第06話
脱兎のごとく店から抜け出した俺は
住宅街を当てもなく走り抜ける。
「なんでなんでなんでっ!」
言葉に出す問いに当然答える者はいない。
だが、出さずにはいられなかった。
長距離選手として恥ずかしいほど
バラバラなフォームを維持しつつ、
俺は視界に入った公園へ体を滑りこませると
そのまま中心を陣取り雄叫びを上げていた。
「なんでいるんだーっ!」
幸いにも公園内には人がいなかったようで
俺の奇妙な行動を訝しむ視線はなかった。
大声を張り上げたおかげか少し冷静になり
同時に膝に手をやり異様なまでにあがった
呼吸を落ちつかせる。
そうすることで徐々に先ほどの景色が再現されていく。
記憶に残っていた彼女とは違う柔らかな笑顔。
それでも一瞬であの時の子だと理解し、
そして止まってしまった。
看板娘の紗英さんが一時的に視界を
遮ってくれたおかげでなんとか頭が動いたが、
直面した現実をすぐに受け入れることが出来ず
逃げ出すというもっとも愚かな手段を行使してしまった。
今さらだが何やってるんだと
自分でも恥ずかしくなるような出来事に
俺の腰は自然と落ち、その場で丸まっていく。
「うぅ……やばい、今日の取り置きが」
俺はあの店『スウィート・ヒイラギ』の
シュークリームの味に惚れ込み、
週一で通う常連になっていた。
そして部活で何かと忙しく、
売り切れになることもあるため
店の好意で毎週日曜日に決まった数を
取り置いてもらえるようになった。
なので、いつものように引き取りに行っただけなのだが、
「あまりにも唐突すぎるだろ……」
彼女とはもう一度会いたいと思っていた。
会って話したいと、その気持ちは今でも嘘ではない。
だが、出会いの神はなんと無残な事か。
俺の毎週の楽しみをある意味秤にかける試練を与えるとは。
あまり神様というものを信じない俺でも
流石にこの時ばかりは恨むばかり。
「くそ……神のばかやろうが……」
小さく毒付きながらもこちらを見ていた彼女を思い出す。
俺が固まった状態でとらえた彼女は訝しげにしていた。
それだけで向こうは俺の事を覚えていないだろうし、
変人と受け取った可能性も高い。
そして、それは後から来た紗英さんにも言える
この状態でもう一度店に行くのは
「あぁ……どうすっかな……」
取り置きしてもらっている事もあるし
行かない訳にはいかない。
だが、彼女と紗英さんには顔を合わせずらいし、
なによりさっきの件を聞かれどう答えるか、
頭の中でグルグルと迷走していく。
そんな時だった、懐かしくも苦手意識が立ち上がる
懐かしくも恐ろしい声が俺の耳に入ってきた。
「あーやっぱり進にぃだー♪」
一人っ子の俺をそう呼ぶやつはこの世に一人しかいない。
そしてその人物はことあるごとに俺の体を虐め倒す人物
向けたくない視線を声がした方向へ傾けると
見慣れた影が即座に俺の体に巻き付いていく。
「グゥッ!何で君がここに……」
スルリと伸びた脚が絡まり、
脇の下から這い出た手でガッチリと
固定されたと思った瞬間、体に激痛が走る。
抵抗する間もなく見事なコブラツイストを
ここに体現しながら、いつものあどけない調子で
桜ちゃんは逆に俺に言った。
「それはこっちの台詞だよー進にぃー」
グイグイと後ろから密着される事による
女性特有のいい匂いに天にも昇る気持ちになるが、
体は徐々に限界を迎えていく。
「いたたたっ!ちょっ!桜ちゃんギブギブっ!」
フリーの手で桜ちゃんへタップし、
ようやく俺の体は解放された。
先ほど整えたはずの呼吸は余計に乱れ、
さらに体にはヒリヒリとした痛みが加わる。
なんとか視線をあげると
相変わらず華奢な体の桜ちゃんと、
こちらを警戒しながら桜ちゃんに寄り添う
二人の子供がいた。
どこかで見たことある二人ではあるが
それよりも桜ちゃんが気になる俺は一息つくと
「桜ちゃん、久しぶり」
「うん、進にぃも元気そうだね♪」
昔と変わらない元気な笑顔でまた俺を迎えてくれた。
GWも終わりましたねー
結局出かける事も少なく、小説も読み切る事が出来ず
中途半端に過ごしてしまい……
楽天の応援だけは欠かしませんでした(笑)
ここまでお読み頂きありがとうございます。