6話 小悪魔は本物の悪魔へと変身する
「あー今日もつっかれたなー」
平日の夕方、定時にて退社。
これが俺の平日だ。
『ブー!ブー!』
携帯のバイブが鳴る。
『先生!出勤前に見せたいものがあるから早めに帰ってきて!
アタシ19時には家出るよ!早く!!!』
見てみると、ゆのからメッセージが。
相変わらず自由人か!!!
まぁ今日は定時上がりだし良かったけど。
急いで会社を出て、電車に乗る。
まぁ今から帰れば18時着かな。
見せたいものってなんだろ…。
電車を降り、最寄駅に着く。
徒歩15分ほどで家に着いた。
「ただいま」
「あっ!!!先生!!!!おかえりなさい!!!」
「おー。
そういえば見せたいものってなに……え!!!???」
靴を脱ぎ、部屋に入った俺は、出迎えに来たゆのの姿を見て言葉を失った。
「お前なんだ!!!その格好は!!!」
「ははっ!先生ビックリしたぁー???」
部屋の中にはレオタード姿にウサミミのゆのの姿が。
なんて露出の高い格好なんだ…。
こ、ここはイメクラなのか…???
というか胸!!!
胸露出しすぎだから!!!
お尻とかも際どすぎだし!!!
色々とおかしいだろうが!!!
「今日、店でバニーガールのコスプレイベントやんのー!!!
先生に一番に見せたくて、着て待ってたん!!!」
「いやいや、露出高すぎだし…」
「ははっ!なに今更こんな格好で焦ってんのー!!!
先生、アタシの裸見たことあるだろー!?」
ま、まぁたしかにこいつの風呂上がりの時に…。
いやいやいやいや!そういう問題じゃない!!!
こんなの相手が俺じゃなかったら襲われてるぞ!!!
こいつは俺のことを完全にオモチャにしてるだろ!!!
絶対そうだ!!!
「とりあえず普通の服に着替えてくれよ、目に毒だわ」
「はぁー!?反応つまんねー」
ゆのが頬を膨らませながら服を脱ぐ。
「こらこら!!!
ここで脱ぐなよ!!!」
「はぁー!?もう、先生ワガママだなー」
ゆのが俺の忠告を無視してその場で私服に着替える。
全く…ここまで自由人とは。
「先生!バニーコスプレのアタシ、どう!?
可愛かった!?」
正直な感想、めちゃくちゃ可愛かったです…。
いやいや!!!そういう問題じゃないぞ!!!
「お前な、あれはコスプレじゃないぞ、うむ、断じてな」
「はぁー!?なに言ってんの!?コスプレじゃん!!!」
「いや違う。俺はコミマなんかでも数々のコスプレイヤーさんを見てきたが、お前とは段違いのクオリティだったからな」
「なにそれー」
「まずなんだその髪の毛は、
地毛の時点でコスプレと認められないな!!!
それから、コスプレする時はキャラクターの目の色やメイクまで似せるものだ」
「は、はぁ…」
「きちんとウィッグを被ってコスプレと言い張ってほしいものだ!!!
メイクなんていつものお前じゃねぇか!!!」
「これ、キャラクターとか関係ねーし」
うっ、これだからリア充は…
バニーとかJKとかメイドとかでコスプレコスプレってすぐ言い出すのはリア充の悪い癖だ。
「いいか、お前のはコスプレじゃないぞ!イメクラだ!!!絶対そうだ!!!」
「はぁー!?コスプレだし!!!」
「しかし素質があるのは認めてやろう。これはコミマでのコスプレ売り子もワンチャンあるな…」
絵師は頒布イベントなんかでは、スペースを華やかにして人を寄せ付ける為に売り子を雇うことがしばしばある。
ゆのぐらいのルックスの子がキャラクターのコスプレをしてスペースに立っていれば、それだけで注目されるというわけだ。
「先生、売り子ってなに?」
「うーん、簡単に言うと、キャラクターのコスプレをしたコンパニオン…?かな」
「ふーん」
「まぁ、お前はまずコスプレをする前に作品愛がないとダメだがな」
「作品愛ってなにー?」
「コスプレイヤーはみんな、好きなアニメ作品やゲーム作品のキャラクターのコスプレをするんだよ。
アニメを見ずにゲームをプレイせずにコスプレすると、にわかだと叩かれるんだ」
お、我ながら良いことを言った気がするぞ!!!
「へぇー…あ!もうこんな時間!!!やばっ!遅刻する!!!
じゃー行ってくるね先生!!!」
おいおい、絶対頭に入ってないだろ…。
まぁゆのに売り子は端からそんなに期待はしてないけどさー…。
思えば、次のコミマの申し込みしたし、準備進めないとな。
それまでにゆのが売り子する気になってくれたら、まぁラッキーかなぁ…。
色々と同人誌を作業を描き進め、その日は寝てしまった。
ーーーーーー翌日ーーーーーー
目が覚めたら朝の11時だった。
「おわっ!!!会社寝坊した!!!って…今日土曜か…」
ゆのはまだ帰ってきてなかった。
また朝帰りかー。
でももう昼近くだし、遊んで帰ってるんだろうな、おそらく。
男だな、男だ!
