4話 仲間の可能性が確信に変わった日
「あっ、先生!!!
次、靴買いたい!!!」
「お前なぁ…まだ買うのかよ…」
日曜の昼過ぎ。
俺とゆのは、今日は都内に買い物へ来ていた。
昨日欲しいものを買ってやる約束をしてしまった為、俺はしぶしぶついてきたようなもんだが。
俺の両手には既に紙袋4つ分の洋服が。
はぁ…今月の給料が…。
まぁ、金があっても生活費と絵師の飲み会以外に使うことなんてないんだけどな…。
「先生!ここのお店にするー!」
ゆのに誘導されて靴屋に入る。
なんかギャルが来る靴屋に置いてある靴って、ヒール高い靴ばっかりだな…。
こんなの履いて骨折しないんだろうか…。
「お前、よくそんなヒール高い靴履いて歩けるな」
「ええー?普通だよ?こんなの、低い方だよ」
ひ、低い!!?
これが!!?
嘘だろ…。
と、言いたくなるような高いヒールの靴をゆのが履いてみる。
ほんと、歩きづらそう。
「ねぇ!先生!似合うかなー???」
「えー…。
正直、どれも一緒に見えるし、違いがわからん」
「はぁー!!?
つーことは先生、アタシのこといつも同じ服着てるように見えてんの!!?
全っ然ちげーし!!!」
いや、つーか服とかそんな気にしてないし…。
だいたいお前は服にこだわらなくてもその顔があるから何着ててもいいだろうに…。
まぁ、調子に乗るだろうから言わないけど…。
「とりあえずこれ気に入ったから靴これにする!!!」
「あー、また高い靴買いやがって…」
「えっ?高い?これ安い方だよ!」
うそだろ…。
1万円の靴が安いってお前…。
俺なんて900円のスニーカー履いてるぞおい…。
「はぁー!!!
服も靴も買ったし、満足だー!!!
先生、ありがとっ!」
ゆのがニコッと笑う。
ゆのが楽しいならまぁ、いいか。
こいつは金食い虫だが顔だけは可愛いので笑顔を向けられると憎めないなぁとは思う。
はっ!
なんか俺、キャバ嬢に貢ぐカモみたいになってるじゃん…。
こっ、これは貢いでるわけではないぞ!
断じて!
「先生、おなかすいた!!!
ご飯つれてって!!!」
こ、こいつ…。
自由人か!
「はやくー!!!」
「あーはいはい、わかったわかった」
とりあえず適当にその辺にあったイタリアンに入る。
夕方だったのでそこそこ混んでいたが、店員さんに聞くと20分ぐらい待てば入れるとのことで少し待ち、席に着く。
「アタシ、赤ワインとー」
あっ!こいつは!
また目を離したら飲酒しようとしやがる!
「コラ!お前未成年なんだから酒は飲むなって何回も言ってるだろ」
「はぁー?!」
「はぁー?!じゃない。あ、店員さん、ウーロン茶2つお願いします」
「むー…」
そう言ってゆのがタバコに火をつける。
「こら!!!
bタバコもやめないと今日買ってやった服お前居ない間に燃やすぞ」
「はぁー!!?
先生のケチ!!!」
ブツブツ言いながらゆのがタバコの火を消す。
あれ?そういやこの状況デジャブなような…。
何度も同じことしやがって呆れるヤツだ…。
それにケ、ケチって…。
あんだけ服買い漁っときながらケチって、DQNの典型だなこいつ…。
中坊の頃ヲタクに対してカツアゲしながら
「こんだけしかないのぉー???」
とか言ってそう。ほんとに。
絶対そうだ!!!
飲み物と食事がきて、うまそうにゆのが飯を食う。
「先生!!!
ここの店、適当に選んだわりにお店おいしいね!!!」
「お前、いちいち一言余計だなほんと…」
「はぁー!!?
