第09話
ドアが閉まるのと同時になる鐘がどこか物悲しく感じる。
「ふぅ……」
珍しいと感じる紗英のため息を聞きながら、
私はカウンターへと戻る。
そして、仕事を始める前に気になることを本人へ確認する。
「桜、あのお客さんと親しいみたいだったけど?」
こちらも珍しく腕組みしながら思案する桜へ疑問を投げかける。
不意だったのもあり、少しびっくりした顔になりながらも
桜は簡潔に答えてくれた。
「私の兄がね、進にぃの先輩でねー、昔色々と、ね」
「ふーん……」
兄の部活の後輩、にしては少し馴れ馴れしい気もしたが。
浮かび上がった疑問で追求しようとするが
まだ何か思いを巡らせている様子に戸惑う。
そんな私に今度は紗英が突っかかってくる。
「五月こそ、馴れ馴れしかったわよ」
小さく、だけど鋭く刺さる言葉。
もしかしなくても初めて聞く声のトーンで私を戒める。
それは仕事上の上司としての注意喚起とは違う。
まるでかつての私がひた隠した嫌な感情と似ており、
「ご、ごめん……なさい……」
たじろぎながらも自分の行動が、
少なくともこの店の接客としてふさわしくなかったのだろう、
そう、強引に頭の中で理解させるように謝る、
動揺を隠しきれないまま。
「あっ……いえ、今のは私が言いすぎたわ……ごめん……」
そんな私の姿に今度は紗英が謝る。
バツな悪そうな表情で私から視線を外し俯く。
そして訪れる沈黙、いつの間にかおチビさん二人の姿も消え
お客さんもいない店内。
静かに聞こえる時計の音色が重苦しく響く。
どうしてこうなってしまたのだろう。
そんな後悔が沸き上がる、前だった。
腕を引っ張られる感覚と彼女の声で悪い空気が払拭される。
それは彼女しか出来ないことで彼女だからこそで、
「はいはいっ!二人ともまだまだ仕事中だから集中集中っ!」
同じように紗英も引っ張り私の横に立たせると、
私たちを一纏めにギュッと抱きしめる。
そんな突発的な行動は彼女の持ち味で最大の武器で、
それを理解している私と紗英は
小さく吐息を零しながら顔を見合わせ、
そして自然と微笑みに変わる。
「そうね、ちゃんとお仕事しなきゃ、ね」
「ええ、桜に任せたらお店潰れちゃうわ」
「あーっ!ひどーいっ!」
いつもの冗談を交えながら桜も紗英も楽しそうに笑っている。
そして私もいつものニシシと笑えている。
だから気づかなかった。
この日、この時既に私たちの関係が
微妙に変化していた事に。
後にそれを思い知らされる事に。
みんなで一緒に笑えていたから、
だから私は分からなかった。
小説を書く時自分はよく音楽を聞きながらが多いのですが、
最近特に田所あずささんの某アニメOPを
リピートしてしまいます。
でもこの曲、アニメの世界感が感じ取れるせいか
構想に干渉して崩壊しちゃのが玉に傷で…(笑)
田所さんの曲は余り聞いた事なかったのですが
この機会に色々聞いてみたくなりました。
他の曲も気に入ったらライブとかも行ってみたいですね
ここまでお読み頂きありがとうございます。