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男の武器がもうないことに気づく元賢者

アラームの音で、俺は目を覚ました。


うるせえな。まだねみいんだよ。


そのせいで、だんだんと頭の靄が消えていく。


しかし考えてみると、アラームなどかけた覚えがない。


しばらくして気づいた。


これは頭の中で鳴ってる!?


目を開けると、その音はやんだ。


「もしもし。」


聞き覚えのある声。


「もし、もし、あんたは昨日の....?ていうかこれ、頭の中で電話してるってことか?」


「そうです。」


「それで復旧は出来たのか??」


「はい、復旧はできたんですけど....。」


「けど?」


「その何者かによってあなたに強い魔法がかけられていて.....。」


「そんなもの解けばいいじゃねえか。」


通常、かけられた魔法は必ず解く方法があるはずだ。相当、面倒なものでない限り。


「それがですね......100年くらい前に使われていた魔法らしく、解き方が全くわからないという状況でして......。」


「100年!?そんなものを知ってるやつなんて生きているわけが..............ッ!!」


俺はその人物に一人だけ心当たりがあった。


あのクソババアか.......。


おそらく、ヤツなら可能だろうが。


師匠が魔法をかけたということは、解くことがほとんど不可能なことを意味する。古い魔法の解法なんてのは古くから生きているものにしかわからないのだ。


「とりあえず、こっちに心当たりがあるんで、連絡を取ってみるわ。」


「わかりました。こちらも進展がありましたら、またご連絡をさせていただきます。」


そこで連絡はきれた。


しかしあの師匠はどこまでも人の邪魔を.....。


とりあえず、使い人形に手紙を挟んで送っておくか。


使い人形とは基本的に伝書鳩より少し速い程度の手紙の運搬方法で、魔法で場所をプログラムするとその場所まで勝手に移動してくれるという代物である。


だいたい1日くらいか...。ここから。


とりあえず、仕事に行くか。


俺は冷蔵庫を開けるが基本的に食材が無造作に置かれているだけだ。


前まではレーネが何かしら作り置きしてくれてたんだけどな。


俺はレーネを少し恋しく思いながらも学校へと向かった。




今日で二回目の学校だ。


どうせ授業させてくれねえだろうがな。


頭の中にあの教師と生徒どもの嘲笑に満ちた顔がよぎり少し苛立ちを覚えた。


この角を曲がって奥へ進めば職員室だ。


俺は角を曲がった時、綺麗な黒髪ショートの女生徒とすれ違った。


顔は見えなかったがあの髪型と色はおそらくニアだろう。


俺は振り向き声をかける。


「ニア先生、これから教室へ?」


「ごめんなさい。」


「え?ちょ、ちょっと!」


そう言って彼女は走って階段を降りていってしまった。


最後までその顔ははっきりとは見えなかったが、薄ら涙を浮かべているようだった。


どうしたのだろうか....。


「とりあえず、職員室向かうか.....。」


俺は奥へと進む。


職員室の扉を開けると数名の男性教師がいた。


「どうかしたのか.....したんですか?」


敬語に直さねば....。


「あ、アルフ先生。いやそれがですね...私がちょっと香水に注意しただけで怒っていってしまいましてね。

どうなってるんですかね。女性の常識というのは。」


香水か...。思い出してみると確かにそれと似たような匂いがすれ違いざまにしたきがするが。


「はぁ。ところでギル先生はいらっしゃいますか?」


俺は話を切り替える。


「ギル先生だったら、もう教室に向かってますよ。」


「そうですか。」


なら俺も教室に行くか。


俺は職員室のドアを開け、まっすぐ教室に向かった。


正直、イヨが心配だ。実技試験の内容もわからないし、出席日数のこともあまりよくわかっていないとわからないものだらけだ。


このままだと初めての教え子が退学させられてしまう。


俺はそんな恐怖心に煽られるのを感じた。


教室に入ると、ギルと数名の男子生徒が談笑していた。


「あの、ギル先生。お聞きしたいことが....。」


すると生徒達の目の焦点がこちらに合わされる。


「なんですか?」


「あの、実技試験って具体的に何をやるんですか?」


「はぁ。そんなことも知らないんですか。」


ギルは呆れ顔を作る。


知るかよ。んなこと。


「すいません。」


「選択で見る聞く書くの三技能の中から、一つが選べます。あと必須科目は戦闘による実技訓練ですね。」


「なるほど。」


この手のものは昔、師匠にやらされたな....。


「それで今日は授業はどうなさるんですか?」


「え?ああ、今日も私がやりますよ。君たちもその方がいいでしょ。」


すると取り巻きが皆頷く。


露骨だな、うざ。こんなヤツらの教師やってんのか、俺は。


「わかりました。それじゃ、俺はこれで。」


俺は教室をあとにした。


とりあえず、イヨの所へ向かうか。


俺は階段を降りながら、外の景色に目をやる。


このもやもやした気持ちを卑下するかのような快晴だった。


ここじゃ、賢者だったことがなんの役にも立たない。使える魔法もすべて農民仕様だ。


くそ。あのババア。畑を耕す魔法でどうやってこれからやっていくんだよ!!


