*06話 金の薔薇は愛で花開き、薔薇は妖しく咲き乱れる
「そちらの方々も不穏な事をお考えになったようですけど、我が君はとてもお強いんですのよ。もちろんわたくしも。
わたくし達を人質にしようなんて考えても無駄ですわね。この王宮はもう我が帝国の兵で囲まれていますし、この広間の扉の前にも大勢待機させてますわ。まあ、試してみたければ、構いませんけど……」
金髪の女性の余裕のある見下したような態度に、赤髪の青年と黒髪の青年は悔しそうに顔を歪めた。
「……知っている。帝国の皇帝の強さは……」
「分かっている。アンナローザ様は剣や魔法にも秀でた、とても優秀な方だった……」
二人の青年の言葉に金髪の女性は満足そうに頷いた。
「徒労に終わる事を断念してくださったようで、よかったですわ。わたくし達がここにたった二人で現れたのは、あなた達に投降して処刑されるまでの時間生き延びるか、ここで自決するか、選ばせてあげようと思ったからですの」
そこで一旦言葉を止めると、玉座の青年を見つめた。
「冤罪で国外追放された復讐ではありませんわ。満更、知らない仲でもない、あなた達への情けですわよ。で、投降なさる?それともこの場で自決なさる?ここで美しく散ってくださってもよろしいですわ」
金髪の女性の強い口調に金髪の青年は、また嬉しそうに微笑んだ。
「優しいなあ、アンちゃんは。それって自決を勧めてるんだよね。処刑されるところを見世物にしたくないからだよね」
「な、何をおっしゃってるのかしら。勘違いもいいとこですわ。オーちゃんは相変わらずのお幸せなお花畑お脳ミソでいらっしゃること」
ニコニコと言う金髪の青年の言葉に、金髪の女性は狼狽えて焦ったように反論した。狼狽えたせいで、玉座の青年を思わず小さい頃のように呼んでしまった。
「ん?オーちゃん?」
隣に立つ青年が不思議そうに呟いたが、金髪の女性は聞こえない振りをした。
「さあ、どうなさいますの?あまり時間はあげられませんわよ。自決するなら、死人も思わず『あれ?わたし、もしかして死んでる?』と疑いたくなるような、苦しまず眠ったように死ねる高級毒薬の差し入れもしてあげますわ。もちろん、全員まとめて葬ってさしあげますわ」
「わあ、この感じ。ああ、この感じ。一緒に埋葬してくれるって言ってくれてるんだろうけど、まとめて血祭りにあげられそうなこの感じ……姉上だあ」
金髪の女性の言葉を聞いて、黄髪の青年がビクビクと震えて一歩後ずさった。
「オージ、私はあなたと共に死ぬ覚悟は出来ております」
立ち上がった所が確認されていない銀髪の青年が、片膝を使い片足を引きずりながら器用に跪いたまま、玉座に近寄り、金髪の青年の顔を見上げて微笑んだ。
「僕も、僕の死に場所はあなたの側ってとっくに決めてるよ」
玉座の脇の青髪の青年もそう言いながら、笑って金髪の青年の肩に手をかけた。
「私もあなたと共に逝けるなら、本望だ」
赤髪の青年も、あいた方の青年の肩に手を置いて口元を持ち上げた。
「もとより、あなたに命を捧げたこの身、一緒に死ぬ事に何のためらいもありません」
玉座の近くに立っていた黒髪の青年もそう言うと、跪いて金髪の青年の片方の太股にさりげなく手をおいた。
「わっ、私もずっとどこまででも、あなたと共に参ります。不様な死に様を晒さず、一緒に美しく散りましょう」
みんなの言葉を聞いて、腰の引けていた黄髪の青年が、慌てて金髪の青年の側に膝をつくと、黒髪の青年の手の載った足とは逆の足の太股にちゃっかり手を載せた。
