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転級生は黒い噂を抱える。

ニーナは俺と目が合うと、無邪気な笑顔を浮かべてこちらに手を振る。


「転級なんて、転校じゃあるまいし、学校的にいいんですか?」


「学園長から許可が降りたため、問題はない、です。」


「まじですか.....。」


当然の如く、周りは彼女に異質なものを見るかのような視線を向ける。


さすが、学園長の娘。なんでもありかよ.....。


俺はニーナの行動力に振り回されてばかりだなとまた、ため息をついてしまった。




四限が終わり、昼休みが来た。


生徒達は皆各々の弁当を出したり、食堂に向かう者もいた。


俺は今日も結局授業をさせてもらえずにただ机に座っているだけで終わった。


まだやらしてくれないのか、と俺が悲壮な表情を浮かべていると、恥ずかしそうに人目を気にしつつ、とてとてと近づいてくる影があった。


「あ、あのアルフ先生?」


「おう、イヨか。どうした?」


「その.........レーネさんと何かあったんですか?」


俺はギクリとしてしまう。


実は昨日からその事を頭の片隅に放置したままだったのだ。


「いや、ちょっとな.......。」


なぜ分かったのだろう。表情とかからか?


「家出、とか?」


「ブッ!?」


俺は図星をつかれすぎて吹き出してしまった。


「どうして、それを?」


「いえ、その.....昨日レーネさんが部屋に泊めてほしいと夜中訪ねてきまして....。」


あいつ、イヨの部屋に行ってやがったのか。


「そうだったのか。すまんな、迷惑かけて。」


「いえ!そんな迷惑だなんて...。なんかお泊まり会みたいで楽しかったですし。それで・・・。」


「ん?」


「な、仲直りとかしないんですか?」


「仲直り、ね。」


前からレーネが家出することはしばしあった。


それは猫時代からで、何か嫌なことあるとすぐにどこかに行ってしまう。


まあ大体は、一日二日したらにゃあにゃあ鳴いて帰ってくる。


今回もそのパターンだといいのが.....。


「レーネはなんか言ってたか?」


変なことイヨに教えてなきゃいいけど。


「基本的に先生に対する愚痴、とかですかね。なんか生殺しがどうたらこうたらとか?」


結構危ないこと、喋るのね!?あいつは。


「レーネにその話は絶対にするな、と伝えておいてくれ。」


「わ、わかりました。あ、あの迎えには来ないんですか?」


「ああ。あいつもしばらくは女と暮らした方が色々学べることもあるだろうからな。」


するとイヨはキョトンとする。


「あの、アルフ先生も女、ですよね?」


「あ」


やばい。またやっちまった。そうだよ今俺、女なんだよ。


「い、いや、俺ってほら女なのに男勝りだろ?だから少しはイヨのところで女らしさでも、と思ってだな。」


「でも先生は男らしくて、その女の方なのにかっこいい、と思います.....。」


言った後、イヨはすぐに表情を隠すかのように下を向く。


「お、おう?」


なんか論点ズレてる気がするけどまあ誤魔化せたから良しとしよう。


特にイヨには俺の性別について懐疑心を持たせたら絶対ダメな子だ。


これだけは注意せねば。



その後もイヨと少し話をし、イヨはお昼を食べると言ってレーネから作ってもらったというお弁当を持って中庭へと向かっていった。


大方、この良い天気だから中庭のベンチにでも座って食べるつもりなのだろう。


俺も一緒したいところだったが、あいにくレーネがいつも作ってくれていた弁当が今日はないため、断食が決定していた。


そこで兵糧攻めとかいう言葉が頭をよぎる。


ま、まあすぐに帰ってくるだろう!