売れっ子キャバ嬢のゆのちゃんと、タダで隣に並んで歩けてんだから感謝してよね!!!」
こ、こいつ…。
タダで隣歩けてると言われても、服買い漁られたしタダではないだろう…。
「あれ?おくまくん?」
ん?この声は…。
横を向いたらまなみさんの姿が。
「あ、あれ。まなみさん?どうしたんですか?こんなところで」
「ふふっ。偶然ね。今日はみんなで資料を買いに来たの」
まなみさんの両隣には、いつも絵師仲間の飲み会で見かけるまなみさんの囲いが。
「先生、アタシ、トイレいってくる」
ゆのが機嫌悪そうにそう言って席を立ち、まなみさんのことを睨みつけた。
げっ、そうかこの2人鉢合わせさせちゃまずいんだった…。
ゆの、この前のことまだやっぱり怒ってるのかな…。
「あ、やっぱりアタシ、ゆのちゃんに嫌われてるみたいね…」
「あー…いや…」
俺が何か言おうとしたその時…。
「まなみちゃんこの前のこと気にしてる???大丈夫???」
「見た!?今の目つき。まなみちゃんのことすげー睨み付けてたな!DQNこえー!」
まなみさんの囲いがゆのの悪口を言い始めた。
なんだろう…。この前もこいつら同じようなこと言ってたけど、この空気やだなぁ…。
「みんな、そんなに言っちゃゆのちゃんがかわいそうよ…」
まなみさんが口を開く。
「まなみちゃんあんなことあったのに優しいな〜」
「まなみちゃんまじ天使!!!」
この空気ほんといやだ。
ゆのはたしかにDQNだけど、ゆののことDQNとか言っていいのは俺だけだっつーの。
あ、あれ?なんだなんだ俺は何を考えているんだ…。
ま、まぁよくわからんがとりあえずこいつらむかつくから今日こそなんか言ったろ。
「あっ!!!あのさ…ゆのは…。
あいつはそんな悪い奴じゃねぇよ。
あいつは裏表なくて…結構可愛いところもあるし…」
はっ、可愛いだと。何を言ってるんだ、俺は。
「あっ、別に変な意味じゃなくて…。
か、顔は!顔は可愛いってことだ!」
とりあえず不自然に付け足しておいた。
俺の発言を聞いて、ニヤニヤとまなみさんの囲いが笑う。
「なにおくま、あのDQNに惚れてんの?www」
「っつーかなに?その荷物。買わされたの?www
お前あのDQNに貢がされてるだけじゃんwww
うまく利用されてて笑うわーwww」
あー…むかつく。
たしかに貢いでように見えるかもしれんが、貢いでねぇし…。
「ちげーよ、ゆのは信頼してる仲間だ。
仲間のこと悪く言うなら俺はお前らのこと許さない」
もうむかつきすぎて今日という今日は思ったことを言っておこう。
つーか、こいつらからはもう俺はギャルに貢ぐいいカモにしか見えないんだろうし、こいつらに何て思われてももうどうでもいいや。
「あ…先生…」
ゆのが戻ってきた。
あ、やべ。今さっきの聞かれたかな、どこまで聞かれたんだ…。
可愛いとか言ってるとこまで聞かれてたら恥ずかしいんだけど…。
「ゆの、もう料理食ったなら行こう」
ゆのの腕を引っ張って席を立つ。
「あーっ先生!!!
まだデザート食べてないよぉ〜!!!
もったいない〜!!!」
「そんなもんまた買ってやるからもう行こう」
ゆのが駄々をこねていたが俺は早足で店を出た。
その時のまなみさんの表情を見ると、目があまり笑ってなかったけど、とにかく俺は早くその場を離れたかった。
「先生〜〜痛いよ、離してよ〜!!!」
あ、気がついたらかなり引っ張って歩いてた…。
「あ、ごめん」
「はぁー。先生、どうしたの?」
「いや、なんでもない、うん…うん」
あれ、ゆの、さっきの話聞いてないのかな。
「はぁー。
先生、デザート食べ損ねたし、お詫びに今からカラオケ連れてってよ」
あ!?カラオケ!?
DQNとカラオケなんて言ったら選曲噛み合わなすぎて地獄っぽいんだけど…。
「いやいいよ俺歌下手だし…」
「あっ!あそこカラオケあるよ!!!
