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軍人の中の知人

今日も誰も起こしてくれない朝を迎えた。


レーネの野郎、まだイヨのところにいんのかよ。


まあイヨの所にいるんだから心配はしてないけど。


今日は早めに行って、イヨにもうちょい詳しく事情聞くか......。


俺は適当に作ったトーストを機械的に口に押し込み、バックを持って部屋を出た。


外は鬱陶しいくらいに太陽が照りつけてきた。


俺はその光を手で遮りながら、学園に向かう。


寮から学園まで続く一本道を歩いていると続々と生徒が道に集まってくる。


規則正しく、行進するように道を進む。


その中にはニーナもいたが、ニーナの周りには極端に人がいなかった。


避けられているのだろうか。


まあ変なことして退学されられたら怖いもんな。


その気持ちは分からなくもない。

おそらく爆弾扱いなのだろう。


俺はその不自然に空いた穴へと入り、ニーナに声をかける。


その声に反応してニーナは振り向く。


「あら、先生。おはようございます。」


「おう。おはよう。昨日は何事もなく帰れたか?」


「え、心配してくれるんですか?」


「一応、生徒だからな。」


「もー。一応ってなんですか!私はれっきとしたここの生徒ですよ?」


「わるい、わるい。」


本当にこんな子が学園長の力を使って気に入らないものを排除したりするのだろうか?


ニアが言ってたことが無性に気になる。


ただ流石に直接聞けない。


俺は彼女の話に相槌を打ちながら、話を切り出すタイミングを伺っていたが、結局何も出来ずに終わった。




教室はまだ生徒が少なく、がらんとしていた。


そこでイヨを見つける。


一応、レーネのこと聞いておくか。


俺が保護者なわけだし。


ただイヨは誰かと話し中だった。


俺はその会話の相手に目を向ける。


数少ない女子生徒のうちの一人のようだ。


体型は痩せ型で背も低い。


特徴的だったのは綺麗な茶髪に左右に丸いお団子が一つずつついていることだった。


いかにも活発そうだな。


俺が近づいていくとイヨの方が先に気づいたようでこちらに体を向けた。


「アルフ先生。おはようございます。」


「おう、おはよう。えーと、その子は?」


「あー。この人は同じクラスのネムさんです。」


「ややッ!もしかして、先生は私のこと知らないんですか!?」


「ああ。悪いな。ここに来てまだ日が浅くて生徒全員の顔と名前が一致してないんだ。」


「あー、なるほど。ギル先生が授業している間隣でずっと暇そうにしてますもんね。」


少しイラッときたが我慢、我慢。


「だ、だめだよ!そんなこと言っちゃ。先生はすごい人なんだよ?魔法のこととか色々知ってるし。」


とイヨがフォローを入れてくる。やっぱり優しいな、この子は。


「そーなんですか!じゃあ今のうちにおふたりに媚び売っとこ!」


ネムは鞄から封筒を二つ取り出し、片方を俺に片方をイヨに手渡した。


「なんだ、これ?まさかお金とか入ってないだろうな?」



「いえいえ。自分、新聞部なんですけど、取材中にとれた写真とかが入ってます。」


「しゃしん?」


イヨの頭にはてなマークが浮かぶ。


そうか、今の子は知らないのか。


「写真てのは言わば、うーん....ワンシーンを手元に残る形にできる魔法?みたいなもんだ。」


まず、この魔法が大半を占めている世界ではカメラなどという概念がないだろう。


だからこの表現で間違いはないはず。


「あー!それってもしかして『かめら』て呼ばれてるものですか?」


「知ってるのか?」


「はい。博物館にあるのを1回だけ見たことがある程度ですけど。」


そんな貴重なものだったのか。


だとしたらなぜこの子はそれを持っているのだろうか。


俺たちの視線が集中したためか、すぐさまネムは説明を入れる。


「これは叔父が異世界旅行をした際にお土産で買ってきてくれたもので撮ったんですよ。だからそんな貴重なものでもありません。」


「なるほど。確かにほかの世界ならありふれてるもんな。」


これで合点がいった。



「じゃあこれはなんの写真なんだ?」


「たまたま取れた秘蔵写真です。まあ開けてみてくださいよ!」


彼女は早く早く、と急かすように言う。


俺は開けて中身を確認する。


中には一枚の写真が入っていた。


風景写真とかかな?


