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終息を経て

状況が把握出来ない。


目の前には石のように固まって動かないサラ。


その隣には全ての勝ち筋を飲み込む怪物。


「おい、サラ!!大丈夫か!?」


「うご.........かないの。か....ら...だが」


辛うじて口だけは動かせるらしく、今にも消え入りそうな声でそう話す。


「まあ、だろうね。今は体を動かすどころか、筋肉の収縮さえ出来ないだろうし~」


「おい、お前。サラに一体何をしたッ!!」


すると魔女は気味の悪い笑を浮かべる。


「ただ、脳からの信号を魔法で固定しただけだよ」


信号を魔法で.......固定?


そんなことできるわけ..... いや、今は理屈をこねている場合ではない。


早く次の手を.......考え....ないと。


俺はここで目から涙のようなものが出ていることに気づき、手で拭った。


しかし、それは涙などではなく鮮血だった。


「魔力.........切れ....?」


俺はすぐにブレスレット外す。


目からまだ血は止まらない。


目から滴り落ちる血で手が紅に染まっていく。


一気に魔力欠乏の症状が進行してるのか........。


それと共に止めどない絶望が押し寄せてくる。


どうすれば、こいつに.......?


眼前の俺が出会った中でも最悪の魔女。


俺は魔法はおろか、素早く動くことさえ困難な状態。サラも同様にこの魔法が解かれない限り動けない。


どう.........する


するとふと目に入ったものがあった。


何錠かの薬が入ったガラス製の瓶。


あれはさっき、床を落とした時に一緒に落ちてきた.......あの男が持っていた薬....?


サラの説明が頭を流れる。





「薬?」


「そう。あいつのあの黒い血管を見れば、一目瞭然よ。今、こっちの軍が血眼になって取り締まってる薬。言わば、魔法適性飛躍剤ね」


「違法なのか?」


「当然。今はまだそんなに流通してないけど、もし一般に出回ったとしたら......」


「どうなるんだ?」


「間違いなく、今まで逸材と言われていた者達がごろごろでてくることになる」


「別にそれって何も悪い事じゃない気がしないでもないが......」


「まあこれがただ魔法適性を上げるだけなら、まだいいけど」


サラはそこで息を呑む。


「それに使われる魔力を自らの生命エネルギーから削って産出してるとなると話は別でしょ?」


「.............なるほど」


通常、魔法使いの体内からは半分の魔力しか使えないようになっている。理由はもう半分を生命を維持するために使っているいからだ。


具体的に言えば、骨を補強する魔力、体内の温度を調整する魔力、血液を全身に送り出すための魔力、脳の組織を統括する魔力などだ。


ただ普通の人間はこれを体の各臓器が補ってくれている。しかし、魔法使いの多くはそれらの臓器のどこかしらがなかったり、不具合が起きていたりする。


つまり、魔法使いとは普通の人間では使えない人智をも超えた力を使えるかのように見えるが、その実態は普通の人間にはない欠陥を魔力を作り出すことで補っているのだけなのだ。


魔法とはその力のお零れを授かり、酷使しているだけ。


そういう意味では、全ての魔法使いは【欠陥者】だと師匠からは聞いた。


「まあ、だから頭がパーになった状態で暴れられるとまずいから取り締まってるんだけどね」




「・・・・・」


今、目の前にあるこの薬。


使えば、確かにこいつに太刀打ちできるかもしれないが......もし生み出した魔力の根源が脳の組織を維持するものだったりしたら俺はもはやものを考えることさえ出来ない体になってしまうかもしれない。


