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そして賢者はすべてを悟る

俺が魔法を学び始めて10年が経つ。


長かったような短かったような。


まだ青かった頃を思い出しながら、俺は酒を体に流し込む。


「今日もまた一段と飲みますね、賢者さんは。なんかあったんですかい?」


酒場のオヤジがいつもの調子で聞いてくる。


「いや、ちょっと研究で行き詰まった。」


俺は初めこそは真っ当な魔法士になろうと考えていたが、今じゃ賢者と呼ばれる錬金系の魔法使いになってしまった。


しかし、もうすぐ30だし色々考えないとなぁ〜。


最近そのことが余計、俺を焦らせる。


「まあ、飲みたいだけ飲んでってくださいよ。もちろんお勘定はその分払って貰いますがね。」


「抜かりないな。いつもの薬でいい?」


「はい、お願いしますわ。」


このオヤジは肝臓が悪いため、薬がいるのだ。


そんな時に錬金術はとても役立つ。


「ただ、今日は飲むっていても人を待ってるんでそんな飲まないですけどね。」


「待ち合わせとは珍しいですね。一体誰なんです?」


「ちょっとした取引関係の人でね。」


「取引ってのは?」


「もうすぐ来るはずなんだがな。」


するとドアの鈴が鳴る。


「噂をすれば....だな。」


ドアの方に目をやると若いローブを着た男が立っていた。


「どうも、あなたが賢者様ですか?」


「はい、あなたは前言ってた先生、だよな?」


「ええ。」


「場所変えますか?」


「いえ、客もいませんしここで問題ないでしょう。」


「わかった。」


そう言って男は俺が座っているカウンター席の横に座ってきた。



男は酒を頼み、話し始めた。


「それで今回の取引についてなんですが....。」


「別の世界で魔法教諭をやるって話だよな?」


「はい。是非ともお願いできればと。」


「けど俺前科持ちなんだけど大丈夫なの?」


「その点はご心配なく。向こうの世界にあなたを知るものは誰もいませんから。」


「りょーかい。んでなんでわざわざ別の世界から魔法教諭を雇うわけ?」


「前もお話した通りこちらの世界はまだ構築されたばかりで人員不足が顕著でして、あなたのような知識と力を持った方がいないのです。」


知識と力....ね。



確かに伊達に長く魔法を研究してきたわけじゃないし戦闘も負ける気はしないが、生徒を相手に、となると.....な。


「あの....生徒が俺について来る気がしないんだが。」


「そうしたら1ヶ月で契約を終了させていただくのでご安心を。」


全然安心出来んな。見切りの付け方がえぐい。


「はぁ.....。まあやってみるか。それと契約金のことでだけど。」


「それについても働いていただく期間に合わせてお支払いしますよ。」


「そうか。」


この取引を受けた理由はこの契約金にあった。


なんでも魔法教師を少しやるだけで莫大な量の研究費用を負担してくれるらしい。


なんか詐欺臭いが。


「とりあえず、1度師匠に相談してみるんで決まったら音声投下魔法で伝えればいいよね?」


「ええ。それで結構です。」




俺はその男と別れてから店を出た。


とりあえず、師匠のとこ行かないとなぁ。憂鬱。


しかしこれから別の世界に行くかもしれないわけか。


この街も結構好きだったんだがな。特に街並みと雰囲気が。


焼き煉瓦で作られた家々は灯りが灯っていたり、真っ暗だったりする。それがイルミネーションに見えてくるから不思議である。


俺は石畳を踏みしめながら、しみじみとそんなことを感じた。


もうすぐ師匠の家に着く。


さてなんて説明しようか。絶対突っかかってくるからな、あの人。


前にも二人暮らしがしたいと言っただけで大騒ぎだったしな。


今回に至っては別世界への移住だからな。暴れないといいが......。



鬱屈とした考えを振り払うように俺はチャイムを鳴らす。


すると中から入っていいと合図があったので俺は扉を開けた。


相変わらず、気持ちが悪いほど綺麗だなこの屋敷。


師匠の部屋は正面階段を上って右側だ。


俺は一歩一歩ゆっくりと上る。


そしてついに部屋の前まできた。


俺はノックをする。


「どうぞー。」


「失礼します。」


扉を開けると本を片手に持った師匠が椅子に腰掛けていた。


「今日はどういった御用で?」


師匠は生命の花のせいで歳を取らなくなったらしい。だから見た目は10歳くらいの女の子にしか見えないのに実年齢は160歳くらいだそうだ。(精神年齢はかなり低い。)


