一人前の魔法使い
俺はその足でゼロが受けているであろう授業へと足を運んだ。ニーナも引っ張っていくつもりだったが、あまりにも嫌がったので仕方なく一人で行くことにしたのだった。
ニーナはそのまま保健室へと姿を消した。それで今日一日はサボるつもりなのだろう。
しばらくすると演習場が見えてきた。近づくにつれて相も変わらず魔法の爆発音が鳴り響いてきた。
対魔法用のネットをくぐり抜け、中に入ると生徒が皆自身の魔道具を使って対人用の魔法を放っていた。その中にゼロもいた。
ゼロは巨大な火の玉を魔法で創り出し、それをそのまま相手に放った。しかしまだまだ魔法を覚えたてのゼロは、動作がぎこちなく、動きを予想しやすかった。そのため相手は防御魔法を先に行い、ゼロの魔法を受け止める準備を済ませていた。
恐らくこのまま魔法を当ててもあまり意味がないだろう。ゼロの手から勢いよく放たれた魔法は、本来であれば相手の魔法と衝突し、相殺するはずだった。しかしゼロの魔法は相手の魔法に触れる直前で何故か自壊した。恐らくゼロが魔法にそう命令したからだろう。
相手は一瞬戸惑ったがすぐに切り替え、ゼロに向けて魔法で創り出した石のつぶてを放った。ゼロの方はまだ防御の準備が出来ていなく、このままではまともに攻撃を受けてしまうことが目に見えていた。
途端にゼロの顔は恐怖に歪んだ。そして後方に仰け反るようにして倒れてしまった。石のつぶてはゼロの眼前で砕け、ゼロは無傷で済んだようだったが、敗北であることは明白だった。
その場にはいたフローラは、試合が終わったと判断したらしく次の試合を始めるように促した。
「今の魔法、大変素晴らしかったですがもう少し威力が必要でしたね〜。はい、次のペアの方々こちらへどうぞ」
ゼロが次の者と入れ替わったのを見計らって、ゼロの元へと行く。
ゼロは相当疲れているようで、かなりげんなりしていた。俺が近寄るとゼロはすぐにこちらに気がついた。
「アルフ....」
「お疲れ様。だいぶ上達してきたな」
「......!、でも......」
一瞬だけ嬉しそうな顔をしたものの、すぐにゼロは表情を切り替えた。
「.......どうして魔法を当てるのを躊躇ったんだ?」
ゼロが魔法を相手の直前で無理やり止めたのは明らかだった。
「......あたったら、怪我させちゃうかも、しれないから...」
やはり相手のことを心配してのことか....。
「その気持ちはわからなくもないが、それやると正当な評価を受けられないし、何より相手に失礼だぞ?」
「でも.....っ!」
「それにこの学園の制服は他者からの攻撃魔法の効力を弱める作用があるから、別に当たったとしてもそんなに心配する事はないよ」
「そう、なの.......?」
「ああ。それよりもいざって時に相手のことを心配して、魔法で攻撃できなくなることの方が怖い」
ゼロは元々呪詛学会にいた身であり、いつ奴らが取り返しに来るかも分からない。そしてその場に常に俺がいる保証もない。だから出来るだけ自分を守れるだけの力をここでつけて欲しいのだった。
ゼロは少し考えたが、やがて目に光が灯る。どうやら納得したようだ。
「うん........。わかった、頑張ってみる....!」
「おう、頑張れ」
俺が頭を撫でるとゼロは俯きながらも、その顔にはほんの少しの笑顔が見えた。
このまま生活にも魔法にも慣れてくればいいのだが......。ゼロにはまだ魔法への恐怖心が残っているらしい。過去のことを考えればそう簡単に消えるものでもないことはわかっている。しかしいつまでも何かを怖がっていては、いつかは先に進めなくなってしまう。昔の俺のように。
ゼロは次の授業では、俺が教えて通りしっかりと防御魔法と攻撃魔法を使いこなせるようになっていた。このまま恐怖心を少しずつ無くしていければ、一人前の魔法使いになれる日も近いかもしれない。
その日の夜、俺とレーネとゼロ、そしてニーナで夕食を囲んでいた。ニーナが来ているのはあの隠し部屋についての話をするためだ。
「あのですねぇ。この件は凄くデリケートな問題でして〜。ゼロさんはともかくとして、部外者の方を話の輪に入れる訳には〜」
レーネを横目で見ながら、ニーナはそう毒づく。
「へぇー、そうですか。じゃあ我が家の部外者であるニーナさんには出ていってもらいましょうかね?」
そう言ってレーネはテーブルにあった塩をニーナに撒き始める。
「ちょっと!?なんでそうなるんですか。部外者はあなたですよ!私がせっかく遠回しに言ってあげたのに。.....っていうか塩をかけるのやめてくださいッ!」
「まあまあ。レーネは信用出来るんだから別にここにいたっていいだろ?」
俺が二人をなだめようと言葉を差し込んでも、一向に収まる気配がない。ゼロが魔法を覚えていくのに反して、ニーナとレーネは全く打ち解けていかない。むしろ関係は悪くなる一方である。
どうしたものかと考えていた時、不意に玄関からノックの音が聞こえる。この部屋にはインターホン代わりの魔道具をが置いてあるが、それを使わない客はかなり珍しい。
俺は玄関に駆け寄り、覗き穴から外の様子を見た。すると見覚えのある赤い瞳がこちらを覗き返していた。




