第18話
『クッ……どうしてこうなったのか……』
目の前でドリンクバーから持ってきた飲み物で
静かに一息つく五月。
ほっ、と漏れた吐息と姿に目を奪われつつ
状況を思い出す。
唐突のお誘いに断る術も理由もなかった。
無言で連行されたのは駅前にあるファミレス。
日曜の既に日も落ちかけていた事もあってか
テーブルにすぐ誘導された。
対面に座る五月に視線を合わせる事が出来ず、
どこかよそよそしくする進を尻目に
五月はテキパキとオーダーをする。
「とりあえずドリンクバー2つで」
やる気が無さそうな男性のウェイターが
申し訳程度の説明をしながら
どこか探るような視線を二人に向けていた。
あの人には恋人同士に……見えるわけ無いか。
どちらかと言えば訳ありな雰囲気を醸し出している二人に
興味を持った程度、な感じであった。
そんな事を進が思っている間に五月が立ち上がり
「遠藤先輩、私取ってきます、何がいいですか?」
「あっ、じゃあウーロン茶、で……」
言って失敗したなと思った進。
この場面、男の方がリードして取ってくるべきだろ、
心の中に表れたもう一人の自分に叱咤激励され
咄嗟に立ち上がろうとするがもう遅かった。
五月はさっさとドリンバーのコーナーに向かい
自分の分を含めたグラスに氷を準備していた。
その後ろ姿を確認し諦めた瞬間、
すかさず懐からスマホを取り出す。
ここに来る途中鳴った着信音。
きっとこの状況を仕組んだ野郎からだと確信していた。
果たしてそこには、
『どう?楽しんでる?』
「あの野郎……」
簡潔に書かれた文面に殺意しか沸かない。
ぶん投げそうになったどす黒い心をなんとか抑え
落ち着かせるように小さく深呼吸する進。
「……?大丈夫ですか、遠藤先輩?」
まるで機を見計らったようなタイミングで
五月が戻ってきていた。
一人座って冷静になろうとする姿に
違和感を覚えたのだろう、
少し心配してくれている口調だった。
それに慌てて問題ないことを伝え、
二人対面に座り無言のままドリンクを飲み始め、
『そして今に至る……と……』
来店して既に15分、
未だ相談したい事は出てこない。
ストローでドリンクを弄びながら外を眺めている五月。
どうにも絵になるそんな姿、
だがどこかタイミングを計っている様子であり、
さらに気になる人との二人きりという状況が
進を無言たらしめる。
そんな進が取れる行動はとても単純で滑稽だった。
落ち着かない表情で辺りを見回し、飲み物に手を取っては
中身を既に飲み干してた事を思い出しそのまま置く。
そして、また辺りの喧噪を見渡すという
無限ループを繰り返していた。
その落ち着かない進へ五月は何かを察し言葉をかける。
「……遠藤先輩、お代わりならどうぞ遠慮無く、」
「あっ、うん、今はいいかな……うん……」
そうですか、
五月は小首を傾げながら小さく呟やき無言に戻る。
視線はまた外へと戻し、何かを考えながら。
『いかんいかん!話題、話題を……』
間が持たない状況にいささかパニックになりながらも
共通の話題になりそうなネタを
懸命に脳内ネットワークで探る。
『雄一……はダメそうだ』
現状唯一の繋がりになりそうな人物だが
今日のやりとりを見た限り
あまり五月と雄一の関係は
よろしくなさそうだった。
理由は分からない、
だが話題に出しても五月が不機嫌、
もしくはすぐに話が途切れるのは目に見えていた。
『他には……陸上の事、はありきたり過ぎる!』
マネージャーだからある程度知識はあるだろうし、
今更な話に終わりそうで膨らむ未来は見えない。
『他には、他には……っ!』
そして唐突に思い出す、五月と会った場所と人物を
「そう、いえば、こないだはすいませんでした」
「あっ……えっと?」
唐突に謝り始めた進に困惑する五月。
その反応に慌てて手を振りながら進が説明する。
「あっ!あの、紗英さんのお店での事っ!……です、強めに振り払っちゃって」
「あっ、あーはい、いえこちらこそ」
天井を仰ぎながら返事をした五月は
別の事思い出していた。
あの時、からだ、
何となく紗英がよそよそしくなったのは。
その事で少し暗くなった気分を
隠すように笑顔で応える。
だが、当の進は五月がそんな事を思っていたとは露知らず、
謝れた事と話が出来たことで安堵する。
胸をなで下ろしながら
少し降ろした視線を再び五月へと向けると
丁度五月も進を見ていた。
二人の顔が合わさる。
ぱちくりとほぼ同時に瞬きをし、真顔に戻る。
全然違う顔なのにまるで鏡を見てるかのように
容易にそれぞれの顔が頭に浮かび、
それがとても可笑しくなり二人して小さく吹き出していた。
「なんで、ですかね」
「なんででしょう、ね」
同時に笑い出した事に二人して同じ疑問を感じ
互いに問うが理由が分かるはずもなく、
だが先程までのもどかしくギクシャクした雰囲気は
既に消え去り、場はとても和やかになっていた。
そして、それは五月にとっていいきっかけになった。
小さくよしっ!と呟き進をしっかり見据える。
この機会に、この場面しかない。
真っ直ぐな瞳に決意を宿し、
五月が話始めた。
「えっと、そうそう、相談したい事なんですけど」
「あっはい、どうぞ」
そうだった、
何か悩みがあるみたいでその話でここに来たのだ。
それを再度思い出し、促すように進が答える。
すると五月は居心地悪そうに体を少し揺すりながら
恐る恐る話始めた。
「実は……紗英と喧嘩してまして……」
最近夏とは思えない涼しさがちらほらあり、
体力的に助かってる作者です。
さて、今日はお知らせを一つ
来週(8月10日予定)の投稿ですが、作者都合でお休みとさせて頂きます。
楽しみにして頂いてる方には大変申し訳ないです。
世間では大体来週からお盆休み、ではありますが、
こちとら逆に忙しくなっちゃう、
という事でご理解頂けると助かります。
再来週にはちゃんと次話投稿予定ですので
そちらをお楽しみに頂ければ、と思います。
ここまでお読み頂きありがとうございます。