いや、今迷っている場合ではない。


後ろにいるものと自分を秤にかけるな。


俺はそれを恐る恐る手に取る。


「ハハハッ!それ、使うの~?」


ケラケラと笑う魔女。


一か........八か。


俺は瓶の蓋を取る。


おおよそ、6錠ほどか。


これを全て体に取り込めば、いけるかもしれない。


汗と血が混じりあったものが頬を伝い床に落ちていく。


心臓の音が鼓膜まで届く。


動揺はしている。


しかし不思議と恐怖はなかった。


ただ、自分が誰かのためにという幸福感だけが胸に残る。


塀の中では味わえなかった感覚。


欠陥者。


それは本当に正しく魔法使いとりわけ俺を捉えた言葉だと思った。


俺は覚悟を決め、それを口に放り込もうとした時だった。


突然、俺の手元から瓶が遠くに飛ばされる。


俺はその瓶が割れる音で何が起きたかに気づいた。


「!?」


「それを使ったら、君をもう二度とレーネくんとは会わせられなくなるよ」


聞き覚えのある声。


俺の目には、ついさっき道を教えてくれた少年が写っていた。


どうして...ここに?


でも口調が、なんか....?


いや、それよりどうするんだ。こんな小さな子を庇いながらどうやって.....。


「ここまで、か」


その少年は手から何かを落とした。


すると見る見るうちに姿がぼやけ始める。


そしてそれは懐かしい姿形へと変化してく。


小さな少女。白いローブ。


「師匠ッ!?」


「久しぶりだね」


姿を変えていのか!?


いやそれより何故ここに!?


向こうにいたんじゃないのか。


ここで魔女が口を開く。


「先生、お久しぶりです」


「もう君の先生ではないよ」


せん、せい?


聞き慣れない単語が飛び出す。


「会えたのは嬉しいですが、はっきり言って興醒めですよ~。ですからまたお会いしましょう」


「また、はもうないよ」


師匠は拳を握りしめ、魔女を睨みつける。


「ありますとも~。生きていればまた会えますよ。その右の方がね」


魔女は俺に視線を向けた。


「それでは」


魔女の足元には魔法陣が現れ、そのまま姿を消した。


転移魔法か.......。


「逃げられちゃったか....」


久しぶりに見た小さな背中。


今回はこの人に助けられてしまった。


「説教は後でね?」


師匠の久々に見る黒い笑顔に身震いしながらも俺は頷くしかなかった。


俺は安堵ともに魔力欠乏の反動が押し寄せ尻餅をついた。



その後、間もなくして軍の者達が到着し事なきを得たのだった。





「え.......?それじゃあ、生徒が退学したことに私は直接関係ないんですか?」


「そうだ」


驚きを露わにするニーナ。


あれから数時間が経過し、ニーナは軍特注のポーションですっかり回復して今は医療用のテントの中にいた。


「あのクビになった教授も禁書庫の鍵をこっそり複製してやがったしな。だからお前が負い目を感じる必要はないんだよ」


これでニーナの重荷が少しでも、軽くなってくれると嬉しいが顔はまだ浮かないままだった。


「どうかしたのか?まだ気になることが?」


「あの約束は.....約束ですよね?」


「約束?......あー、この大会が終わったら今後俺たちに関わらないってやつか」


ニーナは俯きながら、静かにに頷く。


確かに、俺は最初の授業の時そうは言ったが.....。


「実際、俺はお前に関わるなと言っておいて自分から詮索してるからな.....。だから、こっちにも非がある。その代わりって言ったらあれだけど、これからの選択権はお前にやるよ」