だから俺はこの人と滅多に出かけないのだ。理由は誘拐犯か良からぬことを企む輩にしか見えないからだ。


過去に2度、それが原因で王国兵士に絡まれたことがある。


「今日はお話が会ってきました。」


「聞こうぞ!」


師匠は胸を張った。なんか今日テンション高いな。


「実は別世界で魔法教師をしたいな、と思いまして.....今度からそちらの方に移住するのですが、許可願えますか?」


「うむ、許可しよう。」


「え?」


「なんだね?」


「なんか軽くないですか?前なんてあんなにのたうち回って俺を引き止めてきたのに。」


「その表現はどうかと思うが、あの時はまだ若かった君が女の子と住むなんて言ったからじゃないか。」


「それだと何がまずいんです?」


「子供が出来たらどうするつもりなんだ!!」


は?


「いや、そんなことするようなやつに俺が見えますか?」


「見える。」


「即答かよ!!」


「だって君は太ももとクルム伊達公男しか言わなかった時期があったじゃないか。」


「ありませんよ!!!そんな時期。」


「あれ?記憶違いかな?まあ、とにかく許可はしよう。」


「まあ.....ありがとうございます。」


なんだあっさりOKしてくれんのかよ。無駄に身構えちまったな。


この辺を破壊してまわることぐらいは覚悟してたんだが。


「ただし、私の使い人形を連れてって随時連絡すること!これが条件だ。」


「それくらいなら大丈夫ですけど。」


「ならよろしい。それでいつからなんだね?」


「明日からです。」


「随分と急だね、それは。」


「行くなら早い方がいいので。」


ハッキリいって向こうのことが何一つわからないのが怖いのだ。だから行くなら早く行って慣れておきたい。


「それもそうだね。それで君は教師なんてできるのか?喧嘩とかしない?」


「それは大丈夫だと.......思いますけど自信ないですね。」


「まあ、君ならうまくやれると思うよ。」


「はい!とりあえず俺は家に帰って、レーネにこのこと伝えてきます。」


「そうか。ならこれを持っていきなよ。」


そう言って藁人形を取り出し、手渡してきた。


「これは.....なんの嫌がらせですか?」


「違うよ。さっき言ってた使い人形さ。」


もうちょっといいのなかったんだろうか。これじゃなんか禍々しくなってしまう。


「それと呪いのことは隠していくのかい?」


「当面はそうですね。」


バレたら面倒だしな。



俺は人形を受け取り、屋敷を出て家を目指した。



道中、人が群がっているのが見えた。


俺はつま先立ちをして群れの中心を見てみると魔女狩りの手配書だった。


なるほどね。懸賞金がかけられてるわけね。それであれだけ人が集まってるわけか。


基本的に今の社会じゃ魔女や魔法使いはあまり認められていない。おそらく国が国家転覆を図るのではないかと魔法士を必要以上に恐れているからだろう。


しかしは魔法使いとしては肩身が狭い世の中である。だから別世界へ行くのにあまり抵抗がなかったのだけど....。


俺は人混みを抜け、ようやく自宅まで辿り着いた。


俺が玄関の扉を開けるとメイド服姿のレーネがいつものように出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、ご主人様。」


レーネは元々は知性のある雌猫だったが、俺が魔法で人間の姿に変えてやったのだ。


もちろん、彼女はその事を知っている。その上で一緒に暮らしている。


「レーネ、少し話がある。」


「ハイ、なんでしょうか?」


俺が靴を脱いで、上がるとレーネはピタリと体をこちらに付ける。


「その前に、体をくっつけすぎだ。これじゃ歩きづらい。」


「これは猫の習性なので仕方がないのです。」


「それも.......そうなのか?」


まあそれならしょうがないか。


それにしてもすました顔でくっつかれれると恥ずかしがってるこっちがおかしいのかと思っていまう。


俺たちはそのままリビングに向かった。


中は暖かく、明かりがついており椅子とテーブルだけがポツンとある。


俺とレーネはそこに腰掛けた。


「それでお話というのは?」


「ああ、その事なんだが長くて一年くらい異世界で教師をやってこようと思うんだ。」


レーネは何も言わない。


ただ喉をゴロゴロと鳴らすだけだった。


「......もしかして怒ってるのか?」


「いえ、ただここから生きて出れると思わないでください。」


「いや絶対怒ってんだろ!!とりあえず、明日から行ってくるから。家のこと頼んだぞ。」


「........お茶を淹れてきます。」


そう言ってキッチンにレーネは向かう。


とにかく、今日はなんとしてもこれで突き通すしかあるまい。生活費のこともあるしな。


レーネがキッチンでお茶を淹れる音だけが家に響く。


よく耳をすますと何やらお茶を入れるのとは違う音が聞こえてくる。なんだこの音。砂が紙を這って落ちていくような........まさか薬か!?


