔法陣が染み込んでいくようだ。
眠りに落ちるような........感覚。
目を開けると、さっきとは違う無機質な白い部屋に俺とサラはいた。
そこには腕輪と台座以外何も無かった。
ついたのか......?
手の感触が少しずつ戻ってくる。
「どうやら、着いたみたいね。行くわよ」
「お、おう」
その部屋を出るとまっすぐと通路が伸びており、道中いくつも部屋があった。
「ここはどこなんだ?」
「軍の地下施設よ。使える魔法使いはここで働かされて生き延びてるの」
「国が雇ってるってことか?」
「いいえ、飼ってるのよ」
「・・・・」
国は魔法使いを表では認めない表明を出しているが、近年は戦争に起用する見方が強い。
だから、こうして選別した魔法使いを隠すようにここに留めておいているのだろう。
しばらく歩いていると、ウルドがドアの前に立っているのが見えた。
「やあ、マリー。これから交渉かな?」
「ええ。」
交渉?何の話だ?
「それなら、私がやっておくと」
「彼女が適任だと思われます」
サラは俺を指さす。
「は?」
適任?交渉?
聞けば聞くほど訳が分からなくなっていく。
「わかっているのかな?今から行う交渉に失敗は許されない。もし失敗したら、どうなるか分かってるよね?君がどれだけ上官に好かれようと今回だけはタダでは済まされないよ?」
「もし失敗したら、磔にでもしてください」
サラなりの自虐らしい。
「私が適任だ」
「いえ」
「逆らうのか?」
ウルドの目は笑っていなかった。
「「・・・」」
睨み合う二人。
「やめたまえ」
突然、背後から低い重圧のある声がした。
振り向くと前にもあった上官が立っていた。
「連れてまいりました」
「うむ。ご苦労。今回は私の支持で彼女を連れてきた」
「しかしッ!」
「もし、決裂するようであれば君に任せる。これでいいかな?」
「......ッ、分かりました」
歯を噛み締める音が聞こえたが、ウルドは従い去っていった。
恐らく、これが成功するとかなりの功績になるのだろう。
「ならそろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「そうね。これからヴァルナ第一刑務所に向かうわ」
「........やっぱりか」
その刑務所名は俺やサラが前に入っていた場所だった。
そこへ交渉へ出向くということは......。
「俺にエメと会え、と?」
「ええ。不本意だけど。今回ばかりは彼女の助けが必要なのよ。もちろん、拒否権はないわ。」
俺は腹いせに思い切り舌打ちをしてやった。
「けど、報酬はあるわ」
「!?」
「あなたの呪いのことについて。いくつか情報を提供出来る」
「........それは国の、いや軍の機密事項じゃないのか?」
「それを提示するほど、今回の任は重いということだ。君には期待しているよ」
上官は俺にぎらついた目でそういった。
「...........わかった。受けよう」
地下を抜け外へ出ると、懐かしの空と焦げ臭い匂いが同時に押し寄せてきた。
空に何本かの黒煙が上がっていた。
「今日は3人か.......」
この黒煙は民間で磔をやっている証拠だった。
街は12年前に起きた未曾有の大災害で多くの被害を出した。そしてその爪痕は消えず、未だにボロボロだった。
「ここからは馬車で行くから、このローブを着て目が隠れるまでフードを被っておいて」
どうやら、魔法使いであることが国民にバレると色々とまずいらしい。
まあ秘密裏にしてたらそりゃそうか。
俺は渡された緑色のローブを着て、フードを被った。
しばらく馬車にゆられ、ようやく刑務所に着く。
兵の上には有刺鉄線が貼られ、施設の隅と真ん中には高い見晴台が立てられ、24時間体制で監視している。
上官は窓口で腕章を見せる。
「4人だ。面会を頼みたい」
すると門が開く。
俺たちはそのまま、門を通過し中に入る。
刑務所の中には灰色の受刑服をきた受刑者たちが作業していた。
その光景は俺が二度とみたくないものだったが不思議と懐かしさもこみ上げてきた。
馬車を降りて、通路を歩いていき小さな小部屋に行き着く。
そこには硬く魔法で強化されたガラスをしきりに面会室があった。
まあこんなガラスあいつには意味が無いと思うが.......。
中には誰もおらず、まだエメは来ていないらしい。
ここで俺は確認しておきたいことがあった。
「んで、何を交渉するんだ?」
「軍への全面協力よ。彼女が率いている組織のね」
「わかった。交渉に用意する対価は?」
「刑期の大幅軽減。その他は状況に応じて」
「本当に次の作戦にあいつが必要なのか?」
「ええ。作戦のことはまたあなたとあなたの同僚に説明するわ」
「・・・」
面会室には椅子が向こうとこちらでひとつずつあり、そこに座って交渉するようだ。
エメと会うのは刑務所出て以来か....。
やがて、鉄の扉が軋む音がした。




