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*妖しく薔薇は咲き乱れる*  作者: ミケ~またバラ
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*05話 黒の薔薇は全てをかけて愛を誓い、勝者の笑みを浮かべる



 「私の家は代々王一人に忠誠を誓い、王直属の臣下として仕えてきた。王を守り、王に裏の情報を届け、王に害をなすものは排除し、王の命令ならばどんな事も遂行する、王家の闇の部分を引き受ける、影で王家の暗部と呼ばれるような家だ。

 決して表立って活躍する事のない、華やかな役職などに就く事などない家だ。


 私はそんな家の三男だった。腹違いの兄が二人いて、第三夫人の子どもだった私は幼い頃はそんな家だと知らずに育った。知ったのは10歳になる頃、兄二人が不慮の事故で亡くなり、後継ぎとして扱われるようになった時だ。


 私はそんな家が嫌でたまらなかった。王の命令があればどんな汚い事も、人を葬り去る事さえやらなければならないのだと分かった時は絶望した。


 ある日、王宮にいく用事があり、王宮のトイレに入った時だ。少年がせっせとトイレ掃除をしている場面に出くわした。ブラシで便器を磨いているのが、将来自分が仕える事になる王子だと直ぐに分かった。聞いていた通りの輝く金の髪、宝石のような青紫の目、しなやかな肢体。これほどの人の目を惹き付けるような美少年は他にいない。


 私は驚き、なぜトイレ掃除などしているのかとあなたに尋ねた。あなたは答えた。『だって、綺麗なトイレの方が気持ちいいでしょ』と。なぜ使用人に任せないのかと続けて尋ねたら、『うん、たまには自分で掃除してもいいんじゃないかな。いつも汚れないように、トイレを綺麗にしてくれる人達に感謝できるでしょ』と恥ずかしそうに答えた。あなたの言葉を聞いて私の胸は熱くなった。影で尽くしている者達に、感謝の気持ちを持とうとしているあなたに魂を揺さぶられた。


 後で、課題を忘れて厳しい教育係に罰としてやらされた事だと分かったが、尿意を忘れてあなたの掃除する姿を見守ってしまった私は、あなたが真剣に心を込めて便器を磨いていたのは知っていた。あなたになら仕えられる、あなたのためならどんな事もできると思った時、暗かった私の心に光が差した。

 それにあなたは私を表だって側に置いてくれた。今まで、理不尽な命令をされた事もなかった。


 あの姿を見た時から、私の全てはあなたのものだ。あなたを愛している」


 そこまで語り終わると、黒髪の青年は玉座に座る青年の方に体を傾けて抱きしめた。金髪の青年の頭の後ろに片手を差し込むと、顔が仰向けになるように髪を引っ張るようにして力を込める。のけ反って晒された白い首筋に口をつけた。

 とたんに回りから悔しそうな歯ぎしりの音がしたが、あたり前のように無視した。

 黒髪の青年は顔を離すと、仰向けにさせた青年の顔を覗きこんだ。あいた方の手を自分の胸に押し当てる。


 「黒の薔薇は穢れたものを覆い尽くし、滅ぼす闇の力を持つ。正邪を見極め、邪を滅し、命をかけて国を守護する者の証。でも私は、あなたを見ていたい。あなたを命をかけて守りたい。私の全てであなたを愛したい」


 黒髪の青年の胸に置いた手から、光が溢れ始めると、影のある冷淡な雰囲気を漂わせる端麗な容貌が歪んだ。眉間に皺を寄せ、歯を食いしばった痛みに耐えているような表情になる。食いしばった口から堪えきれない声が漏れると、舌先で赤くなった唇をペロリと舐めて、金髪の青年の頭から手を離し、その肩口に顔を埋めた。


 「あっ、あ、ああ……っ」


 金髪の青年に聞かせるように、声が大きくなり甘さが混じる。乱れた息遣いと声を耳元で聞かされて、金髪の青年の首筋までが赤く染まった。


 「っ!ああ」


 一際高く上がった声とともに、黒髪の青年の胸と手の間から光が飛び散るように溢れ出た。金髪の青年の肩で何度か深呼吸した後、体を起こすと黒髪の青年は手に握りしめた黒い薔薇を金髪の青年の目の前に掲げた。


 「ただのブラックになった私から、私の思いのこもったこの薔薇を贈ろう。今また私の全てであなたを愛すると誓う」


 金髪の青年は赤く染まった顔で、黒髪の青年から薔薇を受け取ると自分の胸に押し当てた。淡い光を発して胸の中に薔薇が消えていく瞬間、黒髪の青年は金髪の青年の手に自分の片手も重ねた。回りから驚愕の声が上がったが、まるっきり無視した。


 「あ、あ、あ、ん、……そんな……と……んんっ、おかしく……な……ああ」


 ハアハアと呼吸を乱し、体をしならせる金髪の青年の様子を側で十分堪能すると、黒髪の青年は金髪の青年から体を離して、玉座の前に立った。回りから発せられる憤怒や嫉妬の視線は、勝者の笑みを口元に浮かべて受け流した。


