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私の決意

薄暗い部屋の中。


ここが私のすべてのような気がしていた。


アルフ先生とはもう随分会っていない。


あの授業が最後だった。


私は最初で最後かもしれない頼れる人を自ら手放したのだ。


私を煙たがらない、私を避けない、私を恐れない、唯一の人を。


ただあの時の私の行動に悔いはない。


ただ少し寂しいだけ。


私はそっと持っていた魔導書を机に置き、布団に入った。


出会ったばかりだけど、アルフ先生は良い人、な気がする。


サイコメトリーで先生の内情は見た。靄がかかったようになって見えなかった部分が気がかりだったけど、彼のすべてを知れたようだった。


それにアルフ先生なら本当の私を見てくれるような、そんな淡い期待をしていたのもあって余計彼に固執したくなってしまっていた。


「アルフ先生........」


無意識に呟いてしまう。


そして脳裏に浮かんでしまうのだった。


あの暖かな瞳が。


ダメだダメだダメだダメだダメだ。


何を考えているだ私は.......。


今は忘れなければ。


明日は大会だ。


早く寝ないと........。


私は布団を頭からかぶり、熱を帯びた顔を枕に押し付ける。


今、私はどんな顔しているだろう。


今まで体験したことのないようなモヤモヤが頭から離れない。


「ん~〜~〜~ッ!!!」


それを振り払うために枕に向かって叫んだが、靄は晴れない。


その日は結局一睡も出来ずに終わった。



大会の朝、私は朝食を食べ終え、会場へと出かけた。


会場の待合室には私のチームメンバーである先輩たちがいたけど、誰も私に目を向けようとしない。


まるで何も無いかのように扱う。


こんな対応にももう慣れたものだった。


私は部屋に付属しているベンチに腰掛け、一人で精神統一に勤しんでいた。


ゆっくりと目を閉じ、ただひたすらに魔法陣をイメージし、それを練り上げる。


アルフ先生から教えて貰った後、完璧ではないけれど、少しは出来るようになった。


もう少しだけ、先生と話がしてみたかったと後悔の念に駆られそうになるのを私は魔法陣で上書きすることで無視した。


手を差し伸べてくれる先生を私は何度も何度も何度も無視した。そうしようと努力していた。


部屋の中は静謐さを保っていた。


ただ皆が黙々と準備をするだけ。


やがて、部屋の空気が色を変える。


そろそろらしいことは私は悟り、目を開け立ち上がる。


立ち上がる私を見て、先輩達も立ち上がった。


そのまま私たちは何の言葉も交わさずにフィールドへと足を運ぶ。


対戦相手は、確か名門校だったはずだ。


このまま一回戦負けして終わるのがオチだろう。


私のそんな諦めめいた考えを打ち壊すように、彼らは現れた。


「久しぶりだね。ニーナさん。」


「ッ.........!」


私は言葉を失った。


なぜなら、彼らは母がいや私が退学に追いやってしまった生徒達だったからだ。


「ど、どうしてここに.....?」


「やだな〜。そんな顔しないでよ。僕らは転校したんだ。この学園に。」


そう言って彼は自らの校章に指を指す。


「何を企んでいるの?」


おそらく、何か仕組まれているはずだ。


でなければこんな必然じみた偶然が起こるはずがない。


「企む?何のことだかさっぱり分からないけど、僕らはただ正々堂々戦うだけだよ。もちろん、競技でね」


彼は自身のトレードマークでもあるアルカイックスマイルをこちらへと向けてくる。


彼もまた名のある富豪の息子だったはずだ。


まだあの時のことを根に持っているのだろうか。


私は自然と拳に力が入る。


自業自得、なのかもしれない。


私の自責の念は募りばかりだ。


とにかく、焦りを顔に出してはいけない。おそらく、モニターかなにかで見ているアルフ先生にだけは心配をかけないようにしないと。


それにこの戦いで無様な所を見せようものならアルフ先生にとばっちりを負わしかねない。


綺麗に、そして全てを尽くして負けよう。


私はそう心に決め、試合開始を合図を待った。


しばらくして、けたたましい音と共に試合開始を知らせるサイレンがなった。


私は前衛で先輩をカバーしつつ、二人の相手をする。


さらには後ろで待機している相手チームの後衛にも注意しないと。


拳の猛攻が私を襲ってくる。


その顔にはさっきの笑は掻き消えていた。


すると突然、後ろにいた先輩方の一人が膝をつく。


「ッ....!?」


まさか幻術!?


いつの間に!?


確か幻術系統の魔法は発動させるのに時間がかかるはず。なのにどうして....?


「!?」


考える隙を与えまいと拳の連打が飛んでくる。


私はそれを魔法と体術だけでカバーする。


「く....!」


「思い出すね。あの時を....」


あの時......。


ダメだ。今は試合に集中しないと。


とりあえず、後衛の先輩をなんとかしないと。


「フンっ!!!!」


「!?」


今度は左から!?


