第69話
五月さんと紗英さん。
二人の間に入っていける雰囲気は全くなかった。
完全に蚊帳の外だった俺の横には
いつの間にやら桜ちゃんがいた。
「ほんと、五月も手がかかってしょうがいよねー」
「……正直、俺に同意を求められても……ね」
確かに、
頷きながら答える桜ちゃんを横目で覗きながら驚愕する。
なぜならいつもの悪戯っぽい笑いを浮かべながら
眺めている表情ではなく、
とても優しく、慈愛に満ちた微笑みだったから。
今まで、否初めて見た桜ちゃんの表情にドギマギしていると
「ん?進にぃどうした?」
急に振り返りいつもの表情でこちらを向いた桜ちゃん。
俺はごまかす様にそっぽを向きつつ
「いやいやっ!何でもないっ!」
「ふーん……フフッ、なんか変なの」
上手くやり過ごせたのか分らなかったが、
ひとまず桜ちゃんが気にしなかった事に安堵していると、
前方の二人に動きが見えた。
「あっ!どうやら終わったみたいだよ」
いつものニヤニヤ顔で二人が近づいてくる姿を実況してくれる桜ちゃん。
当然全く余裕の無い俺はその言葉にビクリッと反応しつつ、
2人へと視線を固定する。
ゆっくりとこちらに向けて歩いてくる。
紗英さんが五月さんを抱きかかえるようにして進む姿は
親子のようだ。
などと感じる余裕もないほど俺は焦っていた。
紗英さんが来た時点で俺は二人から離れた。
どんな話をするのか、興味はあったが
しかし、それを聞くのは野暮だった。
だから全て紗英さんに任せた。
その結果がこれから出ようとしている。
二人が近づくたびに鼓動が早くなる。
落ちつこうと胸に手をやりながら深呼吸してみるが、
一向に変わらない脈拍に焦りが募る。
「もうっ!シャキッとしないとっ!ねっ!」
「ちょっ!さくらちゃぁぁぁああんっ!」
笑顔でいつものように自らの腕を絡ませ関節技を決める桜ちゃんに
抗議の悲鳴で応える。
「よっしっ!もう大丈夫、行ってこいっ!」
そして、唐突に解いた腕で俺の背中を押してくれた。
パシッ!小気味よい音がエールとなり、
俺は二人の目の前に飛んで行った。
「あ……の……えーと……」
「……」
どうやらかなり泣いていたようだ。
少し腫れぼったくなった目と乾ききれなかった雫から察する。
そのことにより、なんと声を掛けていいか悩み
なかなか言葉が出てこない俺へと
盛大な溜息が注がれる。
「進さん、最後くらいはしっかり自分で決めて下さい」
そう言って、桜ちゃんの元へと去っていく紗英さん。
そして残された俺と五月さん。
『いかんっ!どうすればいいっ!なにをどうするっ!』
グルグルといつも以上に回っているはずの頭から
答えが全然返ってこない。
最後の勝負どころ、
なのに詰め切れない自分に
更なる焦りが募り始めたその時だった。
「……進先輩、もう一度お願いできますか……」
スッと上がった視線に意志を感じた。
言葉は小さく何とか俺に届く程度だったのに
脳にすさまじい印象を残す。
五月さんの望みが何なのか、すぐにわかった。
だから、俺は大きく息を一度飲み、
しっかりと決意を込めた瞳で五月さんへ応えた。
「俺は、遠藤 進は貴方を始めて見た時から恋に落ちました」
先ほどとは違い、揺らぐこと無く俺の言葉を真剣に受け止める五月さん。
夕日に照らされた姿はあの日とは同じで、
だけど全く違った印象を俺に与える。
「貴方と接した時間はまだまだ短い、だけど、どれも楽しく大切に思えました」
緊張している、その自覚はあるのに
気持ちが自然に溢れかえる。
今まで体験したことない不思議な感覚、
だけど戸惑うことなく俺はその言葉を口にした。
「好きです、五月さん、俺と付き合ってください」
言い切った事に満足しそうになるのをグッと堪え、
五月さんへ前で頭を下げる。
風が頬を流れる。
だが視線に映る芝生に動きが無く
まるで時間が止まったかのよう。
終わる事が無い、一生続くような空間に閉じ込められたような感覚。
しかし、それは聞こえてきた小さな呼吸で現実に戻された。
先ほどの俺と同じ様に大きく息を吸い込む音を耳にしながら
俺は五月さんの回答を耳に刻み付ける。
「私は……」
こんばんわ、作者です。
とうとう、本日がこの連載のラストとなります。
前回の後書きの通り本日も2話投稿でお贈り致します、
是非是非、次の最後までお読み頂けると、とっても嬉しいです。
それでは、次話の後書きにてまた。
ここまでお読み頂きありがとうございます。




