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愛国者と革命家

 目の前には父がいた。革命軍のリーダーであり、私を殺そうとした父が。


 私の首を絞めたその顔と目の前の顔が重なって見えた。


 私の首は回想でもなんでもなく、今まさに現実に絞められていた。そして男は私をわざと生かすために、手の力を緩める。


「……ッ!はぁ……はぁ……んぐ……ぅぅ」

 肺と心臓が酸素を求めて、いっそのこと止まってほしいくらいにうるさく動く。収縮する血管が何度も耳の中を圧迫した。


 私は男にマウントをとられた状態だった。


「簡単には死なせねーよ、フンッ!」


 男が拳を私の頬めがけて、振りぬにいた。口の中が切れ、血の味が広がった。


 体にいくら力を入れても、まったくも動かない。この状態を解くことは容易ではないとすぐにわかる。


「お前らみたいな国に盾突く逆賊がなぁ、俺は一番嫌いなんだよッ!」


 殴られるたびに景色が反転する。段々と頭が痺れてきて、痛みを感じなくなっていく。


 ガレルは私の顔をを容赦なく殴り続けた。こう見ると、やはりこの男は父に似ている。国が大好きで、国のためなら死ねると本気で思っている顔だ。その国を思う気持ちが、逆に国を滅ぼすこともあると知らずに……。


 私のいた革命軍は外からではなく、内から崩壊した。それはおもに父と私の対立のせいだ。ただ今回は外から崩壊するらしい。衛兵達に蹂躙されてあっさりと崩壊するのだ。


 私がここで殺されて…………。


そこで一瞬意識が飛びそうになるも、謎のポーションをかけられ意識を取り戻す。


「誰が寝ていいって言ったんだ?ああ?」


「何よ……、これ」


 なぜだかほんの少しだけ魔力が回復し、そのせいで無理やり意識が覚醒させられる。そしてその瞬間、猛烈な痛みが全身を襲った。せっかく忘れていられたのに……。


「純度の低い魔力回復ポーションだ。少しは目が覚めたろ?」


「ぅぅぅ……、く……」


 殴られ過ぎたせいか、顔がじんじんと痛み、目の上のこぶのせいで視界が狭くなっていた。


「痛いか?……王はなぁ?その何十倍も心を痛めてるんだよぉぉ!」


 怒号と共に、また拳の雨が降り注いだ。途中何度も意識が飛びそうになるも、ガレルはその度にポーションで私を生かし続けた。そのせいで私は痛みに向き合わなければならなかった。


「お前らのせいで民の国への信頼はガタ落ち。今もなぁ、王はその対処に追われてんだよ。それがどれだけ罪深いことかわかるか?」


 音がぼやけてよく聞こえなくなっていた。鼓膜が破れたのか、脳震盪のせいなのかわからないが、彼が何かに怒っているのはわかっても何をいっているのかはわからなかった。

 

 狭い視界でエメとギルの方を見る。彼らも私と同じように取り押さえられ、身動きが取れない状態にさせられていた。このままでは全滅であることは、ぐちゃぐちゃになってもう使い物にならない私の頭でもわかった。


 何とか彼らを逃がせれば、革命は続けられる。それに私の思想と目標はエメに託してある。私がここで死んでもエメが私の遺志を継いでくれるはず……!


 この男に付け入る隙は……何か……ないの?

 

 そこで不意にガレルの言葉が頭をよぎる。


 はッ!お前も近接戦闘タイプか。こりゃ都合がいい


 こいつは私が近接でしか戦えないと思い込んでいる。なら、その思い込みを利用して、一瞬だけ隙を作ることは出来るかもしれない。


 私は気づかれないように、私の背中で隠れている地面に魔法陣を描く。その間にも彼の怒りに任せた攻撃は続く。


「俺が今、お前を罰してやるよ!オラオラ!!」


「く…」


 今度は何とか意識が飛ばないように歯を食いしばる。あと少し……、あと少しなの。


「罪を償え。王に謝罪しろ!この裏切り者がよッ!」


「い……」


 痛い……。


「なんだぁ!?言ってみろよ。口ついてんだろ」


「……」


 私はその魔法陣が完成した瞬間にすぐに目を閉じた。


「なんだ。もう寝ちまったのかぁ?」


 相手は私の思惑通り、私が気絶したと勘違いしている。


 そして私を起こすために、再び私にポーションをかけた瞬間に、私は体を少し横にずらし、地面に仕掛けた魔法を発動させた。

 その瞬間に辺りを青白い光が包み込んだ。


 その魔法は強い光を放つ魔法で、まともにこの光を直視すれば、目が慣れるまでに相当な時間がかかるはず……。


狙い通りガレルは目を抑え、悶えていた。


 「くっそ……、この女ァ!」


 私は緩んだ懐から両足を抜き出し、相手の胸板を強く蹴り上げた。それによりガレルは後ろに倒れる。


 時間がなくあまり強い魔法はかけられなかったけど、この程度でも生身で受ければこいつにも効くはず。さすがのガレルでも目を封じられれば、防御魔法での的確な対応できないようだった。