取り出して、確認する。


「?」


写真にはかなり大きめのクマの人形を抱いて寝ているイヨの姿があった。


俺がまじまじとそれを見ていると横からイヨがのぞき込む。


「イヨ、これって何の......。」


言い終える前にイヨは俺から写真を奪い取る。


「み、み、見ちゃダメェェェェェェェェェ!!」


イヨは取り憑かれたようにけたたましい声を上げて床に写真を抱えたまま転がり回る。


「ふふん!これはイヨちゃんがクマのぬいぐるみ相手に会話を.......。」


話し終える前にネムはヘッドロックの要領で口ごと塞がれ、喋れなくさせられる。


「ンゴゴゴゴ、!、!」


「こ、これどうやって、と、撮ったの!?」


イヨは激しく動揺しているようで顔が熱した鉄球のように赤くなっている。


「企業秘密でフゥ!!。もう一つの方も開けてみてください!」


ネムは口を抑えられつつも、喋ろうと懸命に声を出す。


イヨが受け取っていた封筒の方も中を確認する。


「!?」


俺は取り出した写真をすぐさま中に戻す。


「先生?何が写っていたんですか?」


「いや、なんてことない風景写真だった。」


俺は咄嗟に嘘をつく。


やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい


こんなの見られたら確実に終わる。


教師として、人間として終わる。


「そんなはずは.......。ちゃんとアルフ先生のスクープ写真を入れたはずなんだけどなぁ。」


イヨが拘束を解いたため、ネムが喋り出す。


まずいぞ....。こいつを早いとこ黙らせないと。


「スクープ、写真?」


イヨが食いつき始める。


「はい!なんとですね、アルフ先生がががががが」


今度は俺がネムを押さえつける。


「ど、どうしたんですか!?アルフ先生。」


「いや、べつに?」


「ムムムムムゥ!!!」


「風景写真ってどこのですか?」


「その辺、の川とか?」


だめだ。頭が回らん。我ながら誤魔化し方が下手くそすぎると自覚してしまった。


とにかく、この写真を今すぐ処分してしまおう。


俺は写真をビリビリに破いて捨てる。


「あああ!!!」


ネムの悲痛な叫びが響く。


俺はそれからネムに耳元で囁く。


「頼む。このことは内密にしておいてくれ。」


「ただでジャーナリストが黙る、と?」


ジャーナリストってなんだよ!!


「わかった。何が望みだ。金か?」


「ふふん!見くびってもらっては困ります!私は金では動きません。そうですね......今度取材に付き合ってくれたら、今回のことは内緒にしておいてあげます。」


「わかった。」


取材ってなんのだろうか。そこが分からないのが怖いが背に腹はかえられぬ。ここは条件を素直に飲むしかない。


「それでなんの写真だったの?」


「いやー単なる風景写真ですよ!」


「え?でもさっきスクープ写真がどうとか....。」


「あ!スクープと言えばお二人共、前起きた事件の時に学園長の結界を破ったと思われる謎の影ってご存じですか?」


「え.....知らないけど.....。」


ネムは無理やり話題を変えることに成功したようだ。


前起きた事件といえば、謎の巨大魔力反応と共寮が襲われた事件のことだろうが....。


「私、今それについても取材してるんですよ!」


「謎の影って?」


「私も聞いた話なのでなんとも言えないですけど、学園長の結界が破られた直後に空中に浮かぶ不審な人影を見たって子がいましてね。」


「へー。アルフ先生は見ましたか?」


「いや、俺がイヨを寮から脱出させてる頃には破壊されてたから見てないな。」


「そうですか...。まだ情報が少なくて困ってるんですよ〜。」


ネムはゲンナリした表情を見せる。


ここで言う謎の影とはおそらく俺とニーナのことなんだろうが、言わなきゃ絶対バレないだろうしここは知らぬ存ぜぬで通す。




俺たちが雑談に花を咲かてから程なくして、ギルと数人が部屋に入ってくる。


彼らはみな軍服のようなものを身に纏っており、キビキビと歩く。


昨日ニーナが言ってた軍の調査か。


「みなさん、席についたようですね。これより、身体検査を行います。どうぞ、前へ出て説明を。」


ギルに則されて、前に出る威圧感を持った男は身なりがきちんと整えられており、腰には魔道具らしき剣が引っ下げられていた。


「これから行う身体検査は『呪詛学界』に所属する者がいないかどうかを調べるためのものだ。そしてその方法だが、学会員は必ず腰のあたりに呪印が押してあるはずだ。それを確認させてもらう。話は以上だ。」


それだけ言い終えて、彼は再び元の場所へと戻る。


この検査で一番心配なのはイヨのことだった。


なぜなら、彼女は男性恐怖症だからである。


最近やっと授業受けられるようになった程度だからな.....。


俺は軍の人間にざっと目を通す。


数は6人か。女性が一人に対して男性が五人かよ。さすがだな。


そして俺はあることに気づく。


あの女.........まさか。


綺麗にまとめらた金髪にあの赤みがかった瞳。


間違いない..........。


あいつはサラ=フィール、刑務所に俺と同時期に捕まって放り込まれた元革命軍の女だ。


確か、罪状は国家転覆罪で終身刑が下っていたはずだが、どうして?


まさか、俺と同じく誰かに釈放してもらったのか?


いやでも、終身刑のやつを釈放できるのか?


仮に釈放されたとしてもなぜここに?


様々な疑問が起こる中、調査の準備は着々と進められた。








読んでいただきありがとうございました!

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