「お待たせしました。どうぞ。」


そう言ってレーネは湯呑みをこちらに差し出す。


よく見ると片方の手にはなにやら赤いラベルの包み紙が見える。ちなみに赤いラベルは劇薬を意味する。


「何を入れたんだ?」


レーネは表情を崩さない。


「ビタミン剤を少々。」


「お茶にか?」


「はい。」


「なら、お前が手に隠している超強力睡眠薬はなんだ?」


「ビタミン剤です。」


「劇薬ってラベルが貼ってあるが?」


「ビタミン剤です。」


「絶対嘘だろうが!!俺がこの前錬金した薬だろ、それ!!明日寝過ごさせようたってそうはいかないぞ!」


するとレーネはぷるぷると震え出す。


「どうしても行ってしまわれるのですか?私をおいて。」


「すぐ帰ってくるよ。最短で1ヶ月だし。」


「たまに....遊びに行ってもいいですか?」


「そりゃもちろん。」


「本当、ですね?」


「ああ。」


「わかりました。お荷物、準備致します。」


何とか説得出来たようだ。


俺はそのまま、あの男に連絡して明日行くことを告げた。





次の朝、ベッドの横に目をやるとトランクと置手紙があった。


そこにはお気をつけて、と小さく書いてあった。


俺はそのトランクを持って男に指定された場所までいった。


そこは一見教会のようだが、階段を下りると見たこともないような魔法道具が無数においてある地下室が広がっていた。


階段を下りきると白衣を着た見知らぬ男が立っていた。


「お待ちしておりました、アルフ=ルーレン様。」


「ああ、どうも。それでどうやって向こうに行くんだ?」


「この魔法道具を使います。」


「へぇ〜。」


見ると手錠にも見える腕輪が台座に置かれていた。

その手錠には空間移動系統の魔法陣が描かれている。


果たしてこんなもので向こうに行けるんだろうか。


「それと向こうに行く際にこれを埋め込ませていただくます。」


そう言って男は棘のように加工された金属を取り出した。


「なんのために?」


俺は思わず聞いてしまった。


「向こうではステータスが大事になってきます。ですのでこれを埋め込むわけです。」


「それを埋め込むと何かあるのか?」


「はい、自分のステータスが目に見えるようになります。それに加えて、こちらの職員と連絡を取り合う事もできます。ですので御手数ですが、こちらに背を向けて首を見えるように出して頂けますか?」


「はあ。」


俺は言われるがまま、首を出し、背を向ける。


少し怖いな。


やがてチクリとした痛みが伝わる。


「これで大丈夫です。ご自身のステータスを見てみてください。やり方は頭で見たいと思うだけです。」


「おーけ。」


俺は言われた通りにした。すると目の前に自分の名前とレベル、それから職業に魔力値、かけられてる魔法、呪いがすべて見えた。


レベルは290と書かれている。でもよく分からんな。


その他ステータスも平均がないとわからない。


「あの大体、平均として何レベくらいなんだ?」


「そう...ですね、農民の方が普通に生活して大体、レベル5くらいでしょうか。」


ならば俺はかなりすごい方ということだろう。


なんか鼻が高いな。


「とりあえず、もう今から向こうに飛ばしちゃいますんでしばしお待ちを。」


男は魔法陣を台座に書き込んでいく。


「では。」


その瞬間、体が宙に浮くような感覚に襲われる。


意識は薄れ、次第に自分がどんなものを見ているか知覚できなくなった。




頭が冴えてきた。俺はようやく周りを認識できるようになった。


「ここは.......部屋の中なのか?」


見ると俺が持ってきていたトランクが転がっている以外にテーブルと椅子、ベッドしかない小さな空間が目の前にはあった。


とりあえず無事に着いたらしい。


それにしても感覚が戻ってきて思ったが、なぜか肩がやたら重い。疲れてんのかな。


床の質感がいつもと違うな。


俺は何気なく下を見た。


「なんか胸に、不自然な膨らみが....。」


いつもは下まで障害物なく見れるはずが、謎の出っ張りが二つあった。


俺は思わず胸板を触ろうとした。しかしそこには胸板などではなく、柔らかい感触だけがあった。


そしてすべてを悟った。


「おっぱいが........あるだと!?!?」





読んでいただきありがとうございました!

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