 私は今あるだけの魔力を魔道具に注ぎ込み、何とか自分の思い通りに体を動かしていた。軽い脳震盪で体がふらついても、その都度魔道具が修正してくれることによりなんとか真っ直ぐ進めた。


 エメもギルも私と同じように取り押さえられていたが、今の光源魔法で敵は二人とも視界を失っているようだった。


 私は手前のチョーカーをつけた女を体当たりで吹き飛ばし、奥にいるギルと対峙している敵を魔法で吹き飛ばした。


「ッ!?」


「ギル!!逃げるわよ!!」


 ギルは敵よりも僅かに早く目を閉じたのか、視界を失ってはいなかった。


 私はその場に伏していたエメを抱え、学園の方へと無我夢中で走る。


 今回は相手とこちらの状況が悪かった。ここは一度引いて立て直さないと……。


「ぅぅ……」


 エメからは今まで聞いたことのないような低いうめき声が聞こえる。エメには意識がなく、まるで悪夢にうなされているように、私の中で小さくもがいている。ギルは言葉を発さないないが、意識はあるようで、その表情から極度の疲労が見て取れた。


 そしてこうして走っている間にも、魔力を消費し、私の魔力欠乏症が進行しているのがわかる。このまま戦っても勝てないという事実が私を苦しめていた。


 まさかこんなことになるなんて....。今は後悔なんてしてる場合じゃないと分かっていても、その気持ちは拭えなかった。


 とりあえず学園を抜け、街に出てから傷が癒えるまではそこでしばらく潜伏しておいた方がいいはず。それから........。


「!?」


 思考を巡らすのに気を取られていた私は、地面に隠されていた魔法陣に気づけなかった。その魔法陣は強力な冷気ようなものが出ており、そのせいで地面と私の足部分の魔道具とが凍りつき、いくら力を入れても外れなかった。


「やりました!一人捕らえましたよ!」


背後からフローラと呼ばれていた女の声が聞こえた。


「くッ!フンッッ....。....なんで外れないのよ!!」


 魔力がほとんど底を尽きているせいで、もうこれ以上出力を上げられない。


「ふふ、お手柄ですね。もう逃がしませんよ?」


 そしてこの最悪の状況に追い打ちをかけるように、周りにドーム状の結界が張られていく。


「待ってろ。今私が魔法でその地面を破壊して....ぅ」


 そういうギルの目と鼻から血が伝って地面に落ちるのが目に入る。それを見てギルも私と同じレベルの魔力欠乏状態にあると気づいた。


 ギルもおそらく今の戦いで、その魔力のほとんどを使いた果たしたのだろう。


 こうしている間にも結界は広がり続けている。結界が完成すれば、ここからの脱出は不可能になり、全員まとめて処刑される.....。そこで革命はまたもや失敗に終わるのだ。


 ....でも一人でも生き残れば、革命は続けられる。なら今の私に出来ることは一つしかない。


私は抱えていたエメをギルに渡す。ギルはポカンとした表情で私を見ていた。


 「どういう、つもりだ.....?」


 「行って」


 「何をバカなことを言って....」


 「早く行って、結界が完全に展開させる前に.....、早く!!」


私はいつまでも動かないでいるギルの背中を無理やり押し出す。


 ギルはそのままエメと共に前のめりに倒れた。そして私とギルの間に結界の隔たりが出来き、さらに結界が地面に触れた瞬間に、周りの土が三メートルほど盛り上がり、土の壁ができた。もう向こう側は見えない。しかしまだギルの声が聞こえる。


 「私は認めないぞ!!ここで私が助かったところで……、いったい何になるというのだ…!」


 壁を打つ鈍い音が響く。もう魔法を使えないギルは壁を殴ることしかできないのだろう。


 「あんたたちが生きていれば、何度でも革命軍は復活できる。私がいなくても、私の遺志はエメやあんたが引き継でくれるから……。だから……」


 「それは違う!お前がいない革命軍など……」


 そこで背後から近づいてくる気配を感じ、もう一刻の猶予もないことを悟る。


 「こんな時にお喋りなんて、なめられたものですねぇ」


 「走って!!!もう時間がないの!」


 「く…………っ!くそくそくそくそくそくそくそくそ、糞がぁぁぁぁぁッ!」


 ギルの走り去る音で体の力が抜ける。これで全滅は免れたのだ……。


 私はその場に、膝をつき前を見るのをやめた。これから待っているであろう底なしの絶望から目を逸らすために……。

 

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