疑惑と確信
俺はレーネ、サラと共に会場の中へと入る。
周りは黒いローブを纏った戦闘員たちで溢れていた。
「これはなんの集団なんだ?」
「不明らしい、です。」
「不明、ね......」
前の学園の襲撃といい、かなり大規模な集団な気がするが......。
こちらとしてはなるべく、サラに動いてもらった方が都合はいい。
変に目立てば、後々帰る時面倒になる。
それにこいつに正体を見破られたらそれこそ、本当に面倒くさい。
俺はチラリとサラを見る。
黒い軍服に身を包んだサラはそのふくよかな胸を隠しきれておらずむしろ強調してる間であった。
そして彼女の眼に宿る自分の信念を貫くという医師の表れのような赤色は前よりも色濃く出ていた。
本当、前と何一つ変わっちゃいない。
俺の視線に気がついたのか、サラはこちらに視線を置いた。
「聞きたいことは後でまとめて聞きます」
「・・・・」
流石にバレてるか。
元々サラは国家転覆罪ですぐに磔にされる予定だったが、彼女を殺した後の革命軍の更なる過激化を恐れた国王は彼女を終身刑という形で檻に閉じ込めたのだった。
それと同時期に入った俺は専らサラとは反りが合わなかったためか喧嘩ばかりしていたのを俺はたまにふと思い出す。
その時よりかは常識がありそうで何よりだな。
俺たちは敵が放つ魔法の被弾を回避しつつ、会場の奥へと進んでいく。
中はさっきの爆発で照明装置が破損したらしく薄暗く、小さな窓から差し込める光だけが唯一の照明だった。
「それにしても暗い」
本当なら光源魔法かなにかで何とかするのだが今はそれに使う魔力も惜しい状態だった。
「ご主人様、今私が魔法を....」
「いや、温存しておいてくれ。この先、なにか嫌な予感がする。」
「嫌な、予感ですか?」
「ああ」
軍が主催する大会の襲撃。
それは言い換えれば、この国への宣戦布告を意味するはずだ。
しかしこれだけ大規模なことをやっておいて要求が学園長ではどうにも割に合っていない気がした。
何かもっと別の目的があるような......。
こうして走っている間にも、ここはアリーナの真下の通路のはずなのに小刻みに揺れるほど振動が起こっていた。
この上で戦っているのか?
やがてその振動は上ではなく、俺たちと同じフロアで起こっていることがわかった。
それにしても会場にいた観客は無事なのだろうか。
あのアリーナがいっぱいになるくらいだ。
相当数いたはず....。
すると、小さな明かりの中にポツンと立っている子供を見つける。
「おい、大丈夫か?」
「うん......。けど父さんが....。」
俺の腰ほどしか身長のない男の子が涙ながらにそう訴えた。
そしてその目深に被った帽子をぐっと抑え、涙を隠した。
「その父さんはどこにいるか分かるか?」
「うん..........」
そこにもしかしたら、ニーナがいるかもしれない。
「わかった。じゃあマリーはこの子について行ってくれ。俺は生徒を探す。」
「いや、私も行きます。あなたを一人にはして置けない。この子には別のものについていってもらう。」
随分信用されてねえな。
俺はサラを見つめる。
出来れば、一人で動いていたいんだが.....。
「目で訴えても意見は変わらない。私はあなたを見張ることが任務になっている。」
「わかったよ」
俺は諦めて、また明かりのない方へと戻ろうとすると突然引き止められた。
「?」
「さっき女の人を見たよ。僕よりもずっと年上の。」
俺は思うわず取り乱す。
「特徴はなにかあるか?」
「綺麗な銀色の髪の毛してた」
「ありがとう。どこで見かけた?」
「向こう」
男の子は暗い通路を指さした。
こんな真っ暗なところに.......。
俺たちはその方向へと向かった。
しばらく歩いていると、待合室のような場所に辿り着いた。
「これは、選手用の待機スペースか?」
「ええ。そう見たいですね。ただ、なにか......?」
「どうした?」
俺は部屋の内部に目を凝らした。
するとちょっとした魔法式の痕跡が見られた。
「おい、これって決まった範囲の魔法を無効化する魔法陣じゃないか?」
「そう、みたいですね。でもここにそんな設備があるなんて聞いたことない.......」
「誰かが意図的にここへ魔法陣を張ったってことか。」
となるとここに誰かが閉じ込められていたということか.......?
「ご主人様!こちらに大穴が.....」
俺がレーネの声のする方へと向かうとそこには直径30メートルぐらいの大きな穴が天井に空いていた。
俺が近づくとそっとレーネが俺に耳打ちをした。
「ご主人様、脳内構築魔法を使った痕跡が....」
「!?」
だとすれば、これをやったのは、ニーナなのか?
「どうして魔法陣を書いた痕跡がないんですか?」
サラが不思議そうに問いかけてくる。
「さあな」
脳内構築魔法は基本的には絶対機密だ。
まあ一部例外もいるが.....。
特に軍のやつにこんな情報を流せば、ろくなことにならない。
なのでここは当然しらを切る。
穴の空いた天井に目をやるとそこには照明設備のような跡が残っていた。
「これで会場内の照明がすべて落ちたのか」
さらに無数に転がる石には何ものかの血痕が残っていた。
そしてそこからは一本の血の轍のようなものがどこまでも伸びていた。
その血はまだ完全に渇ききっておらず、新しかった。
もしこの血がニーナのものだとしたら.......?
途端に全身から嫌な汗が流れ、悪寒が走り抜けた。
とにかく、急がないと。
「この血を追うぞ」
「はい」
「わかりました」
その血を追っていくと、いくつもの爆破系統の魔法痕とそれに応戦すべく放たれた防御魔法の跡が無残に散らばっていた。
ただその魔法を見ても明らかに傷の主が放った防御魔法はところどころ解れがあり、集中力を欠いていた。
平常心を保てないほどの傷を負っているのか?
すると不意にどこらからかけたたましい肉声が聞こえた。
「この声は......」
「男のものか?」
俺たちは急いでその声の根源へと向かった。
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