戦いは終わらない
「サラ、一旦回復魔法を使おう」
「・・・わかった」
俺とサラは今、防戦一方という状況に追いやられていた。
まさか、初手でサラの渾身の一撃をいとも簡単に止められれてしまうとは.......。
俺たちはその後、下の階で身を隠していた。
満身創痍。そんな言葉が頭に過ぎるほど、ダメージを受けてしまった。
サラに目をやると明らかに疲弊していた。
「おい、腕出してみろ」
「.........うん」
サラは俺が意図しない軽い擦り傷のついた方を出す。
「違う。もう片っぽの方が傷がひどいだろ。」
俺はぐいっと強引に腕を掴んだ。
「痛ッ!?」
その腕を掴んだ瞬間、俺は傷の程度をすぐに知った。
「やっぱり......。手首の骨、粉々じゃねーか」
サラには昔から変わらない決まった戦法があった。
それは初手でまず、あからさまな程強力な魔力を込めた拳で攻撃し、それを防がれてから持ち前の蹴り技で圧倒するというものだった。
しかしやつ相手にはそれが通じないどころか、逆に痛手を負わされてしまったのだ。
「いいわよ。自分で出来るから」
そう言ってそーっと俺から腕を離す。
その感じじゃ相当痛いだろうに。
「お前、一番回復魔法が苦手だろうが」
「・・・・・。」
サラは今も昔も脳筋らしい。
俺はサラの手首を手前に引き寄せ回復魔法を使う。
「サラ、少し魔力を借りるぞ.........ってなんでこっちガン見してんだよ」
サラは素っ頓狂な顔をしてこちらをじっと見ていた。
「あんた........本当にアルフなのよね?」
「・・・・・。」
今更しらなど切れる訳もなく、俺はここではっきりと明言することにした。
「.............そうだ」
するとサラはみるみる涙目になっていく。
「おい!なんで泣いてんだよ!」
「は!?泣いてないし!!!!」
サラは目頭を思い切り、袖で拭う。
その強気な態度にまたしてもデジャヴュを感じながらも俺は気を引き締める。
「でもあんた、なんで女になってんの.....?」
「今はそんなことはどうでもいいだろ。まずはこの場を乗り切らないと」
俺は周りを確認する。
このフロアは柱のみがあり、あとは死角は一切なかった。
なので俺たちは柱を背にして隠れ、次の仕掛けるタイミングを狙っていた。
相手との力量の差は歴然。
なら、勝機があるとすれば不意打ちぐらいなものだろう。
俺は隣にいるサラを見た。
大分深刻そうな顔をしている。
「次で勝てると思うか?」
俺はそっと問いかける。
はっと気づきこちらを見たがその双眸にはいつもの覇気が感じられず、まるで別人のようだった。
「当然........って言いたいけど、多分私じゃ無理」
「珍しく弱気なんだな」
いつもなら勝って当然という自信に満ち溢れているのに。
ただそうなってしまうのも頷けてしまうようなことがさっき起きたのだ。
初手で繰り出したサラの拳は完全に見切られてしまっていた。
ただサラの戦法の場合、それも想定の範疇のため拳はかなりの防御魔法で覆っていたはずだった。
しかし、それを相手は容易くなぎ払いサラは手首ごと折り曲げられてしまったのだった。
二陣で俺が仕掛けた遠距離魔法も全て無効化されてしまった。
つまり真っ向勝負ではもう勝ち目など微塵もないことを思い知らされてしまった状況なのだ。
今は何とか、下のフロアに床ごとぶち抜いて逃げ仰せている状態だが見つかるのも時間の問題。
やはり、不意打ち以外に手はないのだろうか。
いや、不意打ちさえ通用する自信が無い。
「ねえ、あんたなんでそんなに魔力少ないの?」
俺はブレスレットのついた方の腕をサラに向ける。
「これのせいでな。」
「なにそれ?魔道具、かなにか?」
「ああ。全身の魔力の流れを停める魔道具だから新たに魔力が入ってこないんだ。」
「なんでそんなもの付けてんのよ!?」
「これには理由が..........まあいいや。ていうかお前ついさっきと口調が違いすぎないか?」
「あ、あれは仕事用なのよ!!別にいいでしょ!?」
サラは顔を真っ赤にしてそう反論する。
「まあな」
「................なんかこうしていると懐かしい、わね」
サラはどこを見るでもなく、そっと呟いた。
「そう、だな」
そんな回想をぶち壊すかのように、突然爆発音が響く。
「「!?」」
途端に後ろの柱が音を立てて崩れる。
土煙が立つ中、やがてひとつの小さな影が姿を表す。
「ここにいたのか~」
バレてる!?
クソ、不意打ちは失敗か......。
さて、どうしたものか.........。
思考の時間を与えてくれるはずもなく、追撃が飛んでくる。
ダメだ。この柱ももう時期......。
俺は諦めて飛び出す。
その直後、俺はサラに目配せする。
【お前は まだ出てくるな】
サラは静かに頷いた。
不意打ちはサラに任せて、俺は魔力が使い切るまで暴れるしかなさそうだ。
とにかく、まずは向こうの注意をそらさなければ。
「お前らの目的はなんなんだ?」
「目的?」
直後、俺の息のかかる距離まで顔が近づく。
「!?」
速い.........。
俺は急いで距離を取ろうと、後退しようと一歩下がった時
「がハッッ!?」
その瞬間、溝に信じられないほどの痛みが走る。
痛い.......!
