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生徒とメイドと修羅場と。

「なんの御用ですか?」


レーネは明らかに警戒している。


「アルフ先生に用事があって。二人きりで話がしたいのですが、いいですか?」


ニーナは表情を崩さず答える。


「二人.........きりで?」


レーネの包丁を持つ手に自然と力が入る。


「お、おい。レーネ、1回落ち着こ!な!」


このまま放っておいたら、ろくなことがない気がする。



「アルフ先生、先生は多分、昼間はお仕事あるでしょうし、夜に伺ってもよろしいですか?」


ニーナがレーネの影から顔を出しながら言った。



「夜.........? 夜の.......個人授業?」


「変な連想の仕方をするなァァ!!」


やばい。とにかく、この二人を早く引き離さないと。


「とにかく、アルフ先生少し外出に付き合ってくれませんか〜?」


「こんな時間に!?」


時計はもう10時を回っていた。


レーネとすったもんだしてたらこんな時間になってしまったのだ。


「付き合ってくれませんと、性別のこと、バラしますよ?」


くそ。最悪だ。弱みがある以上迂闊なことができない。


ここは素直に言うことを聞くしかない。


「わ、わかった。」


ニーナはニコッと笑う。


「まあ、嬉しい。」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


レーネは外に出ようとするニーナの腕を掴む。


「なんですか?」


「人様の主人に手を出せるとでも。」


レーネの目は食事を目の前で取り上げられた獣のようだった。


「ここの寮、ペット禁制ですよ?」


「ッ!?」


フフ、と笑いながら揺すりをかける。


恐らく、またサイコメトリーを使っのだろう。


でなければ、レーネが雌猫とは見抜けない。


何せあいつの魔法の発動条件は対象者に触れることだ。


故にさっきの一瞬があれば、十分。


「レーネ、悪いがここは譲ってくれ。」


俺は目で訴えかける。


「..........わか....まし...た。」


レーネの声は徐々に消えていき、語尾が聞こえなくなった。





「それで話って?」


俺たちは夜の街に出ていた。


普段学校にしかいない分、こういう夜の風景を見るのはなんか新鮮だった。


昼間とは違う相貌を見せる街並み。


ベクトルの違う活気が溢れているようだった。


「まあまあ、そんな焦らなくてもいいじゃないですか。」


「そうは言っても、時間がな.......。」


それにあまり長い間、外にいたらレーネの機嫌を損ねる。


「ここで話、しましょうか。」


ニーナは俺の言うことを完全に無視し、バーのような場所を指差す。


「お前、酒飲めないだろ。」


「ジュースなら飲めますよ。」


まあ、とりあえず中に入るか。


営業中と札のかかった扉を開ける。


中はこじんまりとしていて客もあまりいなかった。


俺たちは人目を避けるために一番奥のカウンター席に座る。


「そんで話ってのは?」


二回目の問だ。


「それは.....ですね。先生に教えてもらいたい魔法があるんですよ。いいですか?」


「まあ、そういう指示だがらな。んで、どんな魔法だ?」


「脳内構築魔法ってわかりますよね?」


「ッ!?」


「どうしてそれを?みたいな顔してますね〜。」


あの魔法については魔法界の常識理念を覆しかねない魔法、という判断が下され、発表された直後に伏せられていたはず。


なのに、なぜこの子がそれを.........?


「母親が学園長やってると色んなものを耳にする機会があるんですよ。特にその手のことは」


それはつまり学園長自体が向こうの世界の学会員と何らかの繋がりがあることを示している。


「それで教えていただけますよね?」


「残念だが......それはできない。」


俺は即答する。


あれは安易に人に教えられるものではない。


イヨは元から出来ていたからいいとしても、これ以上広めるわけにはいかないのだ。


「どうしてですかー!」


「・・・・・。」


「黙秘、ですか?」


ニーナは顔は曇る。


これで潔く、諦めてくれればいいが.......。


「なら、イヨさん?でしたっけ。彼女のこと、上に報告しますよ?」


「それは脅しか?」


「ええ。」


「具体的には?どう報告するんだ?」


ハッタリで動くわけにはいかない。ここは慎重に行こう。


「非正規方法による魔法構築の禁止に抵触している、と。」


「そんなルールでもあるのか?」


「ありますよ?これを。」


そう言ってニーナは制服の内ポケットからおもむろに生徒手帳を取り出し、試験の禁則事項のページをこちらに見せる。


そこには確かにそのようなことが書かれていた。


「・・・。」


「それでどうします?」


どう、する.......?