俺は行き場のない怒りを胸に秘めつつ、イヨの部屋の前まできてインターホンを押す。


するとプツッと音がする。


「山。」


ん?何だ急に


「か...わ?」


俺は反射的にそう答えた。


「どうぞ。」


すると扉が開いた。


なんだこれ。いつの時代の合言葉だ。


中に入ると昨日と変わらぬ、部屋の風景が広がっていた。


「今のは何だったんだ?」


「いや、その....男の先生が入ってこないように。」


「いや、この合言葉1回も知らされてないんだけど......。」


「そうでしたね。これからはコレでお願いします。」


俺は話しつつ、中の椅子に座る。


「それで実技試験についてはどの程度知ってる?」


俺もさっき知ったばっかだが。


「はい。一応一通りは。」


「それでどれを選択するつもりなんだ?」


基本的に見るは魔法陣を目で観察し、どんな魔法が使われるのか判断する技能、聞くは魔獣などの声である程度の種類分けをする技能、書くは魔法陣を文字通り書く技能である。


もちろん、これらには向き不向きが存在する。それに合わせて選ぶのが一般的だ。


「私は、書く技能を選択しようかなと。」


予想通り。ある程度の知識はありそうだし、こちらは問題なさそうだ。


あとは戦闘技能か.....。


「わかった。それとお前、戦闘経験は?」


「ない.....です。すいません、経験不足で...。」


そう言ってイヨは何度も頭を下げる。


「いや、その歳じゃ、なくて当然だ。だから謝らなくていい。 」


あったら逆に怖い。聞いたあと気づいたが、こんな質問をする必要なかったな。


「その.....先生の経験人数はどれくらいですか?.........戦闘の。」


その倒置法は変な意味に聞こえる。


「いや、俺もそこまでない。」


ここ数年は戦闘なんてほとんどしなくなってしまった。仮に向こうの世界で戦闘なんてしようものなら格好の狩りの餌食だ。


「そうですよね。農民.....なんですから。」


そうなんだよなぁ。俺、今農民なんだよね。


今回の一番の問題は俺が農民系の魔法しか使えないところにある。それはつまり、俺が実際に使える魔法に限りが出てしまうことを意味しているからだ。


俺はここでずっと胸にあった疑問をぶつけてみた。


「ていうか、なんでニア先生じゃなくて俺にしたんだ?俺、新任だし農民だしでいいとこないぞ。」


するとイヨは少し俯いた。


「それは、あの先生は.....なんか近寄り難いみたいな印象があったから。」


「俺、そんなに近寄りやすいかなぁ。」


正直、少しショックだった。十数年前まで近寄り難い!難すぎる!って恐れられてたのになぁ。


「いや、そのそういう訳じゃないっていうか...その。」


「まあ、それはいいや。それで何か戦闘魔法を唱えてくれるか?」


この子がもしこれで戦闘も人並に出来るのであれば、もはや教えることなど何も無いことになる。それだと俺の仕事はなくなるから出来ればやめて欲しいが......。


「はい。」


そう言うと彼女は奥の部屋から魔道具を取り出す。

魔道具とは魔法を使う際に補助の役目を果たす。要はアタッチメント的な位置にあるものだ。


ちなみに師匠とレーネは魔道具を持たない。というか持たない方が強いという化け物である。


特にあのババアはほぼ素手で戦うからな。つくづく意味がわからない。


イヨの魔道具はステッキ型のスタンダードなものだった。


ステッキの先端には赤い鉱石が取り付けらていた。


そこで彼女は力を込める。


「お日様雛菊、とろけたバター、このデブネズミを黄色にかえろっっ!!!」


自信満々に言い放つが何もおこらない。


ていうか確実に魔法が間違っている。


