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限られた選択肢の中で

 俺の中で答えはとっくに決まっていた。 


 愉快極まりないといった表情を浮かべるエリーゼを尻目に俺は自らの体を無理やりその場で硬直させながら、自分の小指にだけ今できる最低限の小規模魔法で保護してその魔弾のぶつけ、わずかに軌道をずらした。それにより俺もサラも直撃は免れた。 


 弾かれた魔弾は教室の壁を破壊した。 


 途中から動きを強制的に変えたため、体は奇妙な動きをする。それは内と外で全く違う動きをしようとした結果だった。そして最低限しか保護できなかった小指はぐちゃぐちゃに折れ曲がっていた。これが俺の体だったと思うとゾッとした。


 俺が崩れた体制を立て直そうと重心をずらした時、突然火花のようなものが頭の中で飛び散るのと同時に激しい痛みが俺を襲った。


 俺がその痛みの根源に恐る恐る目をやると、エリーゼの腕が俺の右胸を貫いていた。


 口からどす黒い血液が吐き出され、俺は膝をついた。俺が戦闘不能とわかるとエリーゼは俺から手を引き抜き、俺の血が付いた自身の腕を興味深そうに眺めていた。


「ご主人様ッ!!」


レーネは取り乱し、魔法で体を武装して、俺を助けようとしているのが目に入る。


しかしエリーゼの反対の手には既に攻撃用の魔法陣が用意されていた。このままでは魔法が確実にレーネに当たってしまう。しかしレーネはそれを判断できる冷静さを既に失っていた。


 俺はレーネを静止しようとするも肺が片方うまく機能していないせいか、声が全く出ない。体の主導権を移そうにも、宿主である俺が深い傷を負ったせいかステンノは俺からの信号に全く反応を示さなくなっていた。


 レーネはエリーゼとの距離を真っ直ぐ詰めていく。そしてこの遮蔽物のない直線状でエリーゼの魔法が外れることはなく、青い光を帯びた魔弾はレーネに直撃した。しかしレーネは腕に施した魔法でその魔弾を弾き飛ばした。それによりレーネの腕からは血が噴き出したが、レーネはそれで歩みを止めることなく、こちらに向かってくる。


 そしてレーネのもう片方の手から瞬時に強力な魔法が放たれる。その魔法は恐らく片腕の防御を犠牲にしたことによって、成し得た威力だろう。その魔法は凄まじい光を放ち、エリーゼの眼前にまで迫った。しかしそこでなぜかその魔法はエリーゼに直撃する寸前に突然消滅した。


 これもエリーゼの魔法か何かなのかと思い。エリーゼの方を見るもその表情から驚きが見て取れた。そしてその一瞬でエリーゼは後方に吹き飛ばされた。そこで俺はようやく気が付いた。さっきの魔法は囮だったということに。


 レーネはあの強力な魔法の陰に隠れて自分の足の踏ん張りだけを強化し、他は一切魔法で強化しないことで攻撃の方向をエリーゼに読ませずに、自らの攻撃をエリーゼの腹部に当てることができたのだ。


 しかしかなりのダメージが入っているのにも関わらず、エリーゼはなんなく立ち上がると一瞬で魔法を展開してすぐにレーネの背後を取った。


 「!?」


 レーネはその速さに反応することができずにいとも容易くエリーゼに捕まってしまう。そしてエリーゼは片腕をレーネの首に絡めそのまま締め上げながら上に持ち上げた。


 「先ほどの攻撃、見事でした。しかし魔法で強化されていない攻撃など私には通用しません」


 レーネは苦し気な表情を浮かべ必死に藻掻いているが、エリーゼの腕にはどんどん力がかけられる。


 このままではレーネが酸欠で死んでしまう…。しかし体が動かない。血が止まらないため、意識も朦朧としていた。それでも動かないわけには行かない。内臓をまき散らしてでも動かなければ…。


 そして俺が何とか立ち上がろうとしたときだった。その場に流れ出ていた血がまるで意思を持ったように動き出し、俺の体の中に取り込まれた。それと同時に体の傷は塞がり、痛みも消え血も止まった。


 何が起きたのかわからず、咄嗟に自分の体を見ると腕や足の血管が黒く浮き出ていた。そしてさっきまで血が流れていた胸の傷は黒く蠢く何かによって塞がれていた。


 前を向くとエリーゼは俺に向かって魔法をかまえながら、俺の顔をまじまじと見つめていた。



 「まさかあなただったとは……。この学園の教師を務めていたアルフさん、ですよね?」


 どうやら体内の魔力が不安定になったせいで幻影魔法が解け、俺の素性が割れてしまったらしい。しかしそれが何を意味しているのか、今の俺には冷静に判断できなかった。


 今の俺にやらなければならないこと、それはこの絶望的な状況をどうにかすることだった。


 エリーゼが俺に向けている魔法、それは貫通能力に長けたものでまともに食らえばただじゃすまないことぐらい頭ではわかっていたが、戦う以外の選択肢がない状況においてはその情報はもはやどうでもよいことだった。


 「優秀な方だと思っていたのですが残念です。まさかこんなお別れとは。しかもその黒い目にその奇怪な体、もう人間をお辞めになられたのですね」


 「……お前も人のこと言えないだろうが」


 思考がステンノと混ざっていくのを感じる。もはやこれが自分の言葉なのかさえわからなった。


 そしてエリーゼは俺のものかもわからないその言葉に珍しく反応を見せた。

 

 「…失礼ですね。私はあなたとは何もかもが違いますよ」


 「いいや違わないね。ぼくらもあなたも同じ化け物さ」


 ここで会話の主導権が完全にステンノに移った。そして俺は自分が喋っているのにそれを傍から静観しているような奇妙な感覚を味わっていた。


 「ぼくら…?やはりあなたはよくわからない。残念ながら私はあなたの安い挑発に躍らせて逆上なんてしませんよ?」


 「王家からはぐれた悲しき化け物…」


 「もう結構です。一体私の何を知っているというのか…。予定通りあなた方には死んでいただきます」 


 そういうとエリーゼはさらに強くレーネの首を締め上げた。


 その時俺は経験したことがないはずのこの瞬間になぜか既視感を感じていた。そしてあと一歩でも相手の間合いに入ればどうなるかを本能が告げていた。しかしその本能をステンノは遮断し、俺に進めと命じる。もはや主導権はほぼあちらに移っていた。


 レーネは必死に抵抗しながら、俺にこちらに来てはだめと目で訴えかけていたが、俺はそれを黙殺することしかできなかった。


 そして俺が一歩を踏み出そうとしたとき、背後から声が聞こえた。振り向くとサラがやっとのことでよろよろと立ち上がっていた。


 「……今なんと?」


 「だから、今私達を殺したら後悔するって言ってんのよ…」


 サラの発言をエリーゼは鼻で笑った。

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