第03話
いつもの放課後、とは違う様子が目の前に広がっていた。
私、五十嵐 五月は普段通り帰り支度を終え、
部活へ向かおうとした矢先真剣な桜のまなざしに遮られた。
その横ではバツが悪そうな紗英の姿も。
私の友人で良き理解者でもある二人、
赤西 桜と柊 紗英。
今日も笑って分かれるはずだった光景は、
しかし彼女らの表情と一言で全く違うものになった。
「五月、今週末暇だよね」
確認するように問われる。
それはつい2、3日前にも伝えたことだ。
部活の顧問でもあり指導者でもある上田先生が週末不在になる。
学校の規則で顧問及び指導者不在時には部活は出来ない。
そのため、久々に週末は遊べるとの話しをしたのだが
「暇だけど……二人とも忙しくなりそうだから無理だって言ってたよね?」
ここに来て二人とも暇が出来たのだろうか?
ふと、頭の中で浮かぶがそれはすぐに否定される。
なぜならあまりにも神妙な面持ちな二人だったから。
場を明るくさせる話題をふりまく桜。
それを咎めながらも微笑む紗英。
いつものやり取りはなく、ただただ私の顔を見、
視線で合図するように頷きあうと、
ゆっくりと二人から言葉が漏れてきた。
「大変言いにくいのですが……」
「五月、お店手伝ってくれない?」
「へー紗英ちゃんの家ってお菓子屋さんなんだー」
ゴソゴソと部室の資料を漁りながら、
雫先輩が私の話に耳を傾けてくれる。
今日は久々に部活へ顔を出してくれた雫先輩。
あの日、私の失恋から雫先輩は変わらずに、
むしろよりより積極的に接してくれている。
だから私も以前にも増して雫先輩と言葉を交わす機会があり、
「そうなんですよーだ・か・ら・雫先輩も……えい♪」
「わきゃーっ!」
スキだらけな背中めがけて体を密着させると自然と、
胸に私の手がジャストフィットする。
いつものスキンシップが気軽に行え私の心が癒される。
「もうー五月ちゃんはっ!」
そんな様子に不服そうに顔を膨らませ抗議する雫先輩。
だが、その姿は私の心に欲望を滾らせる。
「あー先輩か・わ・い・い♪」
「あぁんちょっとー」
力を強めた手に心地よい感触を堪能し、
幸せと頃合いを見て一度離れる。
ただしニコニコと笑顔を絶やさない事は忘れない。
そうする事で雫先輩は私を恨めしそうに見つめながらも、
「本当にこの後輩は……」
あきらめも混じった吐息を漏らし、微笑返してくれる。
雫先輩も私とのこのスキンシップはまんざらでもないらしく、
今ではちゃんと時と場所を選んでやるなら、と許しを得ている。
……実際昔と今とで大差無いのは内緒だが。
そんな雫先輩がやっぱり私は好きだなーと思いつつ、
「だから雫先輩もお手伝いにきませんか?」
今一度お誘いをかけてみる。
実は雫先輩は桜と紗英の二人の事も今は知っている。
最初は私の友人と言うことで二人を紹介したが、
いつの間にかそこそこ連絡を取る仲になったらしい、
私に黙って。
どんな話をしているのかは現在でも分からずじまいで、
そんな様子にちょっと嫉妬してしまう。
だが桜と紗英にも雫先輩と仲良くなって欲しかった。
私の愛した先輩を知って欲しかった。
だから結果オーライかなと最近になって、
思えるようになったが、絶対にそれは言えなかった。
言ったらきっと桜と紗英に笑われてしまうから。
そんな二人からのお願いについて雫先輩は真剣に思案しながら、
「週末かー、ちょっと用事があるんだよねー」
残念そうに答える。
でも私は見逃さなかった。
伊達に雫先輩を見てきた訳じゃない。
顔に隠れるどこか嬉しげ表情を確認し、
私の感が冴える。
「ははーん……さては安藤先輩と……」
「ち、違うよっ!雄一が偶々チケットもらったからって……あっ」
私のニヤニヤに気づいたのか顔を真っ赤にしながらうつむき
自分の失言を悔いながら私をにらみつける。
正直、自業自得なのだが、
それを言うと少々かわいそうな事になりそうなので、
素直にここは引き下がる。
「まぁ楽しんできてくださいね、デート」
「あっ……うん♪」
まるでひまわりが咲いたかのような明るく眩しい笑顔。
それは私が大好きな笑顔で今でもちょっと心が痛む。
昔の私ならきっとそれを感づかれないように、
飾った笑顔で応えていただろう。
でも今は何の曇りもなく笑えている。
否、心から笑っている、それだけで十分。
だから私はそれを気取られないようにするため、
部室に謎の叫びを再び木霊させるのだった。
週1の更新で出すのもなかなか楽しいものですねー
……読者からしたら早く出せよって言われそうですがw
ここまでお読み頂きありがとうございます。