王都に送られる罪人
◇ ◇ ◇
俺たちは魔道具で腕と足を拘束され、馬車で連行されていく。
時が経つにつれて学園はどんどん小さくなっていき、風景も変わっていった。
馬車の中では俺たちは一言も会話はせずにただただ流れる景色を横目にながすだけだった。特に深手を負っていたサラは魔法で回復したといえど、魔力が欠乏状態にあることには変わりなく憔悴しきっていたようだった。
それよりもまだ状態がいいはずのレーネでさえも力なく首を俺の肩にもたげ、目を閉じていた。
俺は揺れる馬車の中でこの先の俺たちの処遇について考えていた。
待っているのは拷問か、それとも自白のために魔法漬けか、あるいは処刑か。考え得るものは全て暗いものばかりだが、あそこで死ぬよりは全然マシに思えた。なぜなら俺はこうしてまだレーネに触れられ、そのぬくもりを感じることができるのだから。
俺が魔力を使い過ぎたせいか、ステンノは何も話さない。体が疼くこともない。ひたすらに沈黙している。
本当は聞きたいことなど山ほどあったが、今は黙っているしかない。この空間は恐らく監視されている。今はただ目的地に着くことを待つしかないのだ。
数時間後、ようやく馬車が王都の中に入る。街は学園の近くにあるものよりも数倍大きく人でにぎわっている。そして罪人が乗った馬車は珍しいのか人々は馬車の通り道を開けながらもこちらを覗き込んでいた。
城の門を抜け、ようやく王の敷地内に入ったようだ。中は衛兵が何人も巡回していたが、エリーゼがいるとわかるなり、皆一段と背筋を伸ばし敬礼していた。
城の中央に入ると馬車は止まり、エリーゼはなにか他の補佐官と話しているようだった。
「罪人を連れてまいりました」
その男は馬車の中を覗き、その時俺と目があった。
「ほう、あなたが生かして連れてくるとは珍しいですね」
「この者たちは呪詛学会について貴重な情報源となります」
「…なるほど。それは興味深いですね。今まで捕らえてきた関係者たちは皆自害してしまいましたからね。あとで詳しく伺いましょう」
「承知致しました。これから王にこの件について直接ご報告をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「許可しましょう。ですがくれぐれも王に危害が及ばぬよう注意してくださいね?」
「承知いたしました」
エリーゼが短い会話を済ませた後、こちらに近づいてくるのが分かった。
「降りてください」
俺たちは言われるがまま馬車をおり、足の拘束具は外されたが、腕はやはり拘束されたまま城の中まで歩かされた。
「変な抵抗するなよ?必要であれば骨の一本か二本くらい折れるんだからな」
「ここまできて抵抗なんてしないわよ」
町とは違いきっちりと整備された石畳の上を歩かされ、城の中枢にある建物が見えてきた。
その門の前に立っている番人に衛兵達は事情を話すと重厚な門はゆっくりと開かれた。
そして中に入るとまず大きな階段があり、その先に正装を身に纏った何人かの側近と王様らしき人物が立っていた。
「罪人をお連れしました」
「なるほど。それが報告にあった罪人か。王様、いかがいたしましょうか。規定に基づくのであれば尋問し、情報を絞りつくすのが妥当と思われますが」
王は短い返事をした後、階段をゆっくりと降りてから俺たちの顔をまじまじと見た。王は初老であり、その身から魔力が感じられないことから魔法使いではないことがわかった。
王は一通り俺たちの顔を見た後、俺の目の前まで来て俺とぴたりと目を合わせた。そして短い瞬きをしてから、王の顔色がみるみると青ざめ、すぐに俺から離れ背を向けて階段をそそくさと登っていた。
衛兵や周りの側近たちも予想外の反応だったようですぐに王の後を追う。
よく聞き取れなかったが、王は何か小さな声でブツブツとつぶやいているようだった。
「王よ、顔色がすぐれないようですが…。それと彼らの処罰はいかがでいたしましょうか」
「…だ」
「?」
「今すぐ処刑しろと言っているのだ!!!」
「し、しかし彼らは貴重な情報源にもなり得ますぞ。どうかここは」
「とにかくいますぐにでも処刑しろ。あ、あの魔女はな…」
そのまま酷く動揺した様子の王と側近たちは奥の部屋へと消えていった。
「ガイア様、この者たちはいかがいたしましょうか?」
唯一残っていた側近の一人にエリーゼがそう問いかけると、一息ついた後にその男は静かに話し始める。
「王は何か混乱している様子でしたね…。一先ず第一地下牢にでも勾留しておきましょう。それからもう一度審議にかけることとしましょう。さすがに王のご意見といえどすぐ処刑しまうのはあまりにももったいない。私の方から進言してみましょう」
「承知致しました」
「おら、動け」
俺たちはそのまま第一地下牢と呼ばれる場所へと連れていかれた。
そこは城内の一番端に作られた建物で、小さな部屋の奥に薄暗階段があり、降りるといくつもの地下牢があった。
地下牢はじめじめとしていてかび臭かったがなぜか懐かしさも感じたのだった。




