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使用人様はご立腹のようだ。

腕の拘束を解こうと力を入れても腕に全く力が入らないことを確認し終えてから、俺は諦め混じりに声を吐き出す。


「尋問って.......なんのだ?」


「しらを切るおつもりですか?」


「・・・・・。」


正直心当たりはあった。


おそらく、昨日のニーナとの授業のことだろうけど写真は全て抹消したはず....。なのに、どうしてレーネがこのことをしっているんだ?


するとレーネは一枚の写真を俺の眼前へと出す。


「それは......。」


その写真は紛れもなく、俺が教室で粉々にした写真だった。


「どうして?という顔をされていますが、私もあの場にいたのですよ?認識妨害魔法を使って。」


「まさか・・・・。」


物体を元の姿へと戻す魔法。


「復元魔法か!?」


「その通りです。」


物体は細かな原子同士が結合して形成されている。その結合跡を元に復元する魔法、それが復元魔法。


「そんなことはどうでも良いのです。私がご主人様にお聞きしたいのはこの写真に写ってるものの事です。」


その写真には昨日、俺が宿屋の前でニーナと二人でいた時が写し出されていた。


あの妙な視線はやはり写真を撮った張本人、ネムのものだったのだろう。


して、これをどう説明したものか....。


俺がしばらく、黙り込んでいるとレーネは奥のキッチンから黒い液体が入ったビーカーを持ってきた。


「何をするつもりだ?」


「自白、してもらいます。」


「まさかそれ自白剤じゃないよな!?」


俺は後ろのキッチンに一瞥を与える。


劇薬というラベルが付いた小瓶が転がっているのが見える。


間違いない....。


あれは俺が昔、国から尋問するのに使いたいとの依頼が来た時に作ったもののあまりだ。


レーネはビーカーをジリジリとこちらへ寄せる。


「お、おい。まさか本気でやるつもりじゃないよな........!?」


「・・・・。」


後ろで怯えた目をしてこちらを見るイヨにも問いかける。


「おい、イヨもなんとか言ってくれよ!」


「・・・私も真実が知りたいです。」


くそッ!レーネのやつ、また何か吹き込みやがったな。


そしてついにビーカーの中の液体を口に流し込まれる。


絶対飲み込んだらだめだ。


俺は口に入れたまま飲み込まないで耐える作戦に出た。


耐久レース?条等だ!!!


するとレーネは俺の鼻を塞ぎ始めた。


ちょ、 ちょっと!?それ反則じゃないっすか!?!?


「フブォ、。」


喉に液体が入る音がする。


やばいッ!息が.......ッ!