「え.......それって.....」


ニーナは俯いてた顔を上げ、目に涙を貯めこちらを見る。


「う.......ッ」


すごく気まずい。


「それでお相子ってことで。あとはその.....好きにしてくれ」


「はい!これからもよろしくお願いしますアルフ先生」


俺は初めてニーナの満面の笑みを見た。


そこでさらに俺は言い出しづらいことを白状しなければならなかった。


「それと実はな....こんな話しといてなんだが、俺さ...........」


「?」


そこで突然、テントの入口から音がする。


「アルフ先生!?!?学園辞めたってほほほほほ本当ですか!?!?!?!?」


見ると、目をぐるぐると回しパニック状態に陥っていたイヨだった。


「アルフ先生.....それ........本当なんですか?」


ニーナの顔からはさっきまであった色が無くなりかけていた。


俺は頭痛を抑えるよう額に手を当てる。


「ああ......実はここに来る時にな」


「私のせいで.......」


ニーナは顔を手で覆う。


「いやお前のせいなんかじゃ.......とにかく一度学園には顔出さないと」


「その必要はありません」


冷たく落ち着いた声。


その声は紛れもなく学園長のものだった。


振り向くと学園長と副学園長が立っていた。


来てたのか......。


すると学園長はまっすぐ俺に向かってくる。


何を言われるんだろうか。


ただ俺は間違ったことはしていない自信はあった。


あのままサラを見捨てるという選択肢などなかったのだから。


ところが、学園長は俺を素通りしニーナの所へ駆け寄りニーナを思い切り抱きしめた。


「え?」


ニーナも何が起きているのか分からないという表情をした。


「ごめんなさい。私が今まであなたの苦しみに気づけなかったばっかりに......」


その目には涙を浮かべていた。


「私は自分の仕事にばかり没頭しすぎた。そのせいであなたとの時間がどんどんなくなっていってしまったの。だからあなたがあんなに悩んでいたなんて............私は親失格ね」


「お母さま.....」


ニーナの目からも涙が溢れ出していた。


俺はその光景を見て腑に落ちない点があることに気づく。


「じゃあなんでそんなに娘のことを思っていたのにあの場であんな選択を.....?」


「それは私が指示したからだよ。弟子の成長のためにね」


またもや聞き覚えのある声。


そこには師匠とレーネの姿があった。


「俺の、成長?」


「そう。あの場でどれほどの覚悟を積めるか、そしてどれだけ冷静に物事を見れるかの、だね」


じゃあ、学園長は師匠の指示のせいであんな行動を?


だから、師匠はあの場にいたのか。


何かあった場合、即座に対応できるように。


師匠は小さく溜息をつく。


「ただ相変わらず君は頭に血が上ると後先考えずに行動する。それこそ何の策も持たずにね」


「それは.....」


正直、言い返す言葉がない。


それのせいで、死にかけたわけだし。


「でも覚悟の方は評価するけどね。それとさっきも言った通り、彼女の行動にはほとんど私の指示が挟んであった。つまり彼女は君が思っているよりずっとニーナくんのことを気にかけていたのだよ」


そうだったのか.....。


俺の中の学園長のイメージが次々と覆されていく。


「まあ、彼女の場合、不器用すぎて本から色々と空回りしていたがね......それに」


と師匠は言葉を付け足す。


「自分の実の娘が可愛くない親なんているわけないでしょ?君も子供を授かれば分かるだろうけどさ」


するとレーネの表情が一変して飢えた獣のようになる。


怖ッ!?


「お母様。アルフ先生は何も悪くないんです!!だから、先生をどうか辞めさせないでください!」


ニーナが必死に訴えかける。


しかし副学園長がその訴えを許さない。


「しかしね、彼女は軍に対して明らかな妨害行為を行ったのですよ?それに辞職願は既に提出されて....」


「確かに提出はされました」


「それじゃあ尚のこと彼女をクビにすべきでは」


「そんな..........」


たしかに俺はあの場で辞職願を出してから学園を飛び出した。つまりそこについては何の文句も言えないということだ。


「しかし、受理をした覚えはありません」


「え?」


「!!」


副学園から活力が薄れゆくのとは対照的に蒼白だったニーナの顔に赤みが戻る。


「そんな.......お言葉ですが、屁理屈みたいなものが通用するはずが......第一、女性教諭というのは世間からの反感が.....」


「屁理屈も理屈じゃないですか?副学園長。それに女性教諭なら私やニア先生も入るじゃないですか。」


「それは..........そうですけど」


「それじゃあ、俺は...?」


「ええ。ですからあなたには今後とも残ってもらいますよ」


「.............先生!!!」


「!?」


その瞬間、行き良いよくニーナが俺の胸に飛び込んできた。


ニーナのいつもなら考えられない行動に赤面しながらも、同時に俺の胸がニーナの体温とそれとは別の何か暖かいもので満たされてくのを感じた。


俺は後からのレーネの凍てつくような殺意の視線とイヨのソワソワした視線を受けながらもニーナを抱き締め返したのだった。









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