入ろ入ろ!!!」
ゆのが俺の話を無視して今度は俺の腕を引っ張る。
こいつほんと自由人だな…。
「すいませんーフリータイムでー」
「おいおい、フリータイムって…。俺そんな歌えねぇよ…」
「いーからいーから!!!」
そう言ってゆのがフリータイムで部屋を取る。
「あ!!!この機種がいい!!!
この機種映像コンテンツが充実してるんだよ!!!」
そう言ってゆのが機種も決める。
ぶっちゃけ映像とかどうでもいいんだけど…。
DQNの好きな歌手の映像コンテンツが延々と流れるのか…。
ヲタクにとっては拷問だ…。
そしてドリンクバーでジュースを取ってきて、2人で部屋に入る。
「あー!先生!!!
目、瞑って!!!」
そう言ってゆのは俺の背中からガバっと手で目隠しをする。
あ、あの…。背中に胸が当たってるんですが…。
「は???なんでだよ」
とりあえず胸が当たることはいつも寝てる時に慣れてるからもう平気なんだけど。
こんなこと世の中のキモヲタに言うと炎上しそうだが。
「いーからいーから!!!
今日は先生ビックリさせるために最後にカラオケ行くつもりだったんだから!!!」
な、なんだなんだ。よくわからんけどとりあえずゆのに離れてほしくて自分で俺は目を瞑った。
『ピッ!ピッ!』
ゆのが曲を入れる。
〜♪
あ、あれ?この曲って…
俺が目を開けると、そこには、俺の好きな声優のキャラソンを歌いあげる、ゆのの姿が…。
なんだ、ビックリさせたいって、このことだったのか?
てゆうか…普通にこいつ、歌うまいんですけど…
本家越えるレベルでうめぇよ…。
そして曲が終わる。
「あー!まだ目あけちゃだめなのに!!!
歌ってる時のアタシ、ブスだからさー!!!」
な、なに言ってんだこいつ。
ブスどころか、普通に尊かったぞ…。
歌もクソうめぇし…。
声量はんぱねぇ…。
「やっぱDQNはキレた時に大声出すから声量オバケの素質があるのかな…」
はっ。しまった、思ったことがつい声に出てしまった。
「はー?何言ってんの?
ところで!どうだった?
先生がよく部屋で流してるの聞いてて覚えたんだー!!!
今日初めてこの曲歌ったんだけど!!!」
は?初めて歌ってこのうまさって、こいつ天才なのか???
「いや、うまかったよ。
つーか本家よりうめーよぶっちゃけ」
「本家ってなに?」
「この曲を歌ってる声優さん本人のことだよ」
「そうなんだ!本家って言うんだねー!」
「お前、歌こんだけうまけりゃ、絶対売れるよ」
「あははっ!そうかなぁ?
全然だよー。先生に喜んでほしくて今日はたくさん覚えてきたからさ!!!」
そう言ってゆのはその日、たくさん俺の好きな曲を歌ってくれた。
全部俺の好きな曲だった。
そもそも俺がカラオケでそんなに歌うタイプではないので、カラオケで終始聴いてるだけだったけど、聴いてるだけでライブに来ているような気分になるぐらいに楽しかった。
帰りはタクシーで家の近くの駅まで帰った。
そして、駅から家まで歩いて帰るまでの間ー
「先生、今日はありがとね」
「あ、あー。
全然いいよ。服買ってやる約束したしな」
「あー。それもなんだけど…」
ゆのが何か言いかける。
ん?なんだ?
「先生が、まなみさん達の前でアタシのことかばってくれて、嬉しくて」
あ、やっぱり聞かれてたのか。
どこまで聞かれたんだろう…。
可愛いって言ってたとこまで聞かれたのかな…。
なんか恥ずかしいしそこは掘り返さんとこ。
「いや、いいんだよ。
俺がむかついただけだし」
「先生!!!
アタシ、絶対先生と一緒に有名になるからね!!!」
そう言ってゆのは俺の腕にくっついてきた。
俺はゆのと一緒なら本当に行けるとこまで行ける。
そんな風に今日は思えた一日になった。