俺は自分にそう言い聞かせた。


教室を見渡すと俺たちが話し込んでいる間に誰もいなくなってしまっていた。


出来れば、ニーナと少し話をしたいところだったが、まあ今日の夜でもいいか。


俺は空腹で咆哮する胃を押さえつけるために水道へと向かった。




水道で胃がうまるほど水を飲んでいると足音がこちらに近づいてきていることに気づく。


「アルフ先生?」


聞き慣れた声。ニアだ。


「どうしたの?水なんか飲んで。」


「いや、ちょっと弁当忘れちゃってな。」


まさか部屋に前まで飯を作ってくれるメイドが居たなどということは言えるはずもなく、咄嗟に弁当を忘れたことにする。


「それはお気の毒さま」


俺はその言葉を背にしつつ、水を飲むのをやめない。


「それでこれは提案なんだけど、」


「?」


「私のお弁当、少し食べる?」


正直、体全体がその言葉に反応してしまいそうになったが、俺はぐっと堪える。


同僚の弁当を乞食なんて絶対にしたくない。


そんなの惨めすぎる!!!!


「いや、気持ちは嬉しいがやめとくよ。俺は水で十分だ。」


「そう。ならこのお弁当は捨てることにするわ。」


「なんで!?」


人が飯を求めている目の前で弁当捨てる宣言は侮辱に等しかった。食べ物と俺に対しての。


「だって一人で食べても美味しくないもの。」


そういうと彼女は弁当箱ごと、水道脇のゴミ箱へと捨てる動作を見せる。


「ちょ、ちょっと待って!!!」


「なに?」


「ありがたく、分けていただきたい。」


ニアはニヤリと笑う。


これが狙いか。


それにしても真の目的はなんだ。借りを作ることか?


「そう言ってくれると思った!さあ、中庭に行きましょ!あそこ、案外穴場なのよ。」


中庭っていうとイヨも確かいるんだよなぁ。


なんか生徒に見られると同性といえど恥ずかしいな。


まあ変な噂が立たないというのが同性同士の同僚の利点でもあるんだが。



俺たちは廊下を歩き出した。


食べ物が入ると分かると俺の胃はすぐに水を消化してしまった。


途端にまた、俺の胃は唸り出す。


その音を聞き、ニアはクスリと笑った。


恥ずかしい.....。


俺は歩きながら、タイミングを見計らい話を切り出す。


「あのさ、ニーナってどんなやつだ。」


俺はニーナのことをまだ完全に信じているわけではなかった。


なにせ、まだ会って間もないのだ。


今は彼女についての情報がほしい。


「あー。アルフ先生のクラスに転級してきた子?」


「そう。」


「うーん、ある意味有名人かな。問題児としてだけど......。」


「問題児?」


「うん。彼女ってすべての授業を寝ているの。」


確かにさっきのギルの授業もすべて机に頭をつけてスヤスヤ寝ていた。


「それに教師とも一切会話をしないことで有名なのよ。」


「え?」


俺にはガンガン話かけてきたのにか?


「それである時、一人の古くから務めてる先生が彼女を注意したの。そしたら.....。」


とそこで言葉を切る。


「そしたら?」


「次の日、その先生クビになったの。退職まで後3ヶ月くらいだったのに。」


「それって学園長の力でか?」


「たぶん、ね。それから彼女を注意するものは誰もいなくなったわ。その後も彼女に苦言を呈した生徒も次々と色んなイチャモンを付けられて退学になったわ。」


だから最初、学園長がアルフ先生にニーナさんに魔法を教えるのを任せた時は本当に驚いたんだから。」


「なんかそれだと、俺はなにかと問題児を押し付けられてる気がするんだけど。」


まあそのおかげ、色んな出会いがあったわけだけど。


「でも今回に限っては押し付けられてるってよりは任せられてるんじゃない?あなたに期待して。」


「期待.......ね。」


俺はその言葉に引っかかり覚えたが、中庭のベンチに座りニアに分けてもらった弁当のおかずを食べた瞬間、それらの疑念をすべて忘れてしまったのだった。














読んでいただきありがとうございました!


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