俺は最初こそ耐えたがやがて力尽き、噎せながらも喉を通過させ、ついに胃へと到達させてしまう。



それからのことはよく覚えていない。


朧気ながら、思考が零れていく感覚に陥ったのだけは鮮明に覚えていた。





「本当にニーナさんとはただ授業をしただけのようですね。」


「や、やっと納得してくれたか......。」


イヨもほっと胸を撫で下ろして俺の拘束を解こうと手首に手を回す。


ようやく外れんのか.......。


キツかったァァ。


「イヨさん。まだ外してはなりません。」


「え......?」


イヨは解きかけた拘束を元に戻す。


「え、ど、どうして!?解決したんじゃないのか?!?」


「いいえ。ご主人様は私というものがありながら、私を放置し、あろう事か生徒を押し倒したのです。それは大罪です。」


「だから!あれは事故で、押し倒す気なんかなかったんだよ!自白剤使ったんだからこの証言に嘘はないだろ!」


「確かに事故だったかも知れませんが、少なくとも一瞬はそういう気になったんですよね?そう吐露しましたよね?」


レーネの顔がどんどんと近づいてくる。


だめだ、よく覚えてないけど俺はおそらくその時のことを何一つ隠さず吐いてしまったのだろう。


あれはそういう劇薬だ。作った自分が一番わかっている。


しかしまさか自分で作ったもので自分が貶められるとはなんという皮肉。


「頼む!埋め合わせはするから、今回のことは目を瞑ってくれないか?」


「埋め合わせ?」


「ああ!何でもするから!」


「今なんでもするっていいましたよね?」


「え、それは.........。」


「"言いましたよね?"」


「はい。」


俺は怒らせたくない一心で即答する。


怒らせたレーネはどんな悪魔よりも怖いのだ。


しかし、いったい何を要求されるんだろうか。


想像がつかない。


考え込むように顎に手をあてていたレーネだったが、やがて思いついたようにこちらを見る。


「明日、日用品を買いに行くのに荷物持ちをやってくれませんか?」


「え・・・・?」


「なんですか?嫌なのですか?」


「全然そんなことはないが、なんていうか意外だな、て。」


正直もっとすごいのが来ると思っていたが、思いのほか軽かった。


「意外、ですか。....求婚でもされると思いましたか?」


「いや、それは........。」


考えていなかった訳では無い。


しかしその口調からして、頭の片隅にあったものはどうやら杞憂だったらしい。


やがてポツリと呟くように言う。


「私は嫌々結婚されるのもご主人様に嫌な思いをさせるのも両方、嫌なのです。」


「ついさっき嫌な思いをしたんだが?」


「それとこれとは別です。私は結婚してくれるまで待ちますが、ほかの雌と結婚されたり、挙句の果てに交尾されるのも嫌なのです。」


「こ、交尾!?」


イヨは過剰にそこだけに反応する。


「言い方ァ!!!!!年頃の子が近くにいるんだぞ!!!」


レーネは気づいていないかもしれないが、俺はさっきの言葉で結構ドキッとしていた。


軽々しく言うなよな......たく。


俺は心の中では愚痴っていても自然と頬が緩んでしまっていた。


「というか、お二人共女性、ですよね.....?さっき結婚がどうとかって....?」


「いや気にしないでくれ。」


「え.......そうですか。」


イヨは納得いっていないようだったが、ここは軽く流した。



そして俺は長くに渡る拘束がようやく解かれ、帰ることが出来た。


部屋を出るとあたりは人一人いなく、閑散としていた。


レーネは明日には戻ると言って、イヨの部屋に残った。


まあイヨも承諾してたし、いいか。



俺は歩きながら、自分の部屋の階とは別の方向へと向かっていた。


買い物とはいえ、こんな学校で着て行くような服で街を歩いていたら目立ってしょうがない。


俺が唯一、その点で頼れるのはあいつしかいない。


高鳴る鼓動を押さえつけて、インターホンを押す。


しばらくして、返答が来る。


「あの、どちら様ですか?」


「アルフだ。」


「アルフ先生!?」


「悪いな、こんな時間に。」


「いや、全然大丈夫だけど。......どうしたの?」


「いや実はな.....。」


俺は明日のことを一部手を加えて伝えた。


「なるほど....。友達と買い物に行くけど、来ていく服がないと.....。」


「だから、少し言いにくいんだが、その.....服を貸してくれないか?」


俺は当然、こちらに来る時女になるなんて想定しているわけがないので、基本持ってきた服は男物のローブなどばかりだった。


だから服の在庫がほとんどないのだ。


「なんで言いにくいのよ。全然いいよ。貸してあげる。」


「マジで!?」


「そしてなんでそんなに驚くのよ。」


「いや、てっきり断られるもんだと思ってたから。」


「まあ、とりあえず中に入ったら?」


「お、おう。」


俺は言われるがまま、部屋に入る。


中は見た目通り、きっちりと片付けられていた。


それに部屋の作りは俺のと全く同じなのに全然違うものに見えるから不思議だ。


入ってすぐに柑橘系の匂いが鼻腔をくすぐる。


それからニアはパジャマを着ていて、いつもとは少し雰囲気が違っていた。


モコモコっとした服に水玉模様となんとも女性らしいパジャマである。


「あの......あんまりジロジロ見ないでくれる?」


ニアは恥ずかしげにこちらを見る。


「あ...ああ。悪い。新鮮だったから。」


「それで服の要望とかある?」


「うーん。」


俺はしばらく考えたが、やはりこれしかなかった。


「出来れば、その.......女の子っぽくないやつを頼む。」


「はぁ?アルフ先生は女性を舐めてるの?女性を何年やってきたの?」


罵倒の連打が飛んでくる。


いや、女性歴一ヶ月程度なんだけど。


「だめか?」


「せっかく、買い物行くのになんでボーイッシュな服を着るのよ。たまには可愛い格好ぐらいしないと心まで男になっちゃうわよ。」


聞いていてとても複雑な心境になった。


逆に女の格好して心まで侵食されたらそれはそれで困るんだけど.....。


「じゃあ、一個だけ要望を通してくれ。」


「なに?」


「スカートだけは勘弁してくれないか?」


男にとってスカートとはとてつもないハードルの高さを誇る。


たとえ容姿が女だとしてもそれだけは譲れない、いや譲ってはいけないと思っていた。


「えー。」


ニアは怪訝そうな顔を一瞬したが、諦めたようにため息をつく。


「まあ、いいわ。とりあえずコーディネートは考えておくから、明日の朝取りに来て。」


「え?今見せてもらうことは出来ないか?その....一応確認だけしたいんだが.....。」


「なに?疑ってるの?」


「いや、そういう訳じゃないけど.....。」


「なら、いいじゃない。」


「う......。」


まあこちらはお願いしている側なわけだし、ここは引くか。


「わかった。じゃあ明日またここへ来る。」


「うん。」


ニアは小さくガッツポーズをしていたが、今は不安を煽るだけなので俺は見て見ぬふりをした。









読んでいただきありがとうございました!

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