絶対そうだ!!!
どこの男とほっつき歩いてんだよあいつは。
「全く、朝帰りなんてチャラチャラした奴だなー」
『ガチャ』
鍵をあける音がした。
「先生ただいまーあ!」
ゆのが帰ってきた。
「あーおかえり」
「先生!!!お腹すいた!!!」
相変わらずの自由人だな…。
でも飯食ってないってことは遊んでたんじゃないのか???
「今から飯作るところ」
「あっ!!!!!!先生、ちょっと待って!!!
ご飯の前に見せたいものがあって!!!!!
」
ん???また???
「なんだよ、今度はJKのコスプレ(とお前が思ってるもの)か?」
「ちがうって!!!ちょっとあっち向いてて!!!」
え、なに。
というか、今気づいたけどゆの今日化粧ちがう???
店の営業終わってからどこかで化粧直してきたのか?
どことなーくキツイアイメイクだし、チークとかしてないからいつもの可愛い雰囲気の顔立ちじゃなくなってるような。
「先生!!!もういいよ!!!こっち見て!!!」
振り向いたらなんとそこには
「な、なんだこりゃ…!!?」
俺の大好きな『爆乳天使レディースファイブ』というアニメに出てくる、『美脚悪魔セリナ様』という悪役キャラクターのコスプレ姿のゆのがそこには立っていた。
なんてこった…。
メイクもキャラに似せてつり目、カッコいい路線、胸なんて普段のゆのの倍にセクシーに盛られている!!!
ウィッグの色の再現も完璧だ。
極めつけはセリナ様の特徴の脚!!!
ゆののスタイルにピッタリハマっている!!!
なんてこった…
似合いすぎてぐぅの声も出ねぇ…
「セ、セリナ様…」
「先生!!!!
アタシ、先生の好きなセリナ様になれてる!??」
ドヤ!とゆのは得意げに胸を張る。
その途端に盛った胸がボイン!と揺れる。
こ、これは世の中のキモヲタが発狂するぞ…。
「う、うん…、正直似合いすぎてビックリしてる…その衣装一式買ったのか…?」
「ははっ!昨日ね、指名の客が潰れちゃってさー、その人の席に居る間ずっと、『爆乳天使レディースファイブ』見てたんだよー!
衣装はね!池袋のコスプレ専門店に一式売ってたんだー!!!」
「仕事中にそれはアリなのか…」
「潰れてるから平気だよー!!!
ところでアタシ、可愛い!?
アタシも先生の売り子っての、できるレベル!?」
「可愛いっていうか…」
あ、やべぇ。
なんか恥ずかしくなってきた。
「なにー!?可愛くないとか言ったら怒るよ!!!」
ゆのが顔をグイッと近づけてくる。
やばい!!!本物のセリナ様が!!!
しかも胸!!!胸やばいです!!!
「いや…可愛いっつか、美人…
すげー綺麗、ヤバイっす…」
ゴニョゴニョと俺が言う。
「はぁー!?なんて言ったの!?」
「も、もういいだろ…
売り子の件は考えておいてやるよ」
「はぁー、先生は相変わらずそっけないなー!」
そう言いながらゆのはウィッグを外し、衣装を脱ぎ、服を着替え、メイクを落とし始めた。
「ちょっと俺、起きたばっかりだし顔洗ってから飯作るから…」
「え?あーうん!!!先生の今日のご飯楽しみ!!!」
俺は下を向き、部屋のドアを閉め一旦洗面所へ向かった。
鏡を見たら、俺の顔は真っ赤だった…
これが世の中で言うギャップ萌えというものなのか…
普段のゆのからは想像つかない色気を感じたぞ…
心なしか、俺の心臓が早くなっているような…
「先生!ごはんまだー?」
部屋のドアをあけてヒョコっとゆのが顔を見せる。
そこにはメイクを落としたいつものゆのが居た。
あ、なんか落ち着いたかも。
なんだ、さっきのドクドクモヤモヤしてたのは一体なんだったんだ。
まぁ、やっぱりいつものゆのの方が落ち着くってことだよな。
「先生!!!売り子アタシ絶対やるからね!!!」
「い、いや…やっぱりやめとけよ…お前、似合ってねぇよ!!!」
「はぁー!?むかつくー!!!絶対似合うって言わせるし!!!」
本当はめちゃくちゃ似合ってた。
でも俺以外のヲタクに、ゆののあんな姿見せたくなかったからつい口から似合ってないって言葉が出てしまった。
この気持ちは俺だけが知っている。
この気持ちがなんなのか、この時の俺にはわからなかったけれど。