「えっ、私は死にたくないのだが……。国よりみんなとの愛に生きる方を選んだのに、なぜ、みんな死ぬ気でいるのだろうか。誓約がなくなったのだから、私はみんなと色々な事をして、楽しく生きたいのだが……」
金髪の青年は口調を戻して、玉座の側にいる青年達の顔を悪戯そうな目で、順に見つめた。とたんに回りからゴクリと喉を鳴らす音が一斉に響いた。
「ああ、前向きに楽しく生きるべきだよな」
「そうだね。僕もオージと楽しく過ごしたいな」
赤髪の青年と青髪の青年は顔を見合わせて頷き合った。その目には煩悩が滲んでいた。
「私はオージを守って生き抜ぬくと誓おう」
「わっ私も美しく散るより、オージと楽しく咲いた方がいいかな~と考えを改めました」
黒髪の青年と黄髪の青年は、そう言って玉座の青年を見つめた。その目には邪な思いが秘められていた。
「私もオージと生きる覚悟をいたしました。い・ろ・い・ろ、楽しい事をぜひ、いたしましょう!」
汚れなき白い薔薇の守護者とか何とか、口先だけ清廉潔白と言った、抑圧された綺麗な生活を送ってきた銀髪の青年は、誰よりも煩悩を抱えた薄汚れた欲望のにじんだ濁った目で、金髪の青年を見つめた。
「フフッ、じゃあ、みんな私の体にしっかり掴まってくれるかな」
銀髪の青年の濁った目も、楽しそうに見つめ返して、金髪の青年は自分の胸に両手を当てた。
金髪の青年の言葉に、両脇にいた赤髪と青髪の青年は左右から抱きつくようにしっかり掴まった。黒髪の青年と黄髪の青年もそれぞれ片足ずつ、抱き締めるように掴まった。
一人出遅れた銀髪の青年は焦ったが、瞬時に賢明な判断(自己評価)をして、玉座の青年の少し開いた足の間を目指して膝を動かした。
「あー、外を向いてね」
足の間に入り込もうとしたところで、直ぐに金髪の青年の声がかかった。ガッカリした気持ちをおくびにも出さず、最初からそうするつもりだったかのように、外向きで、金髪の青年の足の間に填まり込むと、手を伸ばして座る青年の両方の足首を掴んだ。
玉座の青年に抱きつく四人の青年と、金髪の青年の足の間から顔を出す銀髪の青年の、奇妙な固まりが出来上がった。
「はあ?!何がしたいんですの?そんな格好で自決したら、伝説が出来るほど恥ずかしいですわよ」
黙って見守っていた金髪縦ロールの女性が、我慢できずに大きな声で叫んだ。
「美しい青年達なのに、なぜそうなった……」
隣に立つ皇帝である青年も呆然と呟いた。
「金の薔薇は愛された者の証。愛を受けとり奇跡を起こす。今、愛に満たされて、私は力に満ちている。私もみんなの愛に応えよう。愛で薔薇を咲かせよう」
力強くそう言った後、金髪の青年は目を閉じた。胸から光が溢れ出すと、その頬が赤く染まり、呼吸が乱れていく。
「んあっ、ああ!」
金髪の青年の口から、聞く者の鼓動が早くなるような、少し高めの声が上がったとたん、青年の胸元で金の光の爆発が起こった。光が収まると青年の胸には大輪の金の薔薇が咲いていた。
金の薔薇からしゅるしゅると金色の蔦がのび、回りの青年達に絡んでいく。蔦から白、赤、青、黄、黒と5色の薔薇があちこちに咲き始めると、青年達を柔らかな金色の光が包んでいった。
目を見張り、茫然とその様子を見る金髪縦ロールの女性と金の光に包まれる金髪の青年の目が合った。
「ごめんね、アンちゃん。ありがとう。よろしくね」
微笑んでそう言葉を残すと、回りの青年達とともに金髪の青年の姿はかき消えた。後には空になった玉座だけが残されていた。
「ああ、見事に逃げられてしまったな。さすが金の薔薇の王と、称賛を贈ろうか」
固まって動かない金髪の女性の隣で、銀髪の皇帝は大きく肩をすくめて見せた。ハッと我に返った金髪の女性は、隣に立つ青年の方を向いた。