もし、こいつが本当に上に報告をし、それが認められた場合、せっかくイヨが試験をパスできたのにそれがなかったことにされる可能性が高い。


もしそうなれば、何の罪もないイヨが巻き込まれることになる....。


「何のためにそれを知る?」


「私、魔法模擬戦闘研究会という部活に所属してまして、近々軍の統括する大会に出場するのです。」


「そこで使いたい、と?」


「はい。」


「それはさっきの禁則事項に引っかからないか?」


「いえ。この大会にそのようなルールはありませんので。さっきのはあくまで学校の取り仕切る試験に関してのみのルールです。」


つまり、規則上問題はないのか。


「お前が絶対にそれを使ってることがバレないという自信があるのなら教えてやる。どうだ?」


「はい。自身ならあります。」


「その自身の根拠は?」


「あれって魔法の痕跡が普通とは違う残り方をするから、おかしいってなるんですよね?」


「まあ、そうだな」


「なら、そこに適当に正規の魔法の痕跡を散りばめて置けば、いいんじゃないですか?まあ最もそんな大胆な使い方しませんけど」


それならば......まあ。


「............はぁ。」


自然とため息が出る。


生徒に揺すられた挙句、脅される教師とかダサすぎるだろ。


ここで俺も自分の話を切り出す。


「その代わり、俺とレーネに関することは今後一切口外しないこととこれが終わったら、俺たちに関わらないこと、これが教える条件だ。」


「分かりました。これからよろしくお願いしますね。アルフ先生?」


ニーナはニコッと笑う。


「はぁ。」


俺は二回目のため息を漏らす。


「ため息なんてひどいですよー。先生。」


「ため息もつきたくなるだろ。こんな状況。というか、明日は何時にどこに行けばいいんだ?言っとくがイヨのこともあるからそんなに早くは行けないぞ。」


「分かってますって。さっきも言った通り、夜で構いませんよ。そうですね.........午後十時にあの宿屋で待ち合わせはどうでしょう?」


ニーナは窓の外を指さす。


俺はその方向に目をやる。


ピンク色の看板。ピンク色の照明。


すべての色がピンクで統一された宿屋。


「絶対にいやだ。」


「えー。なんでですか。すごくいい雰囲気なのに。」


「どこがだよ!!!いかがわしすぎるだろ!!それに誰かに見られたらどうすんだよ!」


するとあからさまにオーバーなリアクションを両手でとった。


「こんなところに生徒なんて来ませんよ。それに個室の方が誰にも見られずに魔法が教えられていいことずくめじゃないですか。」


「おい、まさか中に入るのが前提なのか!?」


「はい。そうですよ?何か問題でも?」


「問題しかねぇぇぇぇよ!!!!!」


確かに誰にも見られないという点ではすごく優秀な場所だが、もしレーネにでも見られたら外装がピンクじゃなくて赤に変わってしまいそうだ。俺の返り血で。


第一、レーネじゃなくても生徒と教師が例え同性であってもこういう場所に入ったら、邪推されるに決まっている。


それどころか淫行で捕まるぞ、俺。


「とにかく、明日あそこの前集合で。それではまた。」


「おい!まだ誰もそこでやるとは......。」


俺が言い切る前に俺の分まで代金を払い、出ていってしまった。





その日家に帰ると


『しばらくの間、実家に帰らせていただきます。』


という置手紙だけがあった。



いや、ここがお前の実家だぞ!?



♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




次の朝、俺は盛大に寝坊した。


理由はいつも起こしてくれるレーネがいないからだ。


あいつ、今どこにいるんだか.......。


俺は作り置きしてあったスープを腹に流し込み、慌ただしく家を出た。


全速力で階段を上り、いつもの教室に入る。


「遅いですよ。教師が寝坊してどうするんですか?」


ギルが迷惑そうな顔で仁王立ちにしている。


「す、すいません。」


俺はぜえぜえ言いながら、謝る。


今までのツケが回ってきているようだった。


そしてこのクラスに入って来て、驚いたことがあった。


「イヨ!?」


「お、おはようございます。アルフ先生!」


「お前、学校来れるようになったのか!?」


「は、はい。おかげさまで.....。」


「まさか学校でお前の顔が見れる日がくるとは.....。」


「ハ!? ゥ.............。」


感動してきた......。


俺が涙こらえ、イヨの顔を見るとなぜか真っ赤になっていた。


「ん?」


周りを見ると視線が痛いほど俺たちに集まっていることに気づく。


そういえば、イヨは注目されるのは苦手だったな........。


悪いことをしてしまった。


俺は話を元に戻す、


「それであの........授業は?」


「それはいつも通り私がやるつもりですが....ひとつ報告があって....。」


「報告?」


「その.....異例ではありますが、転級生がいるんですよ......。」


「転級!?転校じゃなくて!?」


「ええ。」


「それで誰なんですか?その生徒は。」


「彼女ですよ。」


ギルは教室一番奥の一番端を見るよう指を指す。


窓からは光が差し込み、長い銀色の髪を煌々とさせ、整った顔立ちをより一層を際立たせる。


彼女はこちらの視線に気づきニコッと笑う。


その子供じみた笑顔。


それは紛れもなく、ニーナのものだった。

読んでいただきありがとうございました!


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