「おい、それ絶対別の話の魔法だろ。」


「いえ、これはその、炎系の単一攻撃魔法でして...。」


「嘘つけ!!絶対ロ○が電車の中で失敗した魔法じゃねえか!」


「すいません!私、こうゆうタイプの魔法、あまり使わなくて...。」


「うーむ。」


こっちは下地が全く無い状態からのスタートか...。


少し心配になってきた。


「とりあえず、戦闘の方は基礎から始めるか。」


「はい!」


こうして俺の最初の授業はスタートする。結構小規模だが。









「先生、もう限界です。私、壊れちゃうぅぅ。」


イヨがこんな声を上げてしまうのも当然だ。


だって2時間もぶっ通しでヤってるのだから。


「もう少し耐えろ。もうすぐ........終わりにする。」


「もうダメです。あ・・ッ!!ダメッ!!。そこはっ、ィクッ!」


イヨはその場に倒れ込む。


魔力の許容範囲を超えたのだろう。


「まあ、初めてにしては上出来じゃないか?」


「先生、こんなので本当に戦えるんですか?」


「ああ。極めればな。」


俺が今イヨに教えているのは強化魔法である。


要はステッキの周りを薄い魔法の膜を貼り強化し、物理的に殴り掛かるという脳筋思考の塊みたいな戦法である。


これは元々農産物に使う道具をより効率的に使えるよう頑丈にするのが目的の魔法である。


とりあえず、戦闘魔法に関する基礎知識がないイヨにはこれを極めてもらうしかなさそうだ。


ただこれを完璧にするには相当な集中力を必要とする。そのため、この魔法の訓練には杖に意識を集中させるのと同時に目隠しをし、棒などで横からもう1人がつつくという傍から見たら完全にアウトな事をする。


ただこれが女同士でやると別にそうでもないから不思議である。


もし仮に男の姿でやったならば、もはやそういうプレイにしか見えなくなる。



気づけばイヨは汗だくになっていた。


そのせいでブラが少し透けている。しかしよく見るとこの子のはデカい。それゆえそこについつい目が行ってしまう。


だが今は欲情もクソもない。なぜなら俺はもう擬似去勢済みだからである。


俺の股間にはもう以前のようなニワトコの杖はないのだ。いや、暴れ柳か?まあいいや。


しかし元男としてなんとも悲しきかな。


まあこういう状況ならむしろ逆にありがたくもあるが......。


「とりあえず、汗流してくれば?その......いろいろ透けてるし。」


「はい。あの......。」


「なんだ?」


「なんでこっちを見てくれないんですか?」


「いや、お前自分の格好を.....。」


「女の子と同士だし、いいんじゃないですか?」


「そういう問題じゃないんだ。とにかくシャワーでも行ってこい。」



俺はそう促した。


性別は変わってもドキドキはする。だから目のやり場に困ってしまうのだ。



イヨは立ち上がり、玄関付近の部屋に入っていった。


どうやらあそこが風呂場らしい。


しかしどうすっかなぁ。本当にあんな戦法でいいんものかと提案した俺自身、はっきりと断言できない。


あんな魔法と呼べるのかどうか微妙なラインの代物で、実技試験は合格できるのかどうか。


「こんな時に戦闘に精通してるレーネがいればなぁぁ.....。」


俺はため息混じりにそう零す。まあこんなこと言ってもレーネは遥か遠くの世界にいるんだが......。


「お呼びでしょうか。」


「!?!?!?」


俺の脳は後ろからの唐突な聞き慣れた声を認識するのにかなりの時間を要したのだった。


読んでいただきありがとうございました!

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