 玉座に座る青年は乱れた息が、治まると姿勢を正して深く玉座に座り直した。


 「ホワイト、レッド、ブルー、イエロー、ブラック皆の愛は確かに受け取った。私は今、皆の愛で満たされている。ありがとう」


 金髪の青年は一人一人青年達の顔を見つめると感謝の言葉を口にした。


 「私は国よりも皆の愛が欲しかった。国を犠牲にしても……この愛が……っ……欲しくて……っ」


 金髪の青年の声に嗚咽が混じり、綺麗な瑠璃色の目からポロポロと涙が溢れ出した。


 「「「「「オージ!」」」」」


 「あらあら、あなたは相変わらず泣き虫ねえ。また泣いていらっしゃるの?」


 青年達が金髪の青年に声をかけて、青年の顔を覗きこもうとした所で、呆れたような高い女の声が玉座の間に響き渡った。


 一同が一斉に視線を声がした方に向けると、階段下に銀髪の背の高い男と金髪縦ロールの女性が並んで立っていた。銀髪の青年の眉がピクリと動く。こちらは腰までの長髪で、あちらは首もと迄の短髪だと違いを認識した。


 扉の方に振り返った青年達のうち黄髪の青年は、立ち上がって驚いたような叫び声をあげた。


 「姉上!」


 「あら、愚弟。元気そうで何より。相変わらず色ボケた顔つきですけど」


 女性が黄髪の青年にバカにしたような視線を送って、一歩前に出た。黄髪の青年の喉がゴクリと鳴る。自分とは違う金色の髪の女性はやっぱり怖かった。


 「……ローザ」


 金髪の青年が呆然とした様子で、女性の名前を口にした。


 「あら、何を驚いていますの?わたくしが来るのが、分かってらしたでしょうに。でも、あなたにはわたくしを『ローザ』と呼ぶ資格はもうありませんわ。やめていただける?」


 金髪縦ロールの女性は挑むような視線で玉座の青年を睨みつけた。


 「そうだな。アンナローザを『ローザ』と呼ぶ資格があるのは、ローザを帝妃として娶った我だけだな」


 銀髪の青年は赤いマントを肩にかけ直すと、女性と再び並んでその肩を抱き寄せた。赤髪の青年の口元がヒクリと動く。こちらは深紅だが、あちらは鮮やかな赤だと違いを確認した。


 「また、花のように美しい青年ばかりだな」


 短い銀髪の青年は階段上の青年達の顔を見て、感心したように目を見張った。青髪の青年のこめかみがピクピクとひきつった。こちらは金混じりの丸い大きな目で、あちらは青一色の切れ長な目だと違いを識別した。


 「ほう、噂は耳に入っていたが、王の美しさは格別だな。なるほど、まさしく金の薔薇だ。これは近くに置いて鑑賞したくなるな」


 帝国の皇帝らしい短い銀髪の青年の目が玉座に座る青年に向けられた。その口から感嘆の言葉が零れると、金髪の女性が青年の着ている黒い上衣の裾を引っ張った。黒髪の青年の目尻がヒクヒクと痙攣した。こちらはロングコートであちらはもう少し短い軍服のような型だと違いを判別した。


 「あら、我が背の君は、あの方を後宮にでも入れようとか、そんな事はお考えになりませんわよね。そんなご趣味はございませんわよね?」


 「も、もちろんだ。ただ、そうただ、処刑してしまうのは、惜しい美しさだと思っただけだ。美青年ハーレムを作ろうとか、伽をさせようとか、そんな事は一切考えていないとも!」


 金髪の女性の疑わしい視線と念を押すような発言に、短い銀髪の青年は狼狽えながら答えた。実は考えたのがあちこち動く視線でバレバレだった。


 「それなら、よろしいんですの。きっちり処刑して始末をつけませんとね」


 そう言って腕を組んで大きく頷く。皇帝である青年より金髪の女性の方が、なぜか偉そうだった。


 「えっ?!処刑?姉上はオージを処刑するつもりなのか?!」


 黄髪の青年が女性の言葉を耳にして、驚いて叫んだ。


 「オージ?それがこの国の王の事なら、そのつもりですわよ。あなたを含めてこの国の主だった者達は、全員もれなく『斬首刑』ですわね」


 金髪の女性は黄髪の青年に答えると、組んでいた手を解いて、首元に手を水平にあて、切るように横に動かした。


 「敗戦国の王族や重臣なんて、たいていそんなものですわよ。この国は内乱まで起きて民衆の不満が溜まってますもの。幽閉とか追放とか生温い事はせず、スッキリ始末をつけませんとね。国が滅んだら、当然そうなると覚悟はおありだったんでしょう?」


 金髪の女性は問いかけるような視線を、玉座に座る青年に向けた。とたんに青年は、嬉しそうに満面の笑顔を浮かべた。


 「うん。やっぱり来てくれたんだね、アンちゃん」


 一つ頷いて答えた金髪の青年の言葉と態度は、幼い子どものようなものになった。涙の乾いた顔でニコニコと微笑んでいる。


 「アッアンちゃんて、あなたってば……そんな小さい頃の呼び名をまた……」


 金髪の女性は驚きと呆れが混じった、複雑な表情を浮かべた。しばらく呆然とした様子で玉座の青年を見つめていたが、急に青髪の青年の方に顔を向けた。


 「無駄ですわよ。転移なんて出来ませんわ。魔法は使えないと思ってくださいな。我が帝国の魔術師達は優秀ですの。わたくしも魔力には自信がありますしね」


 嘲るようにそう言った後、銀髪の青年は素通りして、今度は赤髪と黒髪の青年にも視線を向けた。



 

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