「まっまあ、逃げられても、もう二度とこの国には戻ってきませんし、子孫が旗印に担ぎ上げられて反乱が起こる心配もありませんし、全員自決した事にすればいいですわね。元凶の王妃と重臣は捕まえましたし、民衆は彼らだけでも十分満足するでしょうし」
早口でそう言ってくる金髪の女性に銀髪の青年は微笑みかけた。
「そんなに一生懸命庇わなくても、追いかけて捕まえたりはしない。せっかくそなたが苦労して手に入れた仮死薬が無駄になってしまったな」
「なっなんの事をお、おしゃってるのかしらあ?」
「ククッ、我が妃は本当に可愛い、愛すべき女性だな。益々惚れてしまうな。そなたの胸で香ってる薔薇は何処かに消えた。これで、我一人を愛するようになってくれたら、嬉しいが……」
「なっなんの事をおっおっおしゃってるのかしらあぁ?」
益々狼狽えてどもりながら、体を揺らす女性を、銀髪の皇帝は腕を広げて抱きしめた。
「約束通り、この国はそなたにやろう。あの玉座はそなたのものだ。座るとよい」
「えっ」
銀髪の青年は腕の中の金髪の女性にそう言うと、女性の体を空いた椅子の方に向けてやった。
「座ってみるがいい。そなたの願いを叶える我は、よい男であろう」
銀髪の青年はそう言って、腕の中から女性を解放すると、その背中を押した。
女性は戸惑いがちに頷くと、玉座を目指して歩き始めた。階段を昇り、椅子の前で足を止めると、背後の壁に飾られたタペストリーを見つめた。
「……頭を花畑にした獅子がシンボルって……。国より愛を選ぶようなあなたに相応しいですわね。……わたくし、あなたの気持ちなんてとっくに分かってましたわ。
たっぷりお金を持って帝国に追放なんて……嫁入りですの?思惑通り、あなたよりずっと強くて賢くてイケメンの独身の皇帝を、タラしてあげましたわよ。
わたくし、あなたと違ってこの国を愛してますの。腐るのも滅びるのも我慢なりませんの。悔しいですけど、あなたの思惑に乗ってあげましたわ。
ローゼズテス様も分かってらしたのね。どなたも気にしませんでしたけど、あなたとの婚約が決まった頃、わたくしの髪が黄から金に変わったのは、そういう事だったのかと納得しましたわ。まあ、安心なさいな、ダメダメなあなたの代わりに、わたくしがこの国を引き受けてあげますわよ……」
「おーい!座らないのかい?」
階段の下から銀髪の青年の声がかかり、タペストリーに向かって話しかけていた金髪の女性はハッとしたように振り返った。
「今、座りますわー」
大きな声で返事をすると、豪奢な椅子にドサリと座り、偉そうに両手を肘掛けにかけた。
「座り心地はどうだーい!」
「最高よー!」
下から尋ねてくるイケメンの銀髪の青年に、金髪の女性は片手を上げると満面の笑顔で手を振った。
─腐海を越えたある国に、六人の花のように美しい青年達が、楽しそうに暮らす館があると言う……。なぜか、その館には様々な薔薇が妖しく咲き乱れているそうだ。
こんなものでしたが、楽しく読んでいただけていれば、嬉しいです。でも、耽美が変態して別の何かになりました。
ダメだった方はホントにすみませんでしたあ!
m(_ _)m
(どうでもいい話)
この話には実は緑髪の青年もいました。全身タイツで現れる中心人物です。でも、彼が登場すると話が長くなり、完璧に話が変態してしまうので、出るのは遠慮してもらいました。そう、ジャンルは〈恋愛〉ですからね。恋愛してますよね?その分、銀髪の青年に頑張ってもらいました。本当はストイックで清楚な美青年だったんですけどね……。 ρ(・・、)