突然の魔法に私は一瞬体制を崩すも何とか持ち直す。


流石に私一人で二人を相手にするのは無理がある。


このままじゃ、あっけなく敗北してしまう。


そうなったら、また私のせいで人に迷惑を......。


とにかく、今は耐えるしかない。


こちらの魔導書の発動が上手く行けばまだ勝機はある。


それまで何とか.....。


すると不意に相手の後衛が一瞬ふらつくのが目に入る。


あれは魔力欠乏の症状。


詰めるのなら今しかない。


私は心を決め、一心不乱に地をけって前へ出ようとした時だった。


フィールドに突然、爆音が鳴り響き会場を照らしていた照明が暗転する。


視界には何も映らなくなり、ただ会場のざわつきだけが耳へと届く。


「動くな。声も上げるなよ?黙っていれば、今は痛い目には合わさない。」


耳元で囁くようにそう言われ、私は硬直した。


今は指示に従うしかない。


じわじわと恐怖が私を支配する。


昔から母には特別な魔法の所有者は犯罪グルーブに狙われやすいと聞いていた。


その話が頭をリピートする。耳の奥でずっと。


やがてまた声がした。


「ご協力ありがとう。」


その瞬間、首元で何かが発光した。


それと共に全身を痛みが走る。


「ぇ....?」


嘘、魔法?


少しずつ意識が薄れていき、体には力が入らなくなる。


これは.........電流....?


そこで意識は完全に途絶えた。




目を開けると、そこは試合の待合室だった。


「どうして......ここに?」


確か私は気絶して.....。


曖昧な記憶を手繰り寄せて状況を再確認する。


部屋の中はかなり暗く、扉から差し込める明かりだけが唯一の頼りだった。


私はそれをもとに扉の前まで行く。


私はドアノブに手をかけ、扉を開けようとするもビクともしない。


魔法がかかっていることをすぐに悟る。


こちらからじゃ、開けられない?


じゃあどうすれば.....。


でも軍が統括する大会で何か起きれば、軍も学園も黙ってないはず。


それに私は仮にも学園長の娘だ。


もしかしたら、誰かがいやアルフ先生が助けに来てくれるかもしれない。


照れくさそうに笑って手を差し伸べてくれるかもしれない。


しかし私はすぐに思い直す。


何を考えているんだ、私は。


自分から迷惑をかけまいと、苦しめたくないから無理やり離れたのにいざ自分が窮地に陥ったら助け求めるなんて.......そんなのは....。




すると足跡が近づいてくるのがわかった。


私は咄嗟に扉から離れる。


やっぱり、アルフ先生が助けに来てくれるかもしれない。


そんな細い蜘蛛の糸のような願望を捨てきれずにいる私を責めながらもやはり期待はしてしまう。


そしてゆっくりと扉が開き、強い光が差し込める。


そこで私は絶望する。


光の中にいたのは救世主などではなく、執行人だった。


私の存在のすべてが犯した罪に対する裁きを下す執行者は既視感のある笑みを浮かべて立っていた。


「また会えたね。」


「あなたは、何のためにここへ.....?」


答えのわかっている質問ほど滑稽なものはない。


でも聞かずにはいられない。


「何のためにここへ、だと?」


その瞬間、隣にあったロッカーを蹴り飛ばす。


「!?」


「貴様が、この......このジーク家の次期当主である僕にしたことを.......まさか忘れたわけじゃないよね?」


今でもあの時のことは覚えている。嫌という程に鮮明に生々しく。


頭の中をエンドロールのように映像が流れていく。



私のクラスで首席だった彼は持ち前の愛らしい笑顔と富豪の息子という権力でみんなからは一目置かれていた。


それに男女ともに平等に接するという平等主義を語り、それが女子からの人気も集めいた。


彼は言わば、クラスの人気者だったのだ。


そんな中、私は急に彼に呼び出された。


もちろん、接点は同じクラスというだけで基本事務連絡以外は話したことがなかった。


それに私は彼がみんなからもてはやされていたあの笑顔がとても苦手だった。寒気がするほどに。


私のそんな気持ちもつゆ知らず、彼は婚姻を申し込んできた。


おそらく私が学園長の娘だからだろうとすぐに魔法で見抜いた私はその婚姻を断った。


しかし彼はそんなことでは諦めなかった。


後日みんなの前で決闘を申し込んできたのだ。


当然、断ろうとしたが周りはそれを許さなかった。


決闘の条件は勝者の言うことを一つ何でも聞くというものだった。


相手の狙いはもちろん婚姻だろう。


けどここで無理やり断ったところで向こうも周りも諦めない。


ならここで全て終わりにしてしまおう、と私は思い渋々決闘を受けることにした。


それが忘れられない悪夢の始まりだとも知らずに。











読んでいただきありがとうございました!

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