俺は走る痛みを噛み殺して、近距離で魔法を使う。
「クソが!!!!!!!」
その魔法は凄まじい衝撃波を放ったはずだったが、容易く片手で止められる。
「!?」
俺はさらに続けて、魔法で強化した拳を繰り出すも全て体術のみでかわされる。
こいつ.......魔法だけでなく、体術の心得もあるのかよ。
「さっきの質問の答えだけど、目的なら君自信に聞いてみなよ」
「ッ...........!?」
こめかみに電流のような痛みが走る。
すぐに理解する。
それは比喩などではなく、本物の電流だった。
青白く発光する魔法。
電撃系統の魔法、か!?
さらに凄まじい衝撃波が遅れてやってくる。
それにより、俺は勢いよく右の壁に叩きつけられる。
全身を強く打った痛みと脳を劈くような痺れが濁流の如く押し寄せてくる。
「..........ッ!」
冷や汗と調和の取れていない呼吸音が漏れる。
まざまざと見せつけられる力量の差。
不意を突くどころか、隙さえ作れない。
俺はゆっくりと立ち上がる。
どうにかして、あいつの動きを止めないと......。
魔力の温存はもうやめよう。
今保身したところでこの先、逃がしてくれるわけがない。
魔力を全部使い切る覚悟で突っ込まなきゃ勝てない。
それに今ここで負けたら、ニーナとレーネにまで危険が及ぶ。
それだけは避けたい。
俺は静かに腹を括った。
「はァァァァァァ!!!!!!!」
全神経を集中させる。
脳内で構築した魔法陣たちを放つ。
魔女の周りに次々と魔法陣が現れる。
「へ~。こんなことも出来るのか」
魔女はまるでサーカスでも見ているかのような表情をする。
そして練り上げた魔法陣を一気に発動させる。
魔法の雨を降らせてやるよ。
すぐに閃光と共に炎が空を舞った。
一発でもいい。それが当たってくれれば.....。
そんな俺の望みとは裏腹に魔女はありえないスピードでそれを回避していく。
まるでどこに来るのか分かっているかのごとく、鮮やかに、軽やかに、そして素早く。
次に俺は近距離戦に持ち込む。
この魔法が降り注ぐ中で、俺の攻撃をかわすのは至難のはず。
はずだが...........。
「化け物かよ....!」
それもスイスイとまるで俺の攻撃が魔女を避けるかのようにかわしていく。
頭では場所を捉えられるのにそこに拳を当てられないのである。
目からの情報伝達が間に合わない.....。
今見ている景色と脳が認識している情報と誤差が酷すぎる。
「くそ.....!」
さらに俺は全て避けると見せかけてやつに腕を掴まれてしまう。
「攻撃されないとでも思ってるの~?」
「!?」
すぐに全身に電流が走る。
しかし、これは好都合だった。
ここに俺は空を舞う魔法を集約させた。
ここに全部、ぶつけてやる。
俺諸共。全部。
それに合わせて背後からサラが仕掛ける。
俺に攻撃している間はここに居続けるはず。
なら、どちらかの攻撃は....当たる!!!
電流は俺の全身の血液を沸騰させていく。
もはや痛みを通り越して、ただただ熱かった。
痛覚が全部やられたのか.......。
しかしそんなことはもうでも良かった。
俺が頭で創り出した大量の魔法の雨がここへ降り注ぐ。
この量をくらえば、いくらお前でもダメージを受けるはず。
そこでサラの一撃が加われば。
ここでようやく見える勝機。
しかし一筋の勝機は簡単に握り潰された。
魔女は俺から手を離し、両手を宙にあげた。
【石火よ 轟け】
その瞬間、稲妻と共に俺が創り出した全ての魔法陣が崩壊していく。
「嘘................だろ!?」
そんな言葉が漏れ出す。
なぜ、魔法陣が崩壊させられたんだ........?
ここでニーナから図書館で受けた説明が頭をよぎる。
いや、それよりサラが!!!
サラも足を武装していた魔法陣がすべて解かれていた。
この状態で、攻撃しても勝ち目はない。
すべては勝ち筋が潰される。
ただサラの目の光は消えていなかった。
すぐにサラは全身を武装直して突っ込んできた。
「無茶だ!!!やめろ!!!!!」
俺は全力で叫ぶが時既に遅く、サラは真っ向から拳を繰り出す。
「このッ!!!!!」
しかし、魔女から尚も余裕を感じられた。
魔女は繰り出された拳を上へ弾き、カウンターを打ち出す。
サラはそれをガードしようと左手を曲げて防御魔法を張った。
そこへ魔女の拳が当たる。
ただ、防御魔法が功を奏し、衝撃を相殺した。
これなら、致命傷は避けられたはず.........だが?
しかし、サラの様子がおかしいことにすぐに気づく。
「え・・・・う.......そ?」
サラの体が硬直しているのだ。まるで全身が固まったように。
そのまま、サラは前のめりに受け身も取